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中国には世界で最も長く複雑な高圧送電網がある。設置されてから長年が経過し、メンテナンスが必要な時期に来ている設備も多い。車で山まで行き、望遠鏡で目視検査をするのが従来の方法であり、非常に効率が悪く、1日に最高でも3~4塔検査するのが精いっぱいだった。送電網が拡大するにつれ、作業員一人の運営・維持範囲も増加し、従来の非効率な検査方法では間に合わなくなってきた。特に高山や沼沢地など地形の入り組んだ場所、雨や雪による凍結や地震などの災害時は到達することさえ難しく、鉄塔の上のほうにある設備の異常を下から目視で発見するのは至難の業であるため、これらの問題はさらに顕著となる。
このため、中国の送電会社は、2009年からドローンを活用した送電線のメンテナンスの試行業務や実証研究に着手している。中国の国有企業はいずれも年度ごとに予算の一部をこの研究プロジェクトに計上しているが、 国有企業はこのプロジェクトに100%の成功を要求することはせず、かえって従業員が新しい技術にチャレンジするよう励ましている。従業員は子会社名義でも個人名義でも開発費用を申請できる。国営企業はさらに、技術の研究開発において国内外の民間企業とも提携している。ドローンは中国の送電会社の科学研究プロジェクトで導入が始まったのだ。
2014年頃になると、ドローン技術はだんだん成熟し、各送電会社は小規模なテスト段階へと移行する。ドローンは作業員の操作により送電鉄塔の上まで飛んで写真を撮影する。1回の飛行につき4~6台の鉄塔を巡回できるようになり、作業効率は格段に上昇した。2014年からは「国家電網(State Grid)」が10省でテストを開始し、山東省と武漢市にドローン検査基地を設置したほか、山東省菜蕪市に専門のドローン研修センターを建設した。各地の送電網巡回検査会社がドローンによるメンテナンスチームを組織し、製品の規格や人員編成、設備導入許可、ドローンのランク別体系、配属研修などドローン業務一式についての業務フローの作成を行った。
2009年から2014年まで、各送電会社はゼロの段階からドローン技術の応用方法について一歩ずつ検証し、普及に努めてきた。この過程はまだ終わっていない。垂直離着陸性能(VTOL)や自律飛行など、毎年新しいドローン技術が送電網に応用されている。
ドローンによる送電網の巡回検査技術が成熟していくにつれ、新しい課題も見えてきた。
1.大量のデータを処理しきれない
2.ドローンを操作するのに人手がかかる
ドローンによる巡回検査が増えるにつれ、収集したデータが膨大なためリアルタイムで処理できないという問題が出てきた。送電網は2016年からディープラーニングによる画像認識の研究に着手している。しかし、有効なデータが乏しい(異常は稀にしか発生しない)上に、各地で環境は大きく異なるため、このプロジェクトはいまだ完成には至っていない。
ほかにも、中国の各送電会社では3~5人一組でドローン巡回検査を行っているという現状がある。ドローンの導入によって巡回検査のスピードがアップしたとはいえ、作業員の負担は減っていない。同時に操縦ミスによるドローン破損も頻発する問題である。加えて、送電線の巡回検査の頻度は設備によって異なる上、中国各地の送電網を検査するには操縦士が全く足りていないのだ。
2018年から徐々に「全自動巡回検査」という概念がドローンメーカーにより提起されてきている。送電鉄塔沿線に自動飛行基地を設置し、ドローンが自ら撮影に行くようにプログラムするのだ。ただし、技術的な制限もあり、今のところドローンはGPSに頼った簡易的な飛行のみを行っている。現在、中国にある一部のドローンメーカーは、GAAS(Generalized Autonomy Aviation System)に類似したドローンの自律飛行設計に関するオープンソースフレームワーク研究に着手した。これにより、人手を全く必要としないドローンというニーズに応えることができる。
(翻訳・永野倫子)
作者プロフィール
王漢洋(Wang Hanyang):AI技術の研究・開発を手がける「泛化智能(GI)」の創業者。北京に本社を置く同社は、主力商品としてドローン向けのオープンソースシステム「GAAS(Generalized Autonomy Aviation System)」を提供している。【Twitter】https://twitter.com/HanyangWang
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