“在庫ゼロ”で世界販売、中国の越境ECを支える「POD」という革命

36Kr Japan | 最大級の中国テック・スタートアップ専門メディア

日本最大級の中国テック・スタートアップ専門メディア。日本経済新聞社とパートナーシップ提携。デジタル化で先行する中国の「今」から日本の未来を読み取ろう。

特集編集部お勧め記事注目記事36Krオリジナル

“在庫ゼロ”で世界販売、中国の越境ECを支える「POD」という革命

セミナー情報や最新業界レポートを無料でお届け

メールマガジンに登録

続きを読む

中国発越境EC企業のTemuやSHEINの台頭により、世界中の消費者が中国から激安商品を購入できるようになった。販売されているのは多種多様な商品で、色んなデザインのシャツやタペストリーや金属プレートなどが含まれる。これらの製品は最初から完成品をそのまま輸出するわけではない。キーワードはPOD(Print On Demand)だ。

PODの仕組みと広がり

PODは日本では出版分野で活用されている。完成原稿だけを販売元に送り、注文が入ると印刷して発送するという仕組みだ。これと同じ仕組みを応用し、越境ECのニーズに応え、各国の印刷工場で無地の素材にデザインを印刷して出荷するのが今回紹介するPODだ。

PODを世界規模で事業展開する企業は存在するが、中でも広東省に本社がある択遠PODサプライチェーン(択遠POD供応鏈)は先駆者的な位置づけだ。同社は広東省の工場で無地の商品を量産し、それを一括で米国のPOD工場に送り、注文に応じて印刷・出荷を行う。これにより販売業者は在庫管理、ユーザーインターフェースといったフロントエンド、物流、海外倉庫保管のコストを削減でき、またPOD工場は少量注文にも迅速かつ柔軟に対応し、市場の需要変動に対応できるようになる。現在、同社が提携する販売業者は2000社を超え、1日あたり5万件を超える注文を処理しているという。

このように販売業者はデザインデータを送り、消費者が欲しいものだけを現地で必要な数だけ印刷・発送する。欲しいものを配送するのでアパレル業界にありがちな高い返品率もここでは低く、在庫リスクはほぼゼロで利益性が高い。その一方で、AI生成画像や著作権的にグレーなデザインを用いた雑な商品も出品されるという現象も起きている。配送方法や服の印刷手順がそもそも異なるため、中国国内向けの淘宝(タオバオ)では同じ商品が並ばないのも特徴だ。

デジタル染色で変わる中国のアパレル、小ロット生産可能でコストにも強み

業界拡大と競争激化

POD市場が広がったきっかけは、新型コロナウイルス感染拡大だ。さらに現在は米国トランプ政権での国際貿易政策が加わり拍車がかかる。多くの中国企業が米西海岸にPOD工場を建設した。ロサンゼルスのような西海岸の都市は交通の便が良く、港湾も近いため、「荷降ろし後の貨物を工場に直接運ぶ」ことが可能だ。当初は多くの小規模工場が、自宅の倉庫に数台の機械を持ち込んで稼働させ、米国POD工場と名乗っていた。こうした小規模工場でも問題がなかったのは最初のうちで、強固なサプライチェーンを目指し、3000平方メートル以上の工場での稼働へと移行していく。

しかし多くの企業が同じ行動をすれば、その先にあるのは業界内での競争激化でありPODも例外ではない。中国製品の価格の安さにはこうしたバックグラウンドもある。ちなみに択遠PODサプライチェーンは、これを回避するため、ニューヨーク州近郊に3カ所、中部のインディアナ州に1カ所工場を保有し、米国内はトラック輸送を活用し、速達性とコストの両立を実現している。

また中国のPODを理解する上で、厦門指紋科技(HICUSTOM)のPOD事業も紹介したい。同社は36Kr Japanでしばしば取り上げている「専精特新企業(専門性・精巧性・特徴性・新規性を備えたスタートアップ)」でもある。

中国発「SHEIN」「Temu」、トランプ関税で欧州に活路

日本市場の可能性

指紋科技の事業はPODのSaaS、つまり商品の製作(デザイン)、越境ECや外国のECサイトでの出品、印刷、外国の高級客への発送までを一括で代行する仕組みを提供する。注文が入ると現地で印刷して出荷するため、在庫を抱える必要がなく、販売代金から印刷費と物流費を差し引いた額が売上となる。

PODの最大の市場は米国だが、日本にも進出が始まっている。だが、米国に比べると利用規模が小さく、注文数は少ない。これはTemuやSHEINなどの越境ECサイトが米国ほど利用されておらず、米国人は使い捨て感覚で購入するのに対し、日本の消費者は品質を重視し、消費だけでなく工場でも丁寧に検査するため生産量が少ないという背景がある。

中国のPOD業界が期待を寄せているのは、6月30日から日本で導入されたTikTok内のEC機能「TikTok Shop」だ。これにより、アプリ上で商品の販売から購入までを完結できるようになった。TikTokは10代・20代の利用率が高く、若年層に響くユニークな商品を届けやすいため、PODとの相性が良いとみられている。

今回の日本上陸によって、クリエイターや中小ブランドが小ロットかつスピーディーに商品を展開できる環境が整いつつある。その結果、在庫リスクを抑えながら多品種を扱えるPODサービスの需要は、今後一段と拡大する可能性が高いだろう。

TikTok Shop日本参入「初速はトップ水準」、支援体制も充実。「発見販売」根付くか注目

TikTok Shopで“確かに売れる”仕組みを。日本最大のライブコマース支援拠点「CREOK LAB」始動

(文:山谷剛史)

セミナー情報や最新業界レポートを無料でお届け

メールマガジンに登録

関連記事はこちら

関連キーワード

セミナー情報や最新業界レポートを無料でお届け

メールマガジンに登録