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ソフトバンクの触手が中国の不動産業界にまで伸びることになった。ウォールストリートジャーナル紙は3日、ソフトバンクがビジョンファンド(以下、SVF)を通じて不動産賃貸プラットフォーム「自如(Ziroom)」に10億ドル(約1100億円)を投資したと報じた。うち5億ドルは創業者からの株式購入で、残りの5億ドルは直接投資だという。
調べによると、投資契約におけるSVFの自如に対する評価額は66億ドル(約7100億円)。今回の自如への投資は、SVFが行う投資の最終部分にあたる。孫正義氏は当時、SVFにおいて合計1000億ドルを調達しており、これまでに800億ドル(約8兆6000億円)を投資してきた。SVFの余剰資金の一部分は、投資済み企業に対する今後のさらなる投資に充てられるという。
自如は不動産の長期賃貸サービスを手がける大手企業であり、「鏈家網(Lianjia.com)」系列の企業だ。新型肺炎の発生以降、長期賃貸物件が再び市民の論争を呼んでおり、2月初旬には自如の新型肺炎にかこつけた値上げに関する話題がウェイボーの検索ワードにランクインし、多くのメディアで報じられた。
自如のビジネスモデルに関して言えば、同社は主に賃料を収益源としているが、現在は新型肺炎により大勢の人々が労働先に帰れない状況にあるため、住宅賃貸ニーズは減少している。賃料の減少により、もともと逼迫しているキャッシュフローがさらに厳しくなっているのだ。
自如の値上げは、結局のところは情勢に迫られた決定であるといえる。不動産の長期賃貸業界についてはその誕生当時から論争が絶えず、収益能力の低さ、家賃ローンをめぐるトラブル、規格通りではないABS(資産担保証券)、住環境の悪さなどが主に指摘されてきた。こうした問題が、今回の感染症をめぐる厳しい状況の中でさらに浮き彫りになったにすぎない。
だが自如はこうした問題を抱えながらも業界ではトップの座を守り続けており、過去には海外での上場もたびたび噂されてきた。SVFがOYOやWeworkをめぐる大きな失敗を経験したことで、孫氏の投資スタイルは安定志向に向かっており、ソフトバンクにとっては、SVFの投資事業が順調に上場してイグジッドを果たすことが急務となっている。一方で自如も資金調達により早急に現在の苦境を脱する必要があった。このため、SVFの自如に対する今回の投資により、自如の上場の可能性は高まるだろう。
このほか、ソフトバンクは不動産取引プラットフォーム「貝殻找房(Ke.com)」に対する15億ドル(約1600億円)の出資も主導した。ソフトバンクが10億ドルを出資し、残りの5億ドルは「高瓴資本(Hillhouse Capital)」、テンセント、「セコイア・キャピタル・チャイナ(Sequoia Capital China)」が出資した。貝殻找房も同じく鏈家網系列の企業だ。
貝殻找房は中国最大の不動産オンライン取引仲介業者の一つであり、米「Redfin」をベンチマークとしている。貝殻找房はコストの低いオンライン取引により、これまで地方政府による不動産価格調整の影響を可能な限り減らすことに成功してきたが、2019年以降、中国のインターネット業界を取り巻く情勢は厳しい上に、不動産価格の大々的な調整も実施されてきた。特に今年、全国の分譲住宅の取引量は全体的に下落しており、こうしたマクロ環境が貝殻找房の収益にも暗い影を落としている。
貝殻找房に対する投資はソフトバンク傘下に新たに設立された投資会社によって行われ、今回の資金調達後の貝殻找房の企業価値は140億ドル(約1兆5000億円)に達するとみられる。貝殻找房は早ければ今年中に香港取引所に上場するとされているが、今回の新型肺炎により上場が延期される可能性が高い。
(翻訳・神部明果)
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