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20数年前にモルガン・スタンレーのアジア事業責任者だったJack Wadsworth氏は中国を「次の大仕事」と表現した。その後に中国の投資銀行「中国国際金融(CICC)」と結んだ世紀の提携において、当初の戦略提携パートナーだったモルガン・スタンレーが次第に単なる投資家へと役割を変え、最終的に関係を解消することになろうとは、当時は想像もしなかっただろう。
先駆者となったモルガン・スタンレーの後に続き、中国市場へ参入した外資系投資銀行も同じような運命をたどった。外資という「狼」は来たが、獰猛ではなく、おとなしいとみなされたのだ。
その原因はいくつもある。外資系投資銀行が現地の風土になじめなかったほか、中国政府の規制も受けた。しかし、その状況にも変化が訪れようとしている。
中国証券監督管理委員会(CSRC)が発表したスケジュールによると、今年12月1日付けで、外資系証券会社の合弁会社に対する持株比率の上限が現行の51%から100%に拡大され、証券会社の持株比率規制は撤廃される。外資系投資銀行は、支配株主となるだけでなく、中国で独資の子会社を設立することも可能となる。
外資系投資銀行は、このニュースを聞きつけて動き出した。
ゴールドマン・サックス、UBS、JPモルガン・チェース、野村證券などは、事業所の拡張や人員の増強、新規事業を進める方針を発表した。JPモルガン・チェースのジェームズ・ダイモンCEOは「全精力」を中国に注ぐと表明。ゴールドマン・サックスは向こう5年以内に中国人従業員を600人に倍増させる計画を明らかにすると共に、合弁証券会社の高盛高華(GSGH)に対する持株比率を33%から51%に引き上げる申請をCSRCに行い、順調にいけば年末に支配株主となる見通しだ。
中国人が保有する莫大な投資可能資産を狙う
大手投資銀行は、従来の投資銀行事業に加え、アセットマネジメントやウェルスマネジメントといった事業も手掛けている。モルガン・スタンレーは2008年の金融危機後、ウェルスマネジメント事業へのシフトを進め、2018年に同事業の売上高は全体の42%に達した。36Krの調べによると、中国事業の拡張を計画する外資系投資銀行はこうした事業に大きく注目している。
ゴールドマン・サックスアジア太平洋(日本除く)事業共同社長のTodd Leland氏はメディアの取材に対し、同社が中国で事業を拡張する際にはアセットマネジメント事業の「爆発的な」成長が後押しすると答えた。中国の個人が持つ莫大な投資可能資産に狙いを定め、「これまで人気だった担保付貸付が次第に淘汰され、顧客がキャッシュと不動産以外の資産を探すようになれば、投資の多様化が進む」との見方を示している。
業界を俯瞰すると、ウェルスマネジメントも確かに中国の投資銀行業界で大きな期待が持てる事業だ。招商銀行(CMB)が他の金融機関と共同で発表した「2019中国個人財産リポート」によれば、2018年時点で中国の富裕層は197万人、個人が保有する投資可能資産は190兆元(約2900兆円)に上った。
外資誘致と海外進出
この20年あまりを振り返ると、中国企業が海外で上場する際、ほぼ例外なく少なくとも1社の外資系投資銀行からサポートを受けている。上場する現地の政策に通じているほか、現地の資本市場を理解し、機関投資家との接触においても大きな力を持っているためだ。
実際に中国の金融機関は、海外市場という新しい分野に賭けている。現時点で、少なくとも7社に上る中国の証券会社がクロスボーダー事業の認可を受けた。例えば「華泰証券(HTSC)」は、2016年に香港の子会社を通じて米国トップクラスの総合アセットマネジメントプラットフォーム「AssetMark」を完全買収し、2019年7月にはニューヨーク市場に上場させている。
中国の証券・投資銀行業界にとって重要なのは、外資系投資銀行が中国でどの程度勢力を拡大するかだけでなく、国内証券会社の国際化がどれほど急速に進むかということだ。
中国の金融機関は、ゴールドマン・サックスのようなグローバル企業を目指している。しかし、中国最大の証券会社である「中信証券(CITIC Securities)」ですら、2017年の総資産はゴールドマン・サックスのわずか10.44%にとどまった。
それでも、中国の証券会社と投資銀行による海外進出は間違いなく進み、目標とするゴールドマン・サックスに近づいていくだろう。
(翻訳・神戸三四郎)
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