次世代太陽電池の研究開発に注力する中国スタートアップ企業「淮南益恒光伏科技」（以下、益恒光伏）がこのほど、桉樹資本（Anshu Capital）から約1億元（約20億円）を調達した。資金はヘテロ接合型タンデム太陽電池の生産に向けた準備とその後の運用に用いられる。

益恒光伏は、2023年9月に設立され、特性の異なる材料を接合したヘテロ接合型の太陽電池やペロブスカイトタンデム太陽電池、モジュール技術の革新に取り組み、開発から生産、販売までを一貫して手がける。目下、約66億元（約1300億円）を投じたヘテロ接合型タンデム太陽電池の生産拠点が建設中で、第1期部分には2.4GWのヘテロ接合型タンデム太陽電池生産ラインと100MWのペロブスカイトタンデム太陽電池のパイロット生産ラインが含まれる。

創業者の章蓉氏は「太陽光発電は斜陽産業ではなく、依然として大きな可能性を秘めている。当社は有望な新技術として、高効率のヘテロ接合型ペロブスカイトタンデム太陽電池に狙いを定めた」と説明する。

シリコンとペロブスカイトという2種類の光吸収層を組み合わせたペロブスカイトタンデム太陽電池は、従来のシリコン系太陽電池より高い変換効率を実現しながら、発電コストを抑えられるため、単結晶シリコン太陽電池の限界を突破する新たな技術として注目されている。

中国太陽電池大手・協鑫集団（GCL Holdings）は、ペロブスカイトタンデム太陽電池は2024年に変換効率が飛躍的に向上し、25年から生産量が増加、26年には大規模生産の段階に入り、27年には爆発的に普及するとの見通しを示す。

特にヘテロ接合技術を採用したペロブスカイトとシリコンのタンデム太陽電池は、その構造特性や効率の高さから、これからを担う太陽電池の最有力候補と目されている。益恒光伏はその量産を目指すなかで、技術面で3つの大きなブレークスルーを果たし、生産効率を大幅に改善しただけでなく、製品の安定性もかつてないほど向上させた。

ペロブスカイト薄膜は大面積になるほど均一に成膜するのが難しくなるが、同社は酸化物ナノ粒子コーティング技術を開発してこの問題を解決した。シリコンウエハー上にサブナノレベルの均一なペロブスカイト膜を形成する技術のおかげで、タンデム太陽電池の運用効率を高めることができた。

また、ペロブスカイト薄膜の表面にある欠陥を取り除くという重要なプロセスでは、革新的な不活性化技術を導入した。ペロブスカイト層の欠陥を正確かつ効率的に不活性化することで、電池の変換効率や安定性が大きく向上した。

さらに、ペロブスカイトの多結晶膜は安定性に欠けることが課題となっているが、益恒光伏は低濃度過飽和溶液システムを使い、ペロブスカイトの単結晶膜をウエハーレベルで形成することに成功した。

章氏の話では、これら3つの画期的な技術により、ペロブスカイト薄膜の寿命の理論値は20年以上に延び、ペロブスカイトとシリコンのタンデム太陽電池の商用化に大きな可能性が開けたという。

同社で研究開発の中心を担うのは、中国科学院の院士（アカデミーメンバー）など、数多くのエキスパートからなるチームだ。プロジェクトの技術面を統括し、全体指揮を執るのは、中国科学院院士で中国科技大学教授の陳仙輝氏。チーフサイエンティストの鄒貴付氏は中国科技大学で博士号を取得、米エネルギー省傘下の研究所に勤務した経歴を持つ。他の主要メンバーもヘテロ接合やペロブスカイト太陽電池の開発に長年携わってきた。

「ヘテロ接合型ペロブスカイトタンデム太陽電池の開発や産業化に向けて、すでに準備は整っている」と章氏は語る。今後は、生産拠点の建設を急ピッチで進め、タンデム太陽電池の市場をさらに掘り起こし、世界の脱炭素化のために力を尽くしていく考えだ。

＊1元＝約20円で計算しています。

（翻訳・畠中裕子）

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