金の暴騰と暴落--そのとき中国で何が起きたのか

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2025年、急激に上がり続けた金(黄金)価格が、今年1月末に大暴落した。相場が上昇し続ければ、金は魅力的な投資対象となり、中国では中国工商銀行や中国郵政貯蓄銀行などの銀行が金の買取サービスをはじめたほか、「ひと稼ぎしたい」と考える人々が注目し、金を入手しようと様々なビジネスや流行が生まれた。本稿では、この1年中国で報じられた中国人の“錬金術”を紹介してみたい。

眠っていた金製アクセサリーが一斉に市場へ

金価格の上昇が広く伝わると、金のネックレスやブレスレットなどアクセサリーを売却する人が目立ってくる。結婚時(中国では結婚時に金を贈る風習がある)に購入したものの、その後利用することなく引き出しにしまい込んだままという人も少なくない。中国でデザインのトレンドは年々変化するので、着用したところで古さは否めず、処分して最新のスマホを買いたいという人も多い。

一方で、新品を買うと高価なため、「親や祖父母の使わない金製品を溶かし、形を変えて、再利用したほうが家族を思う気持ちにも繋がり、使えば喜んでもらえる」と考え、自分好みのデザインのアクセサリーにする人もいる。こうしたニーズに対応する業者は中国に数多く存在し、数百元(数千〜数万)の加工料だけでできるため、人によっては割安と感じられる。

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高価買取の裏に潜む詐欺業者

売却を希望する人が増えれば、詐欺業者が台頭するのも世の常だ。既存の中古業者が貴金属を扱いはじめ、SNSの小紅書(RED)で「高価買取」を売りにする業者の情報が露出するようになる。ところが、こうした業者の多くは国際的な金相場に比べて買い取り価格が大幅に安く、さらにさまざまな理由をつけて、より安く買い取ろうとする。

例えば、長沙に住む林さん(仮名)の経験はこうだ。小紅書経由で業者と連絡を取り、しばらくすると、車に秤(はかり)と消化器を持った中年の男性二人が自宅にやってきたときのこと。指輪を計ると5.62gだったが、その場で指輪を燃やして溶かして重さを計ると5.02gに減っていた。本来、金の融解で失われる重さは平均して1~3%なので予想よりもだいぶ少なくなった。業者は「不純物が多いのでさらに精錬する必要がある」と説明し、20%の手数料を差し引いた上で、溶けた金を4530元(約10万円)とだいぶ安い価格でしぶしぶ買い取ったという。

林さんがこの体験をSNSに書くと、多数の反応があり、そのうち約40人が同様の詐欺被害に遭ったとコメントしていた。一方、林さんのような顧客は他のリサイクル業者いわく「おいしい客」だといい、騙すためなら数値を細工できる秤も用意するという。スマホ・SNSが普及する以前の中国でよく見られた詐欺は、形を変えながら、今も健在だ。

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金鑑定ブームと「教える側」の台頭

そもそも金の鑑定は簡単ではない。深い知識と目利きが求められ、能力不足なら売り手に騙される可能性がある。騙されないための知見を得る手段として、人から学ぶという方法は、ハイテク化が進んだ現在の中国でも依然として一般的だ。それでも金の鑑定スキルを持つ人が増えた背景には、タイミングの偶然もある。コロナ禍や不動産市場の低迷で仕事を失い、やむなく貴金属の鑑定技術を学び始めたという人が少なからずいる。

中国版TikTokの抖音(Douyin)などのSNSで金鑑定の学習コースを開設し、オンラインで弟子を多数抱える配信者も続々と登場した。教える側は、講座で収益を上げ、学ぶ側は、起業へと踏み出す人が増えた。中古品の買取と販売において、かつては儲からない分野とされていた貴金属が、金価格の高騰によって一転して稼げる職業へと変貌した。まさに運命のいたずらが産んだ幸運と言えよう。

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大手中古チェーンの参入と「黄金ATM」の登場

こうして個人の買取業者が増える一方で、新たに参入し、明朗会計を掲げる業者もでてきた。中国各都市に店舗をもつ大手中古チェーンの「愛回収」や「転転」がその代表例。2社はスマートフォンなどのデジタル製品の中古買取と販売がメインだが、金価格の上昇を受け、この分野に参入した。

(写真:中国の経済ニュースメディア「中新経緯」より)

上海黄金取引所発のリアルタイムの金価格に、あらかじめ決めた数%の手数料を上乗せした買取価格で顧客を呼び込み、両社とも日を追う事に金の買取量を増やしていった。また上海や武漢などの大都市には金の自動買取機(黄金ATM)も登場した。金製品を機械に投入すると、金含有量を燃やして溶かすことなく簡易チェックを行い、金の含有量から買取価格を提示する。価格に同意すれば、機器内で製品を溶かし金を抽出し、正確な含有量を計った上で1gにつき18元(約400円)の手数料で買い取るというもの。いずれも明朗会計を売りにしたサービスだ。

金が動かした高級腕時計市場

意外な影響として、金価格の上昇は高級腕時計市場の活性化ももたらした。過去2年間、贅沢品が急激に価値を下げ、高級品市場はアウトレットや型落ちモデルなどお得な商品が人気となり、高級腕時計も例外なく相場が下落基調にあった。だが時計に金が含まれていることから、金を含む部品を買い取ってもらうことで本体価格を上回る金額で売れるようになった。

例えば、あるモデルは相場が6万8000元(約156万円)から一時は6万元(約138万円)まで下落したものの、150gの本体のうち97gが金で、金として売却すれば6万6000元(約151万円)になることから、時計本体の相場も連動して上昇した。レアなモデルを除けば、金の含有量で買取価格が決まるようになった。

また高級腕時計の分解により、メーカーから正規に調達ができないムーブメントなどの内部パーツが修理業者に流出した。その結果、中身のムーブメントはそのままに、外観がそっくりな高級腕時計のニセモノが市場に出回る事態も起きている。

歴史的急落と「底値買い」の人波

このように中国では、金を巡ってさまざまな新たな動きが生まれた。しかし1月末、金価格は1日の下落幅として過去40年で最大級となる暴落を記録した。中国企業では貴金属関連銘柄がストップ安を記録し、さらに非鉄金属などの関連企業の下落が波及し、上海総合指数を押し下げた。

中国では大損した人もいれば、値下がりした今こそがチャンスだと考え、金を買う人もいる。深圳の「水貝」や北京の「財貝」といった著名な金・宝飾品取引拠点では、スーツケースを引きずりながら「底値買い」を狙う消費者の姿も確認されている。中国における金の狂奏曲は、まだ当分終わりそうにない。

(文:山谷剛史)

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