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ショート動画共有アプリ「TikTok(抖音)」を世界的にヒットさせた中国企業「バイトダンス(字節跳動)」が、旧正月直前のベストタイミングで次の一手を放った。
新しいソーシャルアプリ「多閃(Duoshan)」だ。投稿後72時間で削除されるショート動画とメッセンジャー機能を主軸に、インターネット上の見知らぬ他人とではなく、リアルな友人たちとの交流を深められる。
リアルな友人との交流を重視することによって、人目を気にすることなく、ありのままの自分を発信できる。タイムラインに長く残しておきたくない内容の投稿をしても、72時間以内に閲覧不能になるので、気軽に投稿できる。投稿動画にはコメント欄や「いいね!」機能はついていない。投稿者への評価は、メッセンジャーを通じて直接送信する。メッセンジャーを通じ、友人のみにグリーティング動画を送信できる点も魅力だ。
こうした特徴から、多閃は「中国版snapchat」とみて間違いないだろう。多閃にはTikTokのアカウントを流用することもできるが、TikTokはオープンな、多閃はクローズドなプラットフォームと使い分けができそうだ。
バイトダンスが近々ソーシャル製品を発表するとの報道は先月より相次いでいたが、15日午後、同社はついに新製品を発表した。旧正月(今年は2月5日)の大型連休を利用して一気にユーザー獲得を進める狙いだろう。
リップシンク動画が人気を博して、爆発的なヒット製品となったTikTokには、「他プラットフォームに動画をシェアできない」という弱点がある。TikTok総裁の張楠氏は、「ソーシャル機能を実装してほしいというニーズに対して、今回発表した新製品で応えていく」と述べている。
リアルな友人同士をつなげるSNSといえば、中国国内では微信(WeChat)の一人勝ち状態だが、これについて、バイトダンス傘下のニュースアプリ「今日頭条(Toutiao)」の陳林CEOは「多閃はWeChatと競う意図はない。WeChatを広場に例えるとすると、多閃は親しい人だけが集うリビングルームに相当する」と説明している。
WeChatとの差別化、WeChatからの遷移
多閃のプロダクトマネージャーを務めるのは弱冠25歳の女性、徐璐冉氏だ。多閃に込めた思いについて、「現在のSNSはストレスも多くて疲れる。また、(つながっている人数が多すぎて)最も大切にしたい人の動向を見失いやすい。ユーザーにはもっとプライベートな場が必要だと考えた」と述べる。
こうした問題はすでに広く認識されており、同時に、これこそがWeChatの弱点にもなっている。かといって、WeChatの牙城を切り崩しにくる猛者は皆無に等しい。唯一の例外は昨夏にWeChatの対抗馬としてリリースされた「子弾短信(Bullet Messaging)」だが、これも三日天下に終わっている。
多閃が成功するためには、個々のユーザーがアプリ上の友人関係をゼロから築いていく過程をスピーディーに手軽にしていく必要がある。そして、多くのユーザーがすでにWeChat上で築いている広く深い友人関係を凌駕することが望まれるが、ここが多くの後発ソーシャルアプリにとってネックとなっている。
しかし多閃は、デイリーアクティブユーザーが2億5000万人に達しているTikTokとアカウントを連動させ、バイトダンス得意のレコメンドアルゴリズムでユーザーの知り合い候補を積極的にレコメンドすることで対応している。
「中国版Snapchat」になれるのか?
Snapchatや多閃の最大の魅力は「ストレスフリー」という点だ。インスタグラムのようにこだわり抜いた画像や動画を撮れなくても、「撮ったまま出し」が可能な世界なのだ。手軽さに加え、ありのままのリアル感も売りとなっている。
問題は、「SNSでありのままの自分を表現すること」にどれだけのニーズがあるかだ。WeChatの開発者アレン・チャン(張小龍)氏がかつて「SNSとは、セルフプロデュースした自分を表現する場」と定義したように、SNSは現実生活とは異なる「キラキラな自分」を楽しむプラットフォームでもあるのだ。「ありのままの平凡な自分をフォローしてほしい」との要求に応えられるのは限られた近親者なので、その広がりは限定的になるのではないか?
また、SNS疲れを解消する目的で採用した「1対1のチャット」という方式は、本当に我々をSNS疲れから解放してくれるのか? 友人が投稿した動画にコメントを残したい場合、チャットを経由しなければならないため、「正直面倒くさい。いちいちコメントできない」というユーザーの意見もすでに聞こえてきている。
従って、Snapchatのモデルをそのまま中国市場に持ってきても、同じように成功するとは限らない。土壌が違う。
バイトダンスの焦りと野心
しかし、仮に多閃が不発に終わったとしても、バイトダンスがこうした製品を世に送り出したことには意味がある。
現在はTikTokの隆盛が続いているが、娯楽に主軸を置いたコンテンツプラットフォームは飽きられるのも早い。しかし、多閃で深い友人関係を構築できたならば、ユーザーはそう簡単にTikTokを捨てて新たなプラットフォームに乗り移ることはないだろう。
さらに、多閃は「お年玉(ユーザー間の送金)」機能を積極的に押し出している。現段階では銀行口座との紐づけのみが可能で、微信支付(WeChatペイ)や支付宝(アリペイ)との紐づけはできないが、バイトダンスはすでにこのお年玉機能の名称を商標登録に申請中だ。将来に大きく期待をかけているサービスであることは間違いない。これを機に、オンライン決済市場に参入する野心があることも否定できない。多閃のリリース時期に旧正月前を選んだのも、この機能をPRしたかったからに他ならないだろう。
金融サービスは、バイトダンスが過去1年、ずっと温めてきた新事業だ。昨年は今日頭条のアプリでレンディングサービスをローンチしたほか、年末には保険サービスもスタートさせた。こうした金融サービス事業の基礎として、オンライン決済機能を確立させることは必須のステップだ。アリババ系のアント・フィナンシャル(螞蟻金服)やテンセント系の騰訊金融科技(TENCENT FINANCIAL TECHNOLOGY)の例を挙げるまでもない。
広告収入で成功したバイトダンスだが、今後は金融サービスやEコマースなど、収益源を分散させる意向だろう。
Eコマースに関していえば、ユーザーを惹きつけるには、TikTokのようなコンテンツ主導型のプラットフォームよりも、多閃のようなヒト主体のプラットフォームが向いている。信頼に値する人物からなら、人はより安心して物を買うからだ。
バイトダンスにとって多閃は「唯一の」ソーシャルアプリではないかもしれない。実は、TikTokをリリースした当時も、バイトダンスは今日頭条傘下で「西瓜視頻(Xigua Video)、「火山小視頻(Huoshan Short Video)というショート動画アプリを世に送り出した。市場の反応を見て、最終的にTikTokに絞り込んだ形だ。今回も同様の戦略が取られる可能性もあるだろう。
(翻訳・愛玉)
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