保証切れEV、30万円で航続160キロ延長 中国で広がる「後付けバッテリー」の実態
中国の電気自動車(EV)市場で、航続距離が低下した中古車に追加搭載する「後付けバッテリー」が広がっている。正規ルートでバッテリーを交換するより安価に航続距離を延ばせる一方、安全性や法規制をめぐる懸念も強まっている。
地元の自動車業界メディア「車市物語」によると、SNSでは「航続距離を100~400キロ延長」「急速充電対応」などをうたう改造業者の宣伝が急増している。ピュアEVだけでなく、プラグインハイブリッド車(PHEV)に追加バッテリーを搭載し、走行距離を伸ばすサービスも登場している。
背景にある「初期EVの一斉老朽化」
中国では2016年前後に新エネルギー車(NEV:EVやPHEVなどの総称)が最初の急拡大期を迎え、カタログ航続300キロ級の車両が大量に出回った。当時販売された車両の多くがすでに8年前後を経過し、バッテリーの保証期間を超え始めている。
特に年間走行距離が長い配車サービス用の営業車両では、一般の自家用車よりバッテリー劣化が早い。加えて、経営破綻したメーカーが残した「孤児車」は、保証期間内であっても修理の受け皿がない。
業界推計では、保証切れのNEVは2028年に98万台、2032年には720万台に達する見通しだ。中国EV大手・蔚来汽車(NIO)の李斌CEOは、今後8年間で約1940万台のバッテリーが保証期間を迎え、1台平均6万元(約140万円)で対応した場合の潜在コストは1兆元(約24兆円)を超えると試算している。
問題となるのが交換費用だ。EVは中古になると価格が大幅に下落する一方、メーカーによる正規のバッテリー交換には数万元(数十万~100万円程度)かかる場合がある。「車はまだ走るが、バッテリー交換費用が車両価値に見合わない」という状況が、低価格な非正規サービスへの需要を生んでいる。
車市物語によると、後付けバッテリーの相場は1kWh当たり400~800元(約9600~1万9000円)程度。20kWhを追加する場合、総額1万5000~2万元(約36万~48万円)ほどで、航続距離を約160キロ伸ばせるという。全国規模で出張施工や店舗施工のサービス網ができており、産業としてすでに成熟しつつある。
「監視対象外」のバッテリーというリスク
車載バッテリーはエネルギー密度が高いため、発火や爆発のリスクを抱えている。そのため、安全性を支える中核技術としてバッテリー管理システム(BMS)がEVには組み込まれている。各セルの電圧、温度、充放電状態、異常の兆候を監視し、熱管理システムと連携して制御する。メーカーは車両とバッテリーを一体で設計し、衝突安全性や熱管理、電子制御との適合を検証したうえで市場に出す。
後付けされたバッテリーは、こうした車両側の安全設計と統合されていないため、完全にシステムの監視外にある。さらに改造市場では新品だけでなく、中古や再利用のバッテリーセルが使われるケースもあり、セルの性能差や冷却不足で事故リスクが高まる恐れがある。「CATL製の新品セル」という業者の説明が仮に事実だとしても、安全性を左右するのはセルの組み立て工程や車両側との適合であり、そこが小規模事業者には越えられない技術的な壁となる。
法規面でのリスクもある。修理ではなく車両構造の変更にあたると見なされれば、違法改造と判断される可能性があり、その後の車検や運用にも影響しうる。
規制強化と、正規サービス整備という課題
中国政府は使用済み車載電池をめぐる規制を段階的に強化している。
2025年11月には国家標準「リチウムイオン電池コード規則」が施行され、新たに生産される電池に固有の識別コードを付与する仕組みが始まった。生産から回収までを追跡できるようにする狙いがある。
2026年4月施行の「新エネルギー車使用済み動力電池回収・総合利用管理暫定弁法」では、メーカーに対し、適格な第三者修理事業者への電池技術情報の開放を求めた。正規の修理を担える事業者の裾野を広げる措置といえる。
さらに7月30日、工業情報化部は使用済み車載電池の「カスケード利用」に関する規制を見直すと発表した。品質管理が不十分な使用済み電池の再利用による安全リスクを抑え、回収・再利用市場の管理を強化する。
バッテリー交換モデルに商機か
問題を別の角度から解こうとする動きもある。CATLや、蔚来汽車、北汽新能源が進めるバッテリー交換モデル(車電分離)は、バッテリーを車両から切り離した独立資産として扱うことで、劣化に伴う資産価値の下落そのものを回避する発想だ。ただし交換ステーションへの大規模な設備投資が前提となり、追随できるメーカーは限られる。
中国のEV市場は、新車を急速に普及させる段階から「大量の中古EVをどう維持するか」という新たな局面に入りつつある。今後は電池交換だけでなく、セルやモジュール単位での修理、再製造など、車両価値に見合った正規の低価格サービスを整備できるかが課題となる。
「後付けバッテリー」の拡大は、中国EV市場が世界に先駆けて直面し始めた「EV老朽化」のひずみともいえそうだ。
*1元=約24円で計算しています。
文:36Kr Japan編集部、校正:畠中裕子