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中国のスタートアップの成長を資金調達面から見ていこう。2009年にはPE(プライベートエクイティ)・BC(ベンチャーキャピタル)は500を数えるしかなかったが現在は4000まで急増。これまでに6兆6900億元を投資した。特に2016年~18年に頂点を極める。
振り返るとバイドゥ、アリババ、テンセントからなる「BAT」の後に、バイトダンス、滴滴(DiDi)、美団(Meituan)が台頭した。いずれもこの3社はスマートフォンの普及にあわせて台頭した企業だ。スマートフォン前に台頭していたIT企業がBATとレノボなら、スマートフォン後に台頭した企業はバイトダンス、滴滴、美団、シャオミ、ファーウェイ、OPPO、vivo、快手、拼多多(ピンドゥオドゥオ)が挙がる。
BATが圧倒的だったころは、バソコンまたはスマートフォンで欲しい情報を探し出すこと、製品を売買すること、人と人がつながることを実現した。BAT時代後は、スマートフォンを活用しどこでもアプリを利用できることがトリガーとなった。新たなネット大手が誕生する一方、BATはシェアエコノミー、スマホOS、フードデリバリー、ショートムービー、ライブチャット、リアルショップにも参入したものの、各業界でNo.1になれなかった。
特に2015年以降は本格的にスマートフォンで気兼ねなくデータ通信ができるようになり、新たなサービスの普及が進んだ。スマートフォン普及当初はデータ通信料金は所得と比べてもとても高く、動画を見るのは財布の中身を溶かすような行為だったが、データ通信料金は何回も政府の要請もあって値下がりを続け、スマートフォンで通信が発生するアプリの利用に抵抗がなくなっていく。そしてスマートフォンで外でデータ通信を料金に気兼ねなく利用できるようになった2015年前後を機に、一気にどこでもスマートフォンでネット利用が進んでいく。
シェアライド「DiDi」と「快的」がシェアをとるべく、両社合計で24億元(1元=17円)を投じてキャッシュバックキャンペーンを行ったのが2014年。このキャンペーンの結果、シェアライドだけでなくキャッシュレスも普及した。当時話題だったこの競争は翌2015年の両者の合併で幕を閉じる。キャッシュレスではテンセントのWeChatpay向けに新年の人気番組「春晩」で紅包(金一封)をばらまいたほか、WeChatpayとアリババ傘下のAlipayが、買い物でお得なキャンペーンをうったのが2015年だ。
また当時O2O(Online to Offine)の二大巨頭の「美団」と「大衆点評」が合併したのもこの年だ。美団はそもそもグルーポンのようなクーポンサイト(団購網站)からはじまり「千団大戦」と呼ばれる無数のクーポンサイト乱立と競争の先に生き残った勝者でもある。資金量で多くの対応店舗とお得なクーポンを武器にでき勝者となった。一般的に千団大戦というとクーポンサイトのことだが、中国メディアによってはコロナ以降人気になった生鮮ECサービスについても、サービスが乱立し、資金投入で商品を安く販売して顧客を得たことから、第2次千団大戦と評されることも。
中国IT革命の代名詞的なシェアサイクルについては2016年にofoとMobike(現美団単車)を中心にして競争が拡大していく。このとき資金調達により、大都市から無数の車両を投入していくが、2016年だけでもofoは4度資金調達を受けている。36kr Japanで紹介する資金調達のニュースの中でも年に4度も資金調達する企業は珍しい。ofoやMobikeに限らず、700以上のシェアサイクルサービスが誕生し、資金のないサービスから脱落していった。
ofoは2019年にサービスがほぼ提供できない状態になり、数千万人のユーザーが支払い済みのデポジットの返金を求めた。またシェアサイクル同様、未来が期待され盛り上がった無人コンビニも当初こそ話題になったが、各社資金が不足し儲かりそうにもなくフェードアウトしていく。生き残ったシェアサイクルにしろ、もうひとつの人気のシェアサービスのシェアバッテリーにしろ、最近では儲けるためにレンタル料金を上げている。当初は1時間1元と低価格が売りだったが、最近では場所によって差異はあるが1時間に6元という価格まで増加した。
2016年から2018年までのPE・VCによる投資は、振り返れば、研究開発の資金もそうだが、個人ユーザーを獲得するために資金力をもってユーザーを獲得するためのものが目立った。そしてユーザーを資金力で獲得してからは、値上げ(値下げをやめる)ということをどのサービスジャンルにしても行っていた。
では現在はどうか。
今最も資金を集めているのが自動車関連だ。2011年から2020年にかけて、新エネルギー車各社への融資総額は3841憶元で、2020年には1年間で1292億元と1000億元を突破した。蔚来汽車(NIO)が13回、計330億元弱の資金調達を受けている。インターネット大手を見ればテンセントがゲーム会社を続々と取り込む動きもある。また資金調達全般でみると、コンシューマー向けのサービスは少なく、代わりに医療機器、教育、ビジネス向けのSaaSの案件をよく見る。
消費者向けではネットサービスではないが、新食品ブランドの投資の話題が続々と出てくる。顧客確保をすべく、調達された資金は紅包こそ使わないものの、インフルエンサーを使ってライブコマースなど様々な広告手段に流れていく。新食品ブランドは安さを強調せず、製品のよさをアピールし、値段はむしろ高いことが価値になっている。「私域流量」と呼ばれる各SNSプラットフォームでの固定ファン取り込みはあるにしろ、価格を安くして顧客をとりこむためにはもはや使われないのだ。
政府の方針を見ると、独占禁止法が運用され有力企業の合併が難しくなった。また米国などの証券取引所への上場には、個人情報や機密情報が外国に渡らないための審査を国内で行うようになり、上場のハードルが上がった。こうした中で値下げ競争で勝つための投融資ができなくなった。それができる時代は終わりを告げたのだ。
投融資の資金は、これまでのコンシューマー向けのユーザーを確保してサービスを拡大するという、これまで見た価格競争は過去となり、ビジネス向けや自動車や医療向けの製品開発に向けられる。この数年で挙げた業界のDXが質量ともに加速していく。
文・山谷剛史
アジアITライター。1976年東京都出身。東京電機大学卒。システムエンジニアを経て、中国やアジアを専門とするITライターとなる。単著に『中国のITは新型コロナウイルスにどのように反撃したのか?』『中国のインターネット史 ワールドワイドウェブからの独立』などがある。
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