儲かるのは電池メーカー⋯中国EV勢に「CATL離れ」の動き
中国の車載電池市場で今、主導権をめぐる大きな変化が起こっている。
新エネルギー車メーカーはこれまで、車載電池メーカーから電池セルやシステム一式を調達するのが一般的だった。なかでも高い技術力と生産能力を持つ寧徳時代新能源科技(CATL)が、多くの自動車メーカーの主要サプライヤー、さらには独占サプライヤーとなり、世界の車載電池市場で圧倒的な地位を築いてきた。
ところが今、自動車メーカーの間では調達先を2社、3社へと分散させる動きが広がっている。しかも、電池パックや管理システムの自社開発に乗り出し、電池セルの設計にまで関わるようになっている。業界で「CATL離れ」が進んでいるのだ。
外部調達から自社主導の開発へ
2026年に入ってから、自動車メーカーの間で車載電池のサプライチェーンを見直す動きが一段と加速している。
中国スマートフォン大手の小米集団(シャオミ)傘下の小米汽車は、9月に独自の車載電池システム「龍甲電池」をリリースし、中創新航(CALB)や欣旺達動力(Sunwoda EVB)との提携を発表した。シャオミはセルの構造や製造工程、安全基準の設計に参画し、そのうえで2社が生産を担う。複数のパートナーと組むことで、生産能力を確保し、安定供給につなげる狙いがあるという。
理想汽車(Li Auto)の提携はさらに踏み込んだもので、26億5000万元(約640億円)を拠出して欣旺達動力の株式8.79%を取得する計画だ。両社はこれに先立ち、双方が50%ずつ出資する合弁会社を設立している。理想汽車は製品仕様の策定を担い、セルの材料配合や電池パック、電池管理システムなど基盤技術の開発にも加わる。一方の欣旺達動力は生産能力を提供する。
小鵬集団(Xpeng)も車載電池を自社主導で開発する方針を打ち出す。電池パックの設計から電池管理システム、熱管理システム、パックの統合を自社で手がけ、セルのみ外部から調達する形だ。
華為技術(ファーウェイ)が複数の自動車メーカーと共同で展開するEVブランド・鴻蒙智行(HIMA)では、「問界M6」の新型モデルに国軒高科(Gotion High Tech)傘下の宜春国軒が生産するリン酸鉄リチウムイオン電池が採用された。
米テスラも、CATLだけでなく、韓国のLGエネルギーソリューション(LGES)や欣旺達から車載電池を調達している。
車載電池を複数のサプライヤーから調達する動きがさらに拡大すれば、準大手の電池メーカーにもチャンスがめぐってくる。車載電池メーカー・瑞浦賽克(REPT SAIC)の関係者は、複数調達の動きが今後も広がるかどうかは、3つの要因にかかっていると指摘する。第一に、準大手メーカーが製品力を高め、好循環を生み出せるかどうか。第二に、自動車メーカーが電池の自社開発をどれほどのペースで進めるか。第三に、全固体電池やナトリウムイオン電池など、次世代技術の産業化の進み具合だ。一方で同氏は、準大手メーカーは現在「予選」を戦っている段階であり、まだ「決勝」に進んだわけではないとも話している。
EV中核部品の主導権を取り戻す

車載電池は一般にEVのコストの3~4割を占めるうえ、その性能が航続距離や充電速度、安全性、車内空間の広さに直結する。電池の調達先を1社に絞れば、コストや納入、製品投入のペースまでサプライヤー側に左右されやすくなる。
自動車メーカーは複数のサプライヤーと取引することで、安定した調達が見込めるだけでなく、強気の価格交渉を進められる。自動車業界で価格競争が続くなか、自動車メーカーにとって電池コストを抑えることは最重要課題だ。
2022年、広州汽車集団(GAC Group)で当時会長を務めていた曽慶洪氏は、車載電池が完成車コストの4割以上を占めている現状に触れ、自動車メーカーは「CATLのために働いているようなものだ」と不満を漏らした。実際、26年上半期にはCATLの純利益が433億元(約1兆400億円)に達した一方で、主要自動車メーカー15社の純利益を合計しても210億元(約5000億円)とCATLの半分にも届かなかった。
コスト面だけでなく、独自色のあるEVを打ち出したいという自動車メーカーの狙いもある。同じセルを使っても、電池パックの構造や熱管理方式、電池管理システムの制御アルゴリズムが異なれば、急速充電の速度や低温環境での航続距離、安全性能などに違いが生じる。自動車メーカーはこうした技術を自社で掌握してこそ、電池と車両プラットフォーム、充電網、ソフトウエアを一体的に開発できる。そのため、多くの自動車メーカーはセルを完全自社生産しようとは考えておらず、むしろ「自動車メーカーが性能要件を定め、電池メーカーが生産する」という現実的な分業モデルを進めようとしている。
CATLへの影響はどれほどか
サプライチェーンが多元化すれば、まず一部の車種でCATLのシェアが縮小することになる。引き続き主要サプライヤーにとどまったとしても、別の調達先が増えれば、それまでの独占的な立場や価格交渉での優位性は弱まりかねない。
自動車メーカーが電池パックや電池管理システム、熱管理技術などを手がけるようになれば、CATLと消費者との接点も薄れていくだろう。これまでは「CATL製電池」をセールスポイントとして打ち出す自動車メーカーもあったが、今後は自動車メーカー独自の電池ブランドが前面に出るようになり、電池メーカーは表舞台に出なくなる可能性もある。
とはいえ、こうした変化を自動車メーカーによる「CATL排除」の動きととらえるのは早計だ。中国汽車動力電池産業創新連盟によると、2026年上半期にCATLの中国国内の乗用車向けシェアは46.7%に達し、前年同期から5.6ポイント上昇している。韓国の調査会社SNE Researchの調べでも、26年1~5月に世界の車載電池搭載量に占めるCATLのシェアが40.2%となり、前年同期から2.2ポイント上昇した。
CATLの強さは、電池のスペックだけにあるのではない。車載電池は長期間にわたる車種別の検証が必要で、安全性や品質の一貫性、寿命、世界的なアフターサービスまで幅広い対応が求められる。販売規模の大きい自動車メーカーや海外進出を目指すメーカーにとって、CATLが培ってきた量産経験、世界規模の生産能力、品質管理能力は、依然として替えのきかないものだ。
CATLも中国の自動車市場への依存度を引き下げつつある。2026年上半期には、蓄電システム事業の売上高が533億元(約1兆3000億円)に達し、前年同期比87.5%増と大きな伸びを記録した。さらに海外での工場建設や合弁生産、ライセンス供与などを通じて、自動車メーカーと新たな協業モデルの構築も進めている。
*1元=約24円で計算しています。
(翻訳・畠中裕子)