10年内にグーグルのような企業が中国から3、4社生まれる…中国のプロ経営者、陸奇氏のミッション(下)
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マイクロソフト幹部を経て、百度(バイドゥ)のCOOも務めた中国の著名なプロ経営者陸奇氏が8月、米ベンチャーキャピタルのYコンビネータ(以下YC)中国拠点のCEOに就任した。
36Krは陸奇氏がなぜYCを新天地に選んだのかや今後のミッションについて、同氏にインタビューした。今回は3回続きの最終回。
多種多様なプレイヤーの参画を望む
36Kr:YC中国ははじめに何に着手しますか?
陸奇:4つのプロジェクトがあり、まずはインキュベーションからスタートします。これが中国市場での現地化における最初の挑戦になるでしょう。
また、YC中国は独自の創業プログラムを開発する可能性もあり、それが将来的には米国に逆輸入されることを望んでいます。最良のイノベーションとはグローバリゼーションにかかっていると私は考えます。YCグローバルアカデミーの下にYC中国アカデミーを設立し、中国の科学研究機関との提携も進めていきたいです。
しかし、YCはまだ設立されたばかりで、何かを具体的に語るのは時期尚早でしょう。我が社のメンバーはまだ私1人。最初にやることは人材集めです。
36Kr:どのような人材を求めていますか?
陸奇:起業経験のある人物、志をともにできる人物、中国の事業イノベーションに熱意を持つ人物、ビジョンの実現に力を注げる人物です。YC中国の事業成長に最も重要な役割を担ってくれる主要パートナーに加え、優秀な起業家が外部パートナーとして参画してくれることが望ましい。こうした兼業パートナーには、自身の事業に注力しながら我々に協力してもらうことを想定しています。さらにオンラインとオフラインの垣根を越えて討論や活動が広がるコミュニティを形成し、イノベーションに関わる人々が帰属感を得られるような場が生まれることを望んでいます。
36Kr:優秀な人材を確保する以外に、どのような支援が必要と考えますか?
陸奇:新しいエコシステムを確立するために、多種多様なプレイヤーに参画してもらいたいです。まずは中国の投資家。YC中国は初期案件により関わりが深いですが、中後期の出資者と良好な提携関係を築きたいですね。また、YC中国としても独自に出資に参画し、大企業との業務提携にも多く携わっていくつもりです。YC中国が出資するプロジェクトは一定程度まで成長した後は、大企業が出資を主導する流れになると考えるからです。YC中国アカデミーも政府あるいは企業内R&D機関と関係を樹立していきたいです。中国がイノベーション大国となるためには、中国政府のサポートも必要です。

36Kr:YCにとって規模拡大は必ず成し遂げるべきミッションでした。YC中国もそれに倣うのでしょうか?あなたが従事してきたAI分野を踏み台として事業の規模拡大を図る計画はありますか?
陸奇:規模拡大の背後にある目的は、いかにして最大限にイノベーションを推進できるかということです。事業の体系化はYCの事業規模拡大にもつながるだろうし、YC中国はまさにその実験台でもあります。ただし当面は基礎固めが重要で、その上での規模拡大だと考えています。
私個人がAI技術開発や製品開発に携わってきた中で学んだのは、「エコシステムの確立」が重要だという点です。AI技術を商業化するにはプラットフォームやエコシステムの確立が最も重視されるべきです。AIの核心的駆動力はデータにあります。データも、その所有権も多元的なものです。例えば自動運転車のドライビングレコーダーに記録されたデータは誰に帰属するか? 車のオーナーか、それともレコーダーの事業者か、はたまた走行した都市の管理者か?例えばこれがアメリカでの話なら、米国政府もデータの所有権を主張することにならないか?エコシステムの確立を通じて利益の上で、またインセンティブの上でより大きな協力関係を得ることが事業規模拡大にとって最良のアプローチになるでしょう。
ずっと出版業をしたいとも思っていた
36Kr:現在、多くの中国企業や投資家が常に短期的成長にフォーカスしており、長期的な成長には関心が薄いようです。その理由としては何が考えられますか?
陸奇:個人的な見地からすると、米国も中国と同様の状況です。多くの優良企業がこうした観点に立って機会を逃しています。世界を変えるイノベーション技術を持つ企業には3つの条件があります。信念、忍耐、そしてぶれない軸です。個人的な経験に基づいて導き出した結論ですが、信じること、耐えること、そして冷静でいることが大切です。今後10年の間にグーグル同様の規模に育つ企業は10社ほどあるでしょう。うち3~4社は中国で誕生し、かつ長期的に生き残ることになるでしょう。 企業というものは短期的な目線だけで動いてはならず、長期的な投資が必ず必要です。
36Kr:企業は既存の事業で一定の成果を上げた後、さらなる革新に行き詰まったらどうすればよいのでしょうか? 技術革新が企業や組織文化に変化を迫ったときは?
陸奇:対処の方法はあります。成功した企業ほど滅びる可能性が高い。過去の成功に固執するからです。人が新しいものを学ぶのは往々にして簡単ですが、学び取ったものを忘れ去るのは難しいです。マッスルメモリー(筋肉が運動を記憶すること)と同じで、企業も過去の成功を忘れられません。すると市場は変化しているのに、思考停止に陥ることになります。

36Kr:普段、読書をする時間はあるのですか?
陸奇:1日1時間、週に5時間ほど。読みたいものがあればあるほど、1冊の本を読了するのは難しくなります。Kindleはあるけれど、読破することは少ない。そういえば、ずっと出版業で起業したいと思っています。書籍の世界は改革の必要があります。まずはインセンティブに問題があります。1冊の本で本当に読むべき価値があるのはわずか数行なのに、出版社は著者にページ数で報酬を支払います。そこで多くの著者はページ数稼ぎにいそしむというわけです。
36Kr:「愚者と天才の違いは、天才には限度があるということだ」というアインシュタインの言葉がありますが?
陸奇:その言葉は聞いたことはないが、最近はアインシュタインの本も読んでいます。
36Kr:アインシュタインの伝記ですか?それとも学術書を?
陸奇:どちらもです。彼が当初、社会や文化にどのような観念を持っていたかを振り返れば、彼が相対性理論を編み出した理由がわかると思って。