写真は平面、動画は時間、次は空間 中国「KIRI」が挑む3D記録の日常化
3Dスキャン・モデリング技術を手がける中国発スタートアップ「KIRI Innovations(麒砺創新)」はこのほど、シリーズAで資金を調達し、調達額が累計で数億元(数十億円)に達した。出資には、ファーウェイ(華為技術)傘下の哈勃科技投資(Hubble Technology Investment)をはじめ、東方証券資本投資(Orient Securities Capital)や同創偉業(Cowin Capital)、君科丹木、力合金控(Leaguer Financial)、深圳高新投(Shenzhen High-tech Investment)、合世家資本、三七互娯(37 Interactive Entertainment)などが参加した。今回調達した資金は、3Dモデリングのハードルを下げることや解像度の向上、4D動態スキャニング技術の模索、市場開拓などに充てられる。
KIRIは2021年に3Dスキャニング技術の開発に着手し、現在は一般消費者向けの3D空間記録アプリ「Remy」と、プロユーザーやビジネス用途向けの「KIRI Engine」という2種類の製品ラインを展開している。
両製品はターゲットとするユーザーこそ異なるが、現実世界の物体や空間を、撮影した画像や動画から立体的に再現するという目的は共通している。KIRI Engineがモデルの精度やパラメータ、編集能力を重視する一方で、Remyは3Dモデリングのハードルを下げ、一般ユーザーもスマートフォンで手軽に利用できるようにしている。
プロ向けで磨いた3D技術を、スマホの日常へ
同社初の製品であるKIRI Engineは、主に海外のプロユーザーを対象として、2022年にリリースされた。これまでに200万人以上のプロの3Dクリエイターが、3Dプリンティング、ゲーム開発、映像の特殊効果などに活用しているという。
そして、この1年ほど力を入れている一般ユーザー向けのサービスがRemyだ。2025年10月にファーウェイの独自OS「鴻蒙(HarmonyOS)」でリリースされた。KIRI創業者の王正男CEOによると、Remyはリリースから9日間で100万ダウンロードを突破し、累計ユーザー数は約280万人、月間アクティブユーザー数(MAU)は70万人に迫るという。
Remyの使い方はとても簡単で、スマホの画面に表示されるAR(拡張現実)のガイドに従って人や物、空間の動画を撮影するだけで、クラウド上で3Dモデリングが完了する。完成した3Dモデルはあらゆる角度から見たり、拡大・縮小したりできるほか、一人称視点に切り替えて空間内を移動でき、現場の音声も一緒に保存される。

Remyは今年、映像機器メーカーの影石創新科技(Insta360)と提携した。影石創新の360度アクションカメラ「Insta360」専用アプリでは、アクションカメラで撮影した動画をそのまま3D空間に変換することができる。そこに両社が共同開発した3Dモデリング技術が採用されている。スマホは単一方向からしか撮影できないが、360度カメラは周囲を一度に記録できるため、広い空間を再現する際に撮影漏れを減らすことができる。今回の提携で、これまで専用ソフトと高性能PCを必要としていた処理が大幅に自動化された。
生成AI時代、3Dの価値は「制作」から「記録」へ
Remyを短期間でリリースできたのは、KIRI Engineの開発で培ってきた技術力によるところが大きい。両製品ともに3Dガウシアン・スプラッティング(3D Gaussian Splatting、3DGS)技術が採用されている。これは色、サイズ、透明度などの属性を持つぼんやりした粒の集合で空間を描写するもので、複雑な光と影、ディテールの再現性に優れ、一般的な写真や動画から極めてリアルな3D空間を瞬時に生成することが可能だ。
ところが、生成AIの急速な発展により、3Dモデリング分野に変化が生じつつある。
これまでゲームや映画業界では現実の物体をスキャンして大量の3D素材を作成する必要があった。しかしAIを使った3Dモデル生成の性能が向上するにつれ、現実世界を忠実に再現する必要のない3D素材は、今後ますます生成AIが担うようになる、と王CEOはみている。一方、実在の人や物、空間の情報をそのまま残す必要がある場合は、生成AIで代替するのは難しい。
こうした変化を受け、KIRIは3Dモデリングの役割を「3Dモデルの制作」から「現実の記録」へと広げ始めた。写真は平面を記録し、動画は時間の変化を記録する。KIRIはその一歩先を目指し、ユーザーがRemyを使って3D空間を記録し、自由に視点を動かしたり移動したりできるようにしたいと考えている。
しかし、日常を3D空間として記録するという概念を一般ユーザーに普及させるには、利用のハードルをさらに下げる必要がある。現状では、対象の周囲を回りながら撮影し、クラウド上でモデリングが完了するまで数分間待たなければならない。王CEOは、今後は撮影や処理の工程を短縮し、写真や動画を撮影するように手軽に3Dコンテンツを作成できるようにしたいと語った。
*1元=約23円で計算しています。
(翻訳・36Kr Japan編集部)