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昨年12月に米ナスダック取引所に上場した中国「億航(EHang)」は、ドローン企業のなかで最初の上場となったが、将来の目標はドローンだけではないようである。今年年初に発表した「都市空中交通システム白書」において、同社は自身を「空中交通企業」と位置づけし、ドローン世界最大手のDJIと異なり、主要業務を旅客ドローンなど自律型空中車両(有人AAV)にシフトしたことを印象づけた。
3年間で売上構成が激変
億航は2016年末頃から有人AAVへ重心をシフトしはじめ、2018年12月にAAVを「都市空中交通」として商用化し、2019年には当該事業が同社の売上高でもっとも高い比率を占めるようになった。
同社は2019年11月にIPO目論見書を提出。その内容及び上場後の財務レポートによると、2017〜2019年の間に売上構成は大きく変わり、過去の経営状況を今後の成長の参考にできないほどである。
同社の現時点での主要業務は、都市空中交通、スマートシティ管理、空中ディスプレイの3分野だ。億航の2019年度財務レポートによると、スマートシティ管理業務は特定の時期に集中しやすく、売上高が周期的に大きく変動する可能性が高い。空中ディスプレイはドローンを使ったメディア・アートの一種だが、技術的なハードルが低く、ほぼすべてのドローン企業が参入できる。実際億航の同業務の2019年の売上高は前年比で2%減少した。つまり、同社にとって現時点で安定した収益を期待できるのは都市空中交通しかないということになる。
転換は道半ば
都市空中交通には有人AAVと物流ドローンの2つがあり、億航は特に有人AAVの売上高に頼るところが大きい。しかし、有人AAVの商用化を許可している国はまだなく、現在販売されているAAVはテスト、訓練、展示用のものに限られ、今後持続的に販売できるかどうかはまだ不透明だ。
物流ドローンの展開も順調とは言えない。シンクタンクの「前瞻産業研究院(FORWARD Industry Institute)」が2018年に発表した「ドローン業界の現状と今後のトレンドについて」によると、ドローンに対するニーズは空撮と物流がもっとも多いが、物流で実用化するにはまだ技術が未熟である。この見方は2年後の今でも有効だと言える。
億航の目論見書では、スーパーマーケットチェーンの「永輝(Yonghui)」、国際輸送大手のDHLとの提携に言及したが、いずれも実質的な進展はない状態だ。
他社も含めて、現在公表されているドローンによる配送は実験的な段階を脱しておらず、航続距離、法規制といった課題はクリアされていない。これらは億航1社でどうにかなることではなく、同社にできるのは、都市空中交通に適した政策が整備されるまで、技術改善を続けることくらいしかない。
3年連続の赤字に耐えきれるか
億航は3年連続最終赤字で、純損失率は2017年の273.2%から39.4%に下がったが、その理由は売上高に占める開発費の比率が217%から47%に下がったためだ。同社の2019年の各種費用のうち、唯一下がった項目が開発費である。
このことについて億航は、2019年の財務レポートにおいて、フラグシップモデルの「億航216」の初期の開発を終え、商用化段階にシフトしたため、開発費が下がったと説明している。
「都市空中交通システム白書」によると、都市空中交通の分野において、億航はボーイング、エアバスなどの世界的な企業に先んじて商用化を実現できたという。逆に言えば、億航の現時点での売上高は、ライバルが本格的に参入していないがゆえに上げられたものである。
都市空中交通にはボーイング、エアバスのほか、テンセントが出資した「Lilium」、自動車メーカーの「吉利(Geely)」とダイムラーが出資した「Volocopter」、グーグルの創業者ラリー・ペイジ氏が出資した「Kitty Hawk」、Uberなども参入してきている。各社の製品が商用化されれば、競争はドローンの他の市場と同じくらい熾烈なものになるだろう。
億航は確かに都市空中交通で先行したが、マラソンレースは始まったばかりである。
(タイトル画像は億航の公式サイトより)
(翻訳:小六)
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