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第23回広州国際自動車展覧会(広州モーターショー2025)が11月21日〜30日の会期で開催された。上海・北京モーターショーと比べると規模は小さいが、広東省を地盤とするメーカーが多く、毎年“地元企業の動向”が注目されるイベントだ。
しかし今年は、例年に比べて明らかに縮小ムードが強く、世界初公開モデルは少なかった。BYDや吉利汽車など大手メーカーまでもが“静かな姿勢”に転じた一方で、逆に存在感を急速に高めたのが新興EVメーカーだった。
本稿(上編)では、中国メーカーの動向に焦点を当てて広州モーターショー2025を整理する。日本メーカーについては、下編であらためて紹介したい。
BYDなどの大手メーカーが異例の“消極姿勢”

広東省深圳市に本社を置く、新エネルギー車最大手のBYD(比亜迪)は、現在販売している車種の2026年モデルを発表するにとどまる。BYDと熾烈なハイブリッド開発競争を展開し、数多くのブランドを抱える吉利汽車(Geely Auto)もブース規模を縮小したのが意外だった。去年単独ブースで出展していた吉利傘下の「Rivian(リヴァン)」や「Smart(スマート)」は姿を見せず、また同じく傘下に収めた英「Lotus(ロータス)」は、同じ吉利の「Lynk & Co(リンク・アンド・コー)」のブースを間借りする形で出展した。
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海外メーカーに関しては毎回ショーに花を添えていた「ランボルギーニ」や「ベントレー」といった超高級ブランドも姿を消した。ただ、元から中国事業の業績が悪く、起死回生として中国専売EVを販売予定のHyundai(ヒョンデ)も昨年に続いて不参加なのはちょっと驚いた。
日本メーカーはトヨタ、日産、ホンダ、マツダが出展を行なったが、日産の高級ブランド「インフィニティ」は初めての不参加となった。乗用車と比べると小さいながらも用意されていた商用車展示ホールも、今回は完全に撤廃されたりと、例年とは異なる静かな広州モーターショーだった。
中国の新興EV勢が主役に
その中で、存在感を示したのが新興EVメーカーだ。
零跑汽車(Leap Motor、リープモーター)は一気に2車種の新モデルを世界初公開し、大きな話題を呼んだ。同社は2023年に世界的な自動車企業体「ステランティス」が株式の20%を取得したことで一気に開発を加速させ、欧州市場への展開も進めている状況だ。
リープモーターのブースのセンターを飾ったのは新たな小型純電動SUVの「A10」だ。全長4200 mm x 全幅1800 mm x 全高1600 mm、ホイールベース2600 mmというボディは同社がこれまで販売してきたどのSUVよりも小さいが、全体的なシルエットはどっしりと構えており、存在感も十分だ。欧州では「B03X」として販売予定で、プジョー e-2008やフィアット 600eといった電動SUVに対するライバルとなるだろう。

また、同社初となる全長5メートル級のフルサイズ高級SUV「D19」も同じ場所で発表された。D19は電気自動車(BEV)に加えて発電用エンジンを搭載する「レンジエクステンダー付きEV(EREV)」の二刀流で展開予定で、多くの中国メーカーが新モデル投入を進めるこのクラスにおけるプレゼンスを強めていく狙いだ。

小鵬汽車(XPeng Motors、シャオペン)からは初公開車種は登場しなかったが、2024年に発売した大型ミニバン「X9」の新モデルは注目を浴びた。
X9はこれまでBEVモデルのみだったものの、今回は新たに1.5ℓ直列4気筒ターボエンジンを発電用に搭載するEREVモデルが発表された形だ。EREVではBEVにあった四輪駆動は存在せず、出力281 hpの二輪駆動のみとなるので若干非力かもしれないが、エンジンと容量63.3 kWhのLFPバッテリーを組み合わせることで、電気のみで452 km、ガソリンと総合で1602 km(どちらもCLTC値)を走行するとしている。
蔚来汽車(NIO)は同社が初めてリリースした車種「ES8」の3代目モデルを展示した。2代目発表からわずか3年でフルモデルチェンジした背景には販売の低迷が挙げられ、ES8だけでなくNIO全体でシャオペンや理想汽車といったライバルの後塵を拝している状況だ。

販売台数で比較するとES8は月間1000台を下回っていた一方、同クラスのライバル「理想 L8」は毎月4000台前後を販売している。3代目ES8では新型プラットフォーム採用によって前世代より大幅にボディサイズを拡大、全長5280 mm(旧モデル比+181 mm) x 全幅2010 mm(+21 mm) x 全高1800 mm(+50 mm)、ホイールベース3130 mm(+60 mm)となった。ラインナップも整理し、これまで設定していたエントリーグレードを廃止、全グレードで容量102 kWhのNCMバッテリーを搭載しながらかつてのエントリーグレードよりも安い価格帯を実現した。
もちろん、NIOの特徴である交換ステーションでのバッテリースワップにも対応する。3代目ES8は2025年9月に販売し始めたが、11月末までにすでに2万台をデリバリーしており、さっそくフルモデルチェンジの効果が現れている。これが功を奏し、NIO本体と派生ブランド「楽道(ONVO)」「蛍火虫(firefly)」を合わせた25年11月の販売台数は前年比1.76倍の3万6275台を記録した。

同じく短期間のフルモデルチェンジで話題を呼んだのは、上海汽車(SAIC)傘下のイギリスブランド「MG」だ。コンパクトBEV「MG4 EV」は初代登場から3年しか経っていないものの、2025年8月には2代目モデルを発売した。
全長4395 mm(旧モデル比+108 mm)x 全幅1842 mm(+7 mm) x 全高1551 mm(+47 mm)、ホイールベース2750 mm(+45 mm)とボディを拡大し、駆動方式も後輪駆動と四輪駆動だった初代に対し、前輪駆動のみとなった。従来のクルマ作りからすれば3年前後でプラットフォームを一新させるフルモデルチェンジはあまりにも異例だが、中国では柔軟に市場の変化に合わせるべく、こうした旧モデルの損切りが顕著になっている印象だ。

同じ上海汽車ではファーウェイとの協業ブランド「尚界(Shangjie)」を2025年8月に立ちあげた。最初のモデル「H5」は15万9800元(約350万円)から買えるEREVで、5つ(問界、享界、尊界、智界、尚界)あるファーウェイ系自動車ブランドの中ではもっとも安い。
また、広州モーターショー2025では電動ブランド「IM」初のフルサイズSUV「LS9」を発表した。リープモーターのように流行りのボディスタイルへ参入した形だが、LS9では独自の目玉装備として車載シャワーが挙げられる。トランクには10ℓタンクとホース、シャワーヘッド、リアゲートにシャワーカーテンを装備しており、お湯さえ確保できれば短い時間ながらもシャワーを浴びられる仕様となる。一方でLS9はアウトドアというよりかはラグジュアリー方面に振ったSUVで、実際にこのシャワー機能をどれほどの消費者が欲しているかは未知数だ。

続きを読む:広州モーターショーが映す“存在感の差”ーー日本勢の攻防を追う(下編)
(文:中国車研究家 加藤ヒロト)
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