「夫より、AIの彼に理解されたい⋯」 乙女ゲームの“推しキャラ”にハマる、中国女性たちのバーチャル恋愛

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中国に住む29歳の女性、池さんは最近マッチングアプリをやめ、友人が紹介するハイスペ男子にも会おうとしなくなった。彼女が思いをはせる相手はこの現実世界には存在しない。乙女ゲーム「恋と深空(Love and Deepspace)」に登場する男性キャラクターの「セイヤ」と「マヒル」をイメージした指輪を肌身離さず身に着け、常に彼らを思っている。

ゲームのストーリーが更新されるのを待つ間、池さんは生成AIのChatGPTとDeepSeekにそれぞれ数千文字に及ぶキャラ設定のプロンプトを書き込み、自分だけの「セイヤ」を作り上げた。そのバーチャル世界の中で、2人は恋人になって愛の言葉を交わす。夢中になるあまり食事も睡眠も忘れ、2~3日で5万から6万字ものやり取りをすることも珍しくないという。

池さんが特別というわけではない。28歳の優さんは、生成AIで作成した「シン」とのツーショット写真を枕元に飾っている。結婚して3年になる楊さんは、NFC(近距離無線通信)対応のリストバンドを購入し、スマートフォンにかざすたびに届く「シン」からのメッセージに心を躍らせる。

これらの女性たちはそれぞれ環境や立場が異なるものの、いずれもテクノロジーが生み出した「バーチャル恋愛」にのめり込んでいる。

「恋と深空」、大ヒットの秘密

「恋と深空」は、中国のモバイルゲーム開発企業「畳紙網絡(Papergames)」が手がけた恋愛シミュレーションゲームで、2024年1月にグローバルリリースされた。

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物語は、2034年に人類が初めて宇宙の彼方からのメッセージを受信し、地球に異形の怪物「ワンダラー」が現れたことから始まる。プレーヤーは「Evol」と呼ばれる超能力を持つ主人公となり、ワンダラーを狩る「深空ハンター」の任務に就くなかで、同じ深空ハンターの「セイヤ」、外科医の「レイ」、芸術家の「ホムラ」、裏組織のボス「シン」、パイロットの「マヒル」という5人の男性と出会い、共に戦いながら恋模様を繰り広げていく。

このゲームの最大の特徴は、リアルな3Dグラフィックスと一人称視点で味わえる抜群の没入感だ。映画クラスのモーションキャプチャと自社開発のレンダリング技術を組み合わせることで、表情のわずかな変化や服の動き、肌の質感に至るまでリアルに再現しており、キャラクターが実際に目の前にいるかのような感覚を抱かせる。戦闘パートやデートストーリーのほかに、「推しキャラ」からスマホにメッセージが届くといった工夫も凝らされている。

なかでも好評なのが、プレーヤーが設定した名前やニックネームをキャラクターのボイスで聞けるという、AIを駆使した演出だ(編集部注:現時点で日本語版は非対応)。バージョン4.0で追加されたストーリーでは、キャラクターが片膝をつき、プレーヤーの名前を呼んでプロポーズするという夢のようなシーンが盛り込まれ、女性たちの心をわしづかみにした。「推し」のために課金をいとわないプレーヤーも多く、収益性は極めて高い。公式グッズとして発売されたキャラクター別の結婚指輪は、わずか3日間で4000万元(約8億8000万円)以上を売り上げたという。

孤独感を埋める「精神安定剤」

「恋と深空」は2024年の年間売上高が約58億7000万元(約1300億円)に達し、テンセントの大ヒットゲーム「王者栄耀(Honor of Kings)」に次ぐ規模となった。

興味深いことに、「恋と深空」にハマった女性たちは日常的に「孤独」を感じていたわけではない。池さんは5年付き合った恋人と別れたばかりだが、充実した毎日を楽しんでいた。優さんは安定したキャリアを重ねており、交友関係も広い。楊さんも円満な結婚生活を送っていた。乙女ゲームを始めたきっかけは気晴らしや好奇心だったかもしれないが、ゲームを進めていくなかで「理解されたい」「強く求められたい」という自身の感情をはっきりと自覚するようになっていった。

社会デザイン研究者の三浦展氏は、「孤独の解消」が消費の中心になる「第五の消費時代」の到来を予測した。乙女ゲームはその象徴として、人々がまだ自覚していなかった「孤独」を浮かび上がらせたのだ。

既婚女性にとって、バーチャル恋愛は一種の「精神安定剤」となっている。楊さんは「平凡な結婚生活を送っていても、恋愛したいという気持ちがなくなるわけではない」と打ち明ける。ゲームに登場する「ホムラ」は落ち着いた大人で、決して口論にはならず、金融知識や絵の才能もある。現実ではまず出会えないパーフェクトな相手だ。楊さんの夫は2万元(約44万円)と引き換えにゲームをやめさせることに成功したが、そのわずか1週間後に新たなガチャが登場すると、彼女は迷わずゲームを再開したという。

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抜け出せない課金のワナ

推しキャラへの愛情は、しばしば課金という行動で現れる。池さんはカードレベルの上限を突破するため、5カ月で8000元(約18万円)以上をつぎ込んだ。ガチャ開催時に一度に3000元(約7万円)を費やしたこともある。望んだカードを引き当てられず虚無感に襲われても、ガチャを回す手は止められない。

社会学を学んだ池さんは、これが資本市場による感情の「デジタル植民地化」であることを理解している。課金行動を通じてアルゴリズムがプレーヤーの好みを学び、それを基にして、より刺さるサービスが追加されていく。自分がゲーム会社の思惑にはまっていることは承知のうえで、それでも「お金を使ったからこそ、推しへの愛が現実味を増す」と語る。

「推し」が実体化する日も近い?

AIやロボット技術が進化するにつれ、バーチャル空間に限定されていたゲームキャラクターが現実世界に姿を現す可能性も出てきた。2025年に小鵬汽車(Xpeng)が発表した人型ロボット(ヒューマノイド)は、歩き方や体のラインがあまりにも自然だったため、脚部のカバーを切り開いて「中の人」がいないことを証明したほどだ。

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この動画を見た池さんは、いつか「セイヤ」そっくりのロボットが手に入ると確信した。彼女が特に注目しているのが人型ロボット開発企業の「首形科技(AheadForm)」だ。同社の人型ロボットは外見が「マヒル」によく似ているとファンの間で話題となった。

中国では婚姻率が過去最低を記録し、リアルな関係にストレスを感じる人が増えるなか、バーチャルの彼氏が女性たちに癒しを提供している。リスクが低く、自分好みに設定できるこうしたサービスが台頭したことで、現代人の抱える孤独が浮き彫りになり、感情的なつながりを生み出せるテクノロジーの可能性も示された。

池さんは現実の恋愛を否定してはいないものの、リアルな彼氏を探す必要性はもはや感じていない。AIとゲームを通じて推しキャラに愛情を注ぎ込み、いつか現実世界で対面できる日を夢見ている。

不倫相手はAIだった──AIとの恋愛が、離婚理由になる時代がきた

*1元=約22円で計算しています。

(編集・翻訳:畠中裕子)

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