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人工知能(AI)による超音波診断支援システムの開発を手掛ける「上海深至辛信域科技(Shenzhi Technology)」(以下、深至科技)がこのほど、シリーズAで数千万元(数億円)を調達した。同社は今後、キーテクノロジーのイノベーションを加速。AIによる超音波診断システムを地域医療機関にも普及させるとともに、適用疾患の種類を増やし、中国国家薬品監督管理局が「医療機器監督管理条例」で定める第3類医療機器の認証取得を目指す方針としている。
深至科技は2018年末、ポータブル型超音波診断装置の開発を手掛ける「成都思多科医療(Chengdu Stork Healthcare)」の支援を受けて設立された。すでに10以上の診療科目にわたる約30種類の疾患に関する画像情報をデータベース化している。同社が開発したAIによる超音波診断支援システムは現在、甲状腺や乳腺、頸動脈プラーク、肝臓、骨盤底の他、神経科・整形外科領域の疾患を含む20種類以上の疾患の診断補助が可能となっている。
深至科技は、超音波診断装置のハードウエアをはじめAIシステムやICチップ、クラウドコンピューティングなどの分野で国内外50以上の特許を取得。複数の医療機器メーカーや健康診断サービス大手の「美年大健康(Meinian Onehealth Healthcare)」と提携するなど、AIによる超音波診断支援システムの商業化と量産化に成功している。
同社パートナー、張卓氏は、このニッチな分野に参入した主な理由として、クリニックなど地域医療機関の診断能力不足という現実的な問題の解決を挙げ、そのためにAIを応用したポータブル・スマート・低コストの超音波診断装置を開発しようと考えたと述べている。また、CT(コンピューター断層撮影)装置などの臨床用大型画像装置よりも安価な超音波診断装置(ポータブル型はさらに低価格)ならば、地域医療機関に広く設置される可能性が高いとの考えを示している。
CTやマンモグラフィなどの画像診断装置へのAI活用は普及しているが、超音波診断装置へのAI活用には技術的に高い壁があるため、この分野に参入する企業は少ない。深至科技は、この市場の空白を埋めようとしている。ちなみに、米国では食品医薬品局(FDA)が今年2月、AIによる超音波画像撮影補助システムを初承認した。
張氏は、超音波診断装置へのAI活用には次のような課題があると指摘している。
超音波画像は動的である上に、光学画像に比べると解像度が低い。超音波診断には即時性が求められ、画像を後から処理するわけではないため、AIによる解像度の向上が課題となる。また、CTやMRI(磁気共鳴断層撮影装置)では基準となる断面が設定されているのに対し、超音波診断装置では断面の取得が医師の裁量によるため、高い操作技術が求められる。従って、AIによる超音波診断補助にも非常に高いレベルが要求されることになる。
深至科技は、AIによる画質向上を図っている。ビッグデータのディープラーニングを利用し、解像度の低い初期画像を処理。画質の最適化を行い、AIによる患部画像の分割と計測を実現した。また、利用される場面を想定し、地域医療機関の医師のために超音波診断装置の操作を標準化するシステムを構築した。診断補助ソフトはWiFiに接続した状態でもオフラインでも使用可能で、ポータブルまたは固定型の診断装置のほか、対応する演算機器にも外付けできる。
AIによる超音波診断支援システムが地域医療機関にまで普及すれば、医療機関ごとの医療水準の差によって生じる医療資源配分の不均衡を緩和するのに役立つだろう。同システムの市場も、既存の超音波診断装置市場を超えて、地域医療機関や多くの臨床部門へと広がるに違いない。
最後に、深至科技の技術的バックグラウンドを紹介しておこう。同社の開発チームには米国のハーバード大学やマサチューセッツ工科大学(MIT)、コロンビア大学、カリフォルニア大学、中国の清華大学、北京大学、復旦大学、上海交通大学などで博士号を取得した人材が在籍している。専門分野もAIや超音波装置のソフト・ハードウエア、医学など多岐にわたる。同社パートナーの張氏も、上海交通大学で臨床医学を専攻し、超音波科の医師として10年以上超音波診断に携わった人物だ。
(翻訳・田村広子)
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