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半導体製造ファウンドリ(受託生産)世界最大手のTSMC(台湾積体電路製造)がにわかに注目を集めている。中国の通信機器大手ファーウェイと米国のせめぎあいの渦中に同社が置かれた形だ。
TSMCに関しては過去2カ月、「米国に新工場を建設する」「ファーウェイとの取引を停止する」「ファーウェイとの取引停止を否定した」「米国当局の要請通りにファーウェイ締め出しに合意した」などさまざまな憶測が飛んだ。中国でも関心の高い話題となっており、中国版ツイッターと呼ばれる短文投稿サイト「微博(ウェイボー)」では「#TSMCがファーウェイとの取引停止に応じた」とのハッシュタグを付した投稿が8000万回以上閲覧されている。TSMCとファーウェイ、またTSMCと米国の関係が注目を集め、TSMCが創業以来一貫して強調してきた「みなさんのEMS」は難しい立場に置かれている。
台湾在住のテクノロジー関連アナリスト、ベン・トンプソン氏によると、「TSMCとしてはスイスのように中立の立場でいたいのが本音だ。しかし、こうした立ち位置はもはや維持できない時期に来ている」としている。
永世中立国ではいられないTSMC
創業者の張忠謀氏が唱えた「みなさんのEMS」。この言葉 は、TSMCの戦略の核心を成すものだった。微妙な立場に置かれたときにはきわめて便利な文言だったが、現在は皮肉なニュアンスで引き合いに出されている。
先月15日、米国に新工場を建設すると発表した際、同社広報部を統括する高孟華氏は「TSMCの事業方針の一環であり、決して政治的な色彩を帯びた決定ではない」と説明した。建設予定地を米アリゾナ州に選んだ理由は、現地が半導体産業と縁深い土地柄だからだとしている。
しかしこれはTSMCの本音ではないだろう。
昨年11月、TSMCの劉徳音会長は米国工場新設の報道について「コスト面の問題で実現は不可能」と説明していた。米国に工場を建設するには三つの条件を満たす必要があるとも述べている。その三条件とは「経済的メリットに符合すること」「コスト面で有利なこと」「人員およびサプライチェーンが十全であること」であり、なおかつ5nmプロセス、3nmプロセスなど最先端の製造技術は本拠地の台湾に残すことも条件に挙げていた。
半年後の現在、事態はやや異なってきたようだ。
先月12日、TSMCは米国工場の建設計画を一旦否定した。しかしわずか3日後の15日に真逆の発表をしている。建設費120億ドル(約1兆3000億円)をかけてアリゾナ州に新工場を設けるというのだ。しかも製造するのは5nmプロセス採用のチップで、月産2万枚だとしている。
同月15日、米ホワイトハウスのプレス・ブリーフィングでは、米国の技術を用いて半導体を製造する企業に対し、米国の許可なしにファーウェイへの製品提供を禁じることが発表されたほか、TSMCの米国工場建設のニュースも発表された。
TSMCの主な顧客は米国企業であり、売上高に占める取引先の割合は米国が60%、中国が20%だ。しかし、TSMCは米国工場建設と引き換えに、ファーウェイとの取引を継続できるよう米国側に掛け合う可能性もある。
米エレクトロニクス業界紙EE Timesは米投資会社「ウェドブッシュ・セキュリティーズ」のSVPを務めるMatt Bryson氏の分析を紹介。TSMCが米国工場を新設すれば、米国側との交渉を有利に運べる可能性があるとした。つまり、米国の技術を用いる半導体企業にファーウェイとの取引を制限する政策を撤回するよう求めるということだ。多くの半導体企業は自身がファーウェイのサプライチェーンから外れることを望んでいない。
「米軍用半導体のサプライヤーの座を勝ち取る、あるいは米国支社や新工場に対する補助を受けるだけでは、TSMCにとっては工場新設の好ましい交換条件とはいえない」と同氏は補足している。
やはりファーウェイは失いたくない
ファーウェイは昨年、TSMCの第2位の顧客として1528億7600万台湾ドル(約5600億円)の売り上げに貢献した。前年比8割増、総売上高に占める割合は6ポイント伸ばして14%に達した。TSMCとしてはファーウェイは当然逃したくない上客だ。
ファーウェイは昨年、米国による輸出規制を事前に察して、あらかじめ1年半~2年分の半導体製品を確保していた。中にはインテルやザイリンクスの先端製品も含まれている。同年の年次報告書によると、ファーウェイは2019年末時点で前年同期比75%増となる235億ドル(約2兆5200億円)分の完成品や部品、原材料を積み増しした。しかしこれはあくまで一時しのぎに過ぎない。今後、最新製品が市場に出回っても在庫は最新版に更新はできないからだ。
先月15日に発表された対ファーウェイの輸出規制強化については例外も定められている。同日時点ですでに生産を始めている場合は、その完成品の再輸出に関しては5月15日から120日以内は米国側の許可が不要となる。ファーウェイはこの猶予期間を利用して、TSMCに対し5nmプロセスおよび7nmプロセスを含む7億ドル(約750億円)分の製品を追加発注した。5nmプロセス製品はスマートフォン用、7nmプロセス製品は5G基地局用だ。
一方のTSMCは6月9日に年次株式総会を開催。劉会長はその席でファーウェイやその傘下の半導体メーカー「ハイシリコン(HiSilicon)」との取引継続を望む意向を表明しながらも、「もしファーウェイとの取引関係がなくなっても、TSMCは短期間でその穴を補てんできる」と自信を見せた。アップル、クアルコム、AMD(アドバンスド・マイクロ・デバイセズ)などの米国大手や台湾のMediaTek(聯發科技)などからすでに今年第4四半期分の大口の追加発注を受けているからだ。
TSMCは現段階では2020年の目標売上高や設備投資額を修正する意向はなく、目標売上高は前年比2割増、設備投資額は150~160億ドル(約1兆6000億~1兆7000億円)で据え置く。米企業との取引でファーウェイ需要分を穴埋めする自信があるということだ。
ファーウェイは「次のTMSC」探しに動いている。今年4月には世界5位の半導体メーカー「STエレクトロニクス」とチップの共同開発を行うと報道された。STエレクトロニクスはスイス企業であり、ファーウェイ傘下のハイシリコンが米国による規制をかいくぐってチップを設計・製造する一つの手段たり得る。一方、お膝元の中国に目を向けても、技術面でファーウェイの要求に見合う製品を提供できるメーカーはまだ存在しない。
(翻訳・愛玉)
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