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中国の人型ロボット(ヒューマノイド)市場が急成長する中、早稲田大学出身の起業家が開発した触覚センサー技術が注目を集めている。人間並みの触覚センサーやロボットハンドを開発する、深圳発のスタートアップ「帕西尼感知科技(PaXini Tech)」を率いる許晋誠CEO(冒頭写真)は、同大学の菅野重樹研究室で人型ロボットと高精度触覚センサーを研究し、博士号を取得した後、2021年に中国で起業した。
菅野研究室は、世界初の人間を支援する共存型ロボット「TWENDY-ONE」を開発したことで知られ、日本の人型ロボット研究の中心的存在だ。許CEOは同研究室で培った技術を基盤に、ロボットに「人間のような触覚」を与える革新的なセンサー技術を開発した。
「触覚技術を持つ企業は少ない」と許CEOは語る。ほとんど代替が利かない技術として、ロボット分野で先行する米中のみならず、日本やドイツなどの大手企業から引っ張りだこになっており、世界を席巻している。中国自動車大手の比亜迪(BYD)が出資し、最大株主となっている。
触覚による圧倒的な差別化
PaXiniの核心技術は、6軸ホールアレイ方式の触覚センサーだ。この技術により、ロボットは圧力、摩擦力、温度、材質など15種類の物理情報を同時に検知でき、0.01ニュートンという微小な力の変化も捉えることができる。
実際、ソニーや中国のスマートフォン大手vivoといった大手企業も取り組んでいるが、3年ほど前から技術に大きな変化は起きていないとの見方を示した。
PaXini独走の理由は集中投資にある。半導体技術を基盤とするセンサー開発に年間約2000万元(約4億4000万円)を投じて、継続的な技術革新を遂げている。「大企業では、こうした先端技術の開発部門が経営層の理解をなかなか得にくく、十分な資金配分を受けられない」と許CEOは指摘する。触覚センサーに投資資金を傾斜配分して、ロボット市場で存在感を持つ企業に成長し、ニッチ分野でトップを走る戦略に成功した。
中国のコスト優位性
中国で製造するコスト優位性が、PaXiniの製品競争力の源泉となっている。現在、同社は4本指ロボットハンド「DexH13」(約2000個の触覚センサー搭載)、人型ロボット「TORA-ONE」(全身53自由度、身長146〜186cm可変)などを展開している。天津に建設したデータ収集工場では、エンボディドAI(身体性を持つ人工知能)のトレーニングデータを年間2億件生成できる体制を整えている。
東京都内で開かれた国際ロボット展(iREX 2025)ではTORA-ONEがアイスクリームの提供を実演したほか、多くの触覚技術などが公開された。

許CEOは「中国の人型ロボット企業が日本市場でも圧倒的な強さを発揮できる」と語った。中国では2025年に人型ロボット分野への投資額が1000億元(約2兆円)に達する一方、日本企業の投資は慎重だと指摘する。
例えば、許CEOの師の1人の早稲田大学の高西淳夫教授らが立ち上げた「京都ヒューマノイド(Kyoha)」は全て日本国内産の部品での人型ロボット製造を目指すが、コスト上昇は避けられない。川崎重工業も人型ロボットを開発しているが、いまだ量産化までは至っていない。「中国では最も安い人型ロボットが20万円程度で購入できる」と語った。

日本の3つの可能性
許CEOは、日本のロボット市場には3つの大きな需要を生むチャンスがあると見ている。
1つ目は、介護・看護分野だ。高齢化と深刻な労働力不足に対応するため、介護ロボットの需要が期待できる。
2つ目は、 サービス業・製造業の労働力代替である。中国企業「普渡科技(Pudu Robotics)」などが手がける配膳ロボットや、自動車工場での組立作業向けロボットは、求人難への対応策として活用が進む可能性がある。
3つ目は、エンターテインメント分野だ。「これは日本の強みを生かせる分野になり得る」と許CEOは強調する。晩婚化、非婚化が進む日本では、家族のような高度に擬人化されたロボットへの需要が見込まれる。シリコン素材を使った極めて人間に近い外観のロボットも生み出されてきており、価格は500万円でも市場があると指摘した。
許CEOは「こうした分野の高付加価値製品で日本は優れている。アニメや漫画など日本が得意とする分野で可能性がある」と語る。
一方で、こうした分野の完成ロボット製造にPaXini自身が参入する可能性について尋ねると「PaXinには、こうした分野をやるDNAがない」と苦笑した。あくまで触覚技術や産業用途、接客用途など硬派な基盤技術の開発に力を入れていく方針を示した。

BYDとの戦略的提携
PaXiniの最大株主のBYDは2025年6月に1億元(約20億円)以上を出資し、自社の製造スマート化と将来の人型ロボット活用を見据えた戦略的提携を結んだ。
現在、PaXiniはBYDの車載部品用センサーの開発も進めているが、車載グレードの認証には最低1年を要する。「99.99%の信頼性が求められ、故障は許されない」と許CEOは語る。
日本の自動車メーカーとも協議中で、実験と改良を重ねる共同開発の段階にあるという。
2026年、日本市場への本格進出

この2日間の展示会でも、日韓など多数の大手企業の幹部らがPaXiniのブースを訪れ、触覚センサーに関する具体的な打診も相次いだという。「私は日中韓すべての市場をよく理解している。これら3つの市場すべてに精通している数少ない人間だ」と許CEOは語る。
PaXiniは2026年、日本市場への本格参入を計画している。早稲田大の卒業生としての悲願の達成となる。コア技術としての触覚センサー供給から、完成品の人型ロボット提供まで、幅広いニーズに対応する構えだ。
日本企業は技術力では依然として高い水準を保っているが、コストと開発速度で中国勢に後れを取りつつある。しかし、高付加価値市場やアニメなど日本独自の強みのある分野を応用すれば、まだ十分な勝機は残されていると語る。PaXiniとの協業も、日本にとっては「時間を買う」一つの選択肢になりそうだ。
*1元=約22円で計算しています。
(取材・36Kr Japan編集部)
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