原文はこちら
セミナー情報や最新業界レポートを無料でお届け
メールマガジンに登録
2026年の旧暦・馬年を迎える春節(旧正月)まで、残り半月を切った。世界中の中華系の人々にとって、春節前日の除夕の恒例行事となっているのが中央広播電視総台(CCTV)の「春節聯歓晩会」、いわゆる「春晩」だ。日本で言えば、紅白歌合戦に相当する、国民的なモンスター番組だ。
だが、現在の春晩は、もはや単なる国民的な娯楽番組ではない。中国においては、その年の経済構造、産業の主役、技術の到達点を可視化する巨大な「ショーケース」へと変質を遂げている。
1983年の「視聴者からの電話リクエスト」から始まり、最新の「人型ロボット集団によるダンス」に至るまで、43年にわたる春晩の進化は、そのまま中国のテクノロジーと産業高度化の縮図でもある。
春晩が映してきた、中国経済の変遷
春晩は長年、スポンサー構成や演出を通じて、中国経済のダイナミズムを反映してきた。そこに映し出されるのは、単なる流行や美意識の変化ではない。消費の重心、技術水準、そして社会心理の移り変わりでもある。
軽工業から家電へ(1980〜2000年代)
1980〜90年代の春晩を彩ったのは、自転車、腕時計、白酒といった製品だった。当時の中国は工業化の初期段階にあり、消費はこうした「三大件(三種の神器)」(80年代後半はカラーテレビ・電気洗濯機・冷蔵庫と指すことが多い)と呼ばれる耐久消費財が中心だった。
2000年代に入ると、美的(Midea)やハイアールに代表される大手家電メーカーが存在感を増す。家電普及の加速と中国の製造業の発展が、中国の家庭生活を大きく塗り替えていった。
インターネット戦争(2010年代から2020年代初頭)
2015年は大きな転換点となった。通信アプリの微信(ウィーチャット)を運営するテンセントが、自社のモバイル決済サービス「ウィーチャットペイ(WeChat Pay)」のプロモーションとして、スマートフォンを振ってお年玉を贈る「紅包(ホンバオ)」機能を春晩で展開。これが起爆剤となり、先行していたアリババのアリペイを猛追、モバイル決済市場の勢力図を一気に塗り替えた。
この出来事は、モバイル決済の中国における爆発的普及を促しただけでなく、インターネットプラットフォーマーによる春晩のスポンサーを競う時代の幕開けでもあった。
以降10年に、アリババ、テンセントに続き、ネット検索のバイドゥ、ショート動画の快手や、中国版TikTokの抖音(Douyin)が次々と登場し、主役の座を争った。かつてテンセントとアリババが繰り広げた「決済戦争」のように、ショート動画の主導権争いでは、最終的に抖音が優位に立ったのだ。
並行して、視聴スタイルも従来のテレビからネット配信へと急速にシフトした。この変化は、クラウドインフラに強みを持つアリババらネット大手にさらなる恩恵をもたらした。この時期、技術面での焦点は「高度な同時接続への耐性(瞬間的に爆発的な同時アクセス負荷が発生しても、サービスを停止させることなく安定運用を維持できる能力)」と「テレビ×スマートフォンの大小画面連動」へとなり、春晩は巨大な通信トラフィックの実験場としての性格も強めていった。
スマート製造や新エネルギー車(2021〜2026年)
2010年代の主役が巨大プラットフォーマーだったとすれば、近年の春晩で前面に出ているのは先端技術の「実体化」や「知能を持つハードウェア」だ。
2021年の牛年春晩では、UBTECH(優必選)の大型四足ロボットが劉徳華(アンディ・ラウ)や男性アイドルグループ・UNIQの王一博らと共演した。さらに2025年には、宇樹科技(Unitree Robotics)の数十台に及ぶ人型ロボットが集団演技を披露し、「ヒューマノイド」という概念を世間に知らしめた。
同年、重慶の会場ではファーウェイ支援の電気自動車(EV)「AITO M9」780台によるライトショーや、小米汽車のEV「SU7」の車の模型が番組に映り込んだ直後に、話題を呼んで注文が殺到するなど、春晩の販促効果がスマート製造の領域でも改めて示された。

史上最も「AI色」の濃い、2026年の春晩

まもなく開幕する馬年春晩は「テクノロジーとスマート製造」を前面に打ち出し、AI、AR、XRなどの技術を舞台演出に深く組み込み、仮想と現実が融合したステージを作り上げる。
クラウドの「頭脳」主役交代
今年の技術基盤を支える独占パートナーは、字節跳動(バイトダンス)傘下の「火山引擎( Volcano Engine)」だ。演算リソースの提供から、リアルタイムインタラクション、AIGC(生成AIコンテンツ)までを一手に担う。これは、AIクラウドが単なるインフラを越え、統合的なサービスプラットフォームへと進化した証と言える。
人型ロボット「最強チーム」登場
今年は、特定企業の独占はなく、宇樹科技、銀河通用機器人(Galbot)、松延動力(Noetix Robotics)、雲深処科技(DEEP Robotics)、魔法原子(Magic Atom) など、中国を代表するロボット企業が勢揃いする。各社のスポンサー出資額は約1億元(約22億円)とされる。


人型ロボットはこの1年で、研究室段階から商業化へと急速に接近し、資本流入とともに精密な動作や、感度の高さなど中核技術の進化が加速している。1月上旬の米ラスベガスで開催された「CES 2026」でも、中国企業の存在感の高まりは、注目を集めた。複数の企業が合同で春晩に登場することそのものが、「中国ロボット産業の現在地」を世界に誇示する舞台となるだろう。
生活密着型ロボットの台頭
人型ロボットに加え、より日常生活に密着したロボットも春晩の姿を変え始めている。注目すべきは、ロボット掃除機大手の追覓科技(ドリーミー)や、そこからインキュベートしたMOVAという新鋭家電ブランドの登場だ。

これらは単なる家電ではなく、キッチン、ペット、介護など「住宅全体のスマートソリューション」を提案する。普及率がまだ5.5%(2024年)に過ぎないロボット掃除機市場にとって、春晩はブランドの信頼を一気に勝ち取り、潜在需要を掘り起こす最高の舞台となるだろう。
かつての「老舗大型家電」から、現在の「AIロボット化した小型家電」へと、春晩のステージに並ぶ製品の変遷が、中国家庭の消費が今、スマート化に向けて飛躍している事実も映し出している。
AIを搭載した「二輪モビリティ」
スマート二輪電動車の新興ブランド「首駆(FirstDrive)」の初参戦も興味深い。2025年設立のこの企業は、極めて短期間のうちに、研究開発、製造、チャネル、ブランド構築までを一気に完成させ、「AI+二輪モビリティ」を主軸に、製品を「スマート移動ロボット」と位置づけている。
環境認識、自律的意思決定、スマートコックピットシステム(S-Smart)を搭載するこの二輪電動車は、馬年春晩の舞台を通じて、次世代のモビリティとしての普及が一気に加速することが予想される。

まとめ
1983年の最初の電話リクエストから、2026年の人型ロボット軍団へーー春晩は中国が「世界の工場」から「スマート製造強国」へと転換していく過程を、見届けてきた。
ますます多くの新技術や製品が春晩の舞台に登場しているという事実が、伝えていることは極めて明確だ。AIをはじめとする先端テクノロジーは、すでに実験室を出て現実の生活へと入り込み、「感じられる」「使われる」という実装された技術へと変わりつつある。
(翻訳・編集:36Kr Japan編集部)
原文はこちら
セミナー情報や最新業界レポートを無料でお届け
メールマガジンに登録





フォローする
フォローする



