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昨年末、アリババが香港で再上場をしてから、その時価総額は一気に上がった。他社も同じご利益にあやかれないものかと考えるようになったようだ。
今月5日、「ネットイース(網易、NetEase)」が密かに香港での上場を目論んでいるとの報道がなされた。調達額は最高20億ドル(約300億円)、中国国際金融(中金公司、CICC)、クレディ・スイス、JPモルガンチェースなどが上場をサポートし、早ければ今年の下半期に株式発行になるなどの情報が流れたが、ネットイースはノーコメントとしている。
香港証券取引所の上場規定は、セカンダリー上場の条件を、(1)米国、英国で上場していること(2)時価総額が400億香港ドル(約5600億円)以上あることとしている。米国で上場する200以上の中国企業のうち、約20社が条件をクリアしているが、中でもネットイースの時価総額は434億800万米ドル(約4兆4500億円)と群を抜いている。
ネットイースのゲーム関連事業は、海外市場の開拓が必要だ。オンライン教育関連事業は成長しているものの、損失も大きく、血路を切り開く必要がある。そのいずれにも巨額の資金が必要なため、セカンダリー上場するとしてもうなずける。
引き金は海外上場株の危険信号?
最近、中国企業の海外上場株(「中国概念株」とも呼ばれる)に危険信号が出たことがネットイースのセカンダリー上場の引き金になったという声も聞かれる。
今年の4月2日、新興コーヒーチェーン「瑞幸珈琲(luckin coffee)」の22億元(約330億円)に上る不正会計が明るみに出た。それを受け、動画サービスの「愛奇芸(iQIYI)」やオンライン教育の「好未来(TAL)」「跟誰学(GSX Techedu)」などが相次いで空売りに遭い、市場は騒然となった。さらに同月23日には、米証券取引委員会が米国内で上場する中国企業株への投資に慎重であるよう呼びかけを行った。
中国の金融情報を扱う「WIND Information」の統計によれば、2005~2019年の間に米国から撤退した中国の銘柄は272で、現在上場中の銘柄数を超える。踏みとどまっている銘柄も、70%が発行価額を割っている。こうした流れを受け、体力のない銘柄は海外上場から撤退し、猛者たちはセカンダリー上場で窮境を切り抜けようとするに違いないと見る向きもある。
これに反対する意見もある。昨年11月にアリババが香港で再上場した際、京東やネットイースなどもそれに倣うだろうと囁かれたが、その時点では、中国企業の海外上場株による一連のスキャンダルはまだ生じていなかった。スキャンダルの影響があることは確かだが、ネットイースの株価自体は1カ月前とほとんど変わらない。堅実な中国銘柄に対する信頼は揺らいでいないのだ。
ネットイースが重視しているのは、リスクシェアリングでなく、資金調達による時価総額の増大だという声もある。資本市場で確たる地位と信頼を築き、次の戦略を進める資金を得ることがその狙いだ。
本業のゲームに本腰
調達した資金は本業のゲームに投入されるはずだ。
ネットイースの事業は、メールサービス、ゲーム、ポータルサイト、検索、EC、ソーシャルネットワーク、音楽、ライブ、電子書籍、漫画、ブログ、フォトブック、電子決済、ファイナンス、オンライン教育と広範に及ぶ。しかし、丁磊CEOが認めるように、手を広げ過ぎたようだ。丁氏は、一部の事業の撤退や売却など大鉈を振るうことにした。しかしそれでも大きな問題を抱える。本業のゲーム事業、中でもスマホゲームに陰りが見え始めているのだ。
2019年第4四半期の財務報告によれば、売上総利益率は52.2%と、前年同期比0.1ポイント減、前期比1.6ポイント減となった。ゲーム収入は116億元(約1740億円)で前年同期比5.3%増、前期比0.6%増と、総収入の73.7%を占めた。このうち、スマホゲーム収入は81.7億元で、前年同期比6.4%増、前期比0.2%減だった。一方、同四半期の中国のスマホゲーム事業全体の増加率は27.1%もあった。
天風証券研究所(TF International Securities)のレポートによると、ネットイースのスマホゲームの2019年第4四半期の市場シェアは16%と、2015年第2四半期以来最低となり、ピークだった29%から大きく凋落した。
中国のスマホゲーム市場には変化が生じつつあるのだ。中小のゲーム企業を取り込んだバイトダンス(字節跳動)がゲーム市場で頭角を表わした。ゲーム関連の分析会社「GameLook」の統計によれば、2018年の中国におけるスマホゲームのダウンロード料金は400億元(約6000億円)だが、そのうちバイトダンスが37.50%の150億元(約2300億円)を占めていた。
一方、テンセントのスマホゲーム市場のシェアは54~58%と変わらず安定しており、この2社の挟み撃ちに遭ったネットイースは苦戦している。これを打開するため、ネットイースは海外市場に目を向け始めた。日本では「荒野行動」「陰陽師」「Identity V(第五人格)」などが人気を博している。こうした海外市場開拓のために資本がどうしても必要となる。
援軍が急務なオンライン教育
ゲームだけでなく競争が激化するオンライン教育の分野も援軍を大いに必要としている。
この分野を非常に重視するのは丁磊CEOその人だ。傘下の「網易有道(NetEase Youdao)」の辞書アプリなどを通して教育分野で長年の経験を積み、膨大なユーザーも抱えているからだ。人気講師によるオンライン学習プラットフォームの構築、学習用タブレットやスマート翻訳機の開発などにより、差別化を図ろうとしている。
志は高いものの、オンライン学習事業はこれまで多大な投資を強いられている。網易有道は2019年第4四半期に、前年同期比78.4%増の4億1000万元(約62億円)という収入を計上してはいるが、純損失は2億570万元(約31億円)と前年同期の3倍にも膨らんだ。そんな中で新型コロナウィルスの流行が生じ、ここぞとばかりにさらなる事業拡大を図った。事業が好転するまでには辛抱強い投資を続ける必要がある。だが楊昭烜CFOによれば、会社にはその覚悟があるようだ。
ネットイースに新たな展開が見られるかどうか。それは時が明らかにするだろう。
(翻訳・近藤)
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