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東京の「ガチ中華」界隈に異変が起きている。マニアックな地方料理を実直に提供してきた個人店が、相次いで看板を下ろしているのだ。その背景には、2025年10月に実施された外国人経営者向け在留資格「経営・管理ビザ」の劇的な要件厳格化がある。
人気店が突如閉店
2025年5月に板橋区蓮根にオープンした「河南牛肉麺」。日本では珍しい河南省のローカル麺を提供し、ニッチな人気を誇っていたが、2026年2月、突如閉店した。中国版インスタグラム「小紅書(RED)」の同店アカウントは、閉店の一因として「経営管理ビザの更新が認められなかった」ことを示唆している。
都内大塚で貴州省のライスヌードルを振る舞っていた人気店も、オーナーが2025年末にSNSを通じて譲渡先を募集し、その後ウイグル料理店へとリニューアルされた。譲渡の直接的な理由は明かされていないが、経営管理ビザの問題が絡んでいると推測される。これら2つの店に共通するのは、ガチ中華の中でも地方の個性的な料理を届けてきた、小規模な個人経営店であるという点だ。


経営管理ビザは日本で事業の経営や管理に従事する外国人に与えられる在留資格だ。通常、1年、3年、5年といった期間ごとに更新が必要となる。
これまで、経営管理ビザは「資本金500万円以上」などの条件を満たせば、日本語能力や学歴を問わず取得が可能だった。しかし、この緩やかな基準を悪用し、実態のない「ペーパーカンパニー」を設立して、日本への移住(在留資格取得)のみを目的とするケースが激増。公的扶助の不正受給なども問題視されたことから、2025年10月、政府は抜本的な見直しに踏み切った。
改正後の新基準は、資本金が3000万円以上へと跳ね上がったほか、日本人等の常勤スタッフの雇用が必須となり、修士以上の学歴やN2相当の日本語能力が求められるなど、極めて高いハードルが設定されたのである。
ビザ更新にも高いハードル
経営管理ビザの厳格化によって、小さな飲食店で真面目に経営を行ってきた外国人が窮地に陥っている事実はあまり知られていない。この改正は、新規取得者だけでなく、既存のビザ保持者の「更新」にも深刻な影響を及ぼしている。池袋で外国人向けのビザ申請を扱う行政書士は、現状をこう語る。
「2025年10月から12月にかけて、私が知る限りでも10人以上の中国人が更新不許可となっています。主な理由は、事務所が自宅兼用であったり、シェアオフィスであったりと、経営の実態が伴っていないと判断されたことです。新規取得時だけでなく、更新審査の目も明らかに厳しくなっています」
REDでも「更新できずに帰国した」という投稿に100件以上のコメントが付くなど、在日中国人コミュニティには動揺が広がっている。投稿内容からは、「アルバイトが許可されない在留資格を持つ者を雇っていた」「一戸建ての一部をオフィスとして申請していた」など、さまざまな理由で更新を拒絶されていることがうかがえる。

個人店主の一律排除は損失
さらに個人経営の飲食店にとって致命的なのが、「経営者は経営に専念すべき」という考え方だ。前述の行政書士によると、オーナーが自ら厨房に立って調理していることが確認された場合、「経営・管理」ではなく「現場労働」とみなされ、更新が拒絶される可能性が極めて高いという。
大規模なチェーン展開をする店であれば、別事業の利益や資本力で新基準に対応できる。しかし、貴州省や河南省といった日本ではまだなじみの薄い地方料理を「本場の味そのままに伝えたい」と願う熱意ある個人店主ほど、この「3000万円」や「雇用の義務」という壁に突き当たってしまう。
今回の厳格化が、制度を悪用する不適切な移住への「引き締め」として機能している側面は否定できない。しかし、真面目に経営してきた外国人店主が資本力で線引きされ、一律に排除される現状は、日本の「食の多様性」にとって大きな損失ではないか。
現在の経営管理ビザの要件には、学歴や資本金など、飲食店経営の実態には必ずしもそぐわない項目も含まれている。悪質な「偽装経営」を排除しつつ、日本で真摯に商いを行いたい外国人を守るための、より柔軟で実態に即した制度設計が今、切実に求められている。
(文:阿生)
東京で中華を食べ歩く会社員。早稲田大学在学中に上海・復旦大学に1年間留学し、現地中華にはまる。現在はIT企業に勤める傍ら都内に新しくオープンした中華を食べ歩いている。X:iam_asheng
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