化粧品のサンプル販売でセフォラを猛追 新興コスメショップ「HARMAY」、評価額が800億円超に

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新型コロナウイルスが猛威を振るった2020年、オフライン販売が軒並み大打撃を被るなか、コスメ業界の新興勢力が勢いを増している。

中国のコスメ専門店「HARMAY(話梅)」は倉庫スタイルというインパクトのある内装に、有名ブランドのサンプルを豊富に取りそろえており、瞬く間に流行に敏感な若者たちの心をつかんだ。

2019年にシリーズAで資金を調達した際、HARMAYの評価額は5億元(約82億円)近くに上り、出資者には「高瓴資本(Hillhouse Capital)」「黒蟻資本(BA Capital)」など著名投資機関が名を連ねた。直近の資金調達では評価額が50億元(約820億円)に達したと、経済メディア「投中網」が報じている。

HARMAYがこれほど急成長を遂げた背景には、中国のコスメセレクトショップの台頭がある。2018年以降、「Wow Colour」「The Colorist」などの新興コスメショップが一、二級都市を皮切りに全国進出し、爆発的人気を博した。

飛ぶ鳥を落とす勢いの新興勢力に対して、業界の古参ブランドは衰えを隠せない。香港発のドラッグストア「ワトソンズ(屈臣氏)」「マニングス(万寧)」やフランスLVMH傘下のコスメ専門店「セフォラ(SEPHORA)」などビジネスとして成熟しており資本力もある大手も、近年のオンライン化の波に押され、新たな消費者のニーズの変化にも十分対応できないまま、中国市場での売上高は年々下降の一途をたどっている。

同じオフラインのコスメ専門店でも、HARMAYのような新興コスメセレクトショップが大躍進を遂げた秘訣はどこにあるのか。

まず、HARMAYは有名コスメブランドのサンプルを販売することで集客を図っている。サンプルならブランド価値を下げることなく安く販売することが可能だ。それまで化粧品サンプルは中古品市場で高い人気を誇っていた。現在でもチャットアプリ「WeChat(微信)」にはサンプル入手に関連したパブリックアカウントが200以上ある。ただHARMAYのサンプル仕入れルートの合法性については疑問の声が上がっているのも事実だ。

またHARMAYはSNSをうまく活用してきた。現在、HARMAYは北京市、上海市、成都市、香港に5店舗を開設しているが、毎回オープン時は長蛇の列となる。ソーシャルEC「小紅書(RED)」や動画サイト「ビリビリ動画(Biliblil)」でも人気投稿者がHARMAYを訪れるたびに盛り上がりを見せている。

さらに自社開発のプライベートブランドなど粗利率の高い商品で全体の粗利を引き上げている。金融経済メディア「易簡財経(Ejam Finance)」によれば、2018年時点でHARMAYの上海・香港2店舗の平均粗利率は28%近く、売上高は2億8000万元(約46億円)だったという。ワトソンズやセフォラなどの大先輩に比べると売上高では赤子のようなHARMAYだが、粗利率では全く引けを取らない。

コスメ専門店に共通するビジネスモデルは、ヒット商品やキャンペーンで集客し、店内陳列など動線設計で粗利率の高いプライベートブランドの購入へと誘導するというものだ。

HARMAYではサンプルや有名ブランドの処分品などで顧客を集めると同時に、プライベートブランドや育成中のマイナーブランドを店内に数多く陳列している。粗利率は高い順にプライベートブランド、マイナーブランド、有名ブランドの処分品となる。

HARMAYパートナーの鞠春茂氏がかつてメディア取材の際に語ったところでは、有名ブランドとマイナーブランドの売上比率はおよそ6対4で、マイナーブランドの比率が前年よりも伸びているという。また今の中国のビジネス環境では、有名ブランドの販売ライセンスは取得が難しいとも吐露している。現在、HARMAYは貿易業者などから商品を仕入れているが、販売権を持つ200余りのブランドのうち、有名ブランドは一つもない。

コスメ産業のサプライチェーンは数多くの中国大手企業を生み出してきた。生物活性材料を研究する「華熙生物(Bloomage Biotech)」、化粧品ブランド「薇諾娜(Winona)」「上海家化(Jahwa)」、美容EC「麗人麗粧(Lily&Beauty)」「宝尊電商(Baozun)」などがその例だ。しかし、中国のオフラインチャネルがバリューチェーンにおいてブランドに次ぐ大きなセグメントであるにも関わらず、株式を上場するような新しいコスメ専門店はまだ生まれていない。

アイシャドーパレットで一躍有名になった「PERFECT DIARY(完美日記)」が中国カラーコスメの火付け役だとすれば、HARMAYに代表されるコスメのセレクトショップは新たなコスメチャネル台頭の先触れだと言えよう。

作者:遠川商業評論(ID ycsypl) 楊婷婷、姚書恒(編集)

(翻訳・畠中裕子)


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