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海外に行くことが難しくなった中国で国内旅行をしてもらおう、宿泊してもらおうと新たなコンセプトのホテルが登場している。これから紹介するホテルはまだ普及してはいないが、今後中国国内でコロナ感染が落ち着けば、中国人の中でさらに注目されるだろう。日本のデザインやノウハウが役立つかもしれない。また注目されて普及し、やがて海外旅行ができるようになれば、中国人観光客が日本にやってきてそのようなコンセプトのホテルを求めてもおかしくない。
最近中国で登場したコンセプトのホテルを紹介していこう。
eスポーツホテル
近年、eスポーツが徐々に世間の注目を集めている。中国のeスポーツユーザーは5億人超、市場規模は1000億元超となっている。eスポーツ人気とともに「eスポーツ+ホテル」など、eスポーツに由来する産業チェーンが急速に発展している。今年の春節に中国OTA最大手「携程集団(トリップドットコム・グループ)」、海外事業「Trip.com」で予約したゲームルームの注文は前年比80%以上増加し、「同程旅行(LY.COM)」のバレンタインデーにおけるゲームテーマホテルの注文も73%増加した。
eスポーツホテルのチェーン店は既にできている。既存の「格林豪泰」「速8」「IU」といったホテルチェーンもeスポーツホテルへの変換を開始したほか、「愛電競」「方柚電競」「宜博電競」「凱沢電競」などといった新たなeスポーツチェーンホテルが登場している。この中で愛電競については中国旅行大手の「同程藝龍」が数千万元の戦略投資を行うと発表している。
同程研究所が発表した「中国eスポーツホテル市場調査報告書2021」によれば、2017年に登場したeスポーツホテルは、2019年末の段階で2600店に過ぎなかったが、この2年間で急速に発展した。新型コロナウイルス感染拡大が進んだ2020年には全国のネットカフェ12万軒が閉鎖し、その代わりにeスポーツホテルが伸びたという。電子ゲームホテルは2021年に1万5000店に達し、2023年には2万店を超える可能性がある。
ゲーム最大手のテンセントも動きだした。テンセントのeスポーツ部門の騰訊電競と欧愉科技はeスポーツホテルに関する戦略的提携を発表した。テンセントゲームの副CEOで騰訊電競CEOの候森氏はこの発表時に、テンセントはデジタルテクノロジーでユーザーを繋ぎIPを提供という形で、ホテルのeスポーツ対応に協力できると発表している。
同程研究所は、将来的にはeスポーツホテルが10万軒に達すると予測している。ただネットカフェに関する法整備があるのとは対照的にeスポーツホテルでのネット利用に関する法整備がないので、法整備によって足元をすくわれる企業が出てくる可能性がある。
スポーツホテル
中国で近年フィットネスがブームになっている。中国のフィットネス用スマートミラーやフィットネス器具が数多くのメーカーから登場し、スポーツ系スタートアップは複数社が資金調達を受け、フィットネスアプリをリリースする「Keep」は3月に香港証券取引所に上場を申請した。こうした中、多くのホテルブランドが「スポーツ」に手を伸ばし始めている。
ハイアットホテルズがANTA傘下のFILAと提携し、スポーツホテル「FILA HOUSE」をANTAグループ本部の上海ANTAセンター内にオープンした。また「潮漫酒店」「ケンピンスキー」といったホテルもスポーツをテーマとした部屋を提供している。「7天酒店」は客室内フィットネス「FITUP 2.0」を発表。「錦江酒店」はスポーツとライフスタイルをテーマにした「繽躍酒店」をオープン。「健康」と「生活」をキーワードに、健康的でアクティブなライフスタイルを志向する消費者が、「宿泊」「フィットネス」「食事」の一連の流れをこの空間で完結させることができるとしている。
他にも河北省唐山市南湖景区に位置する唐山南湖のサッカーがテーマのホテル「唐山南湖足球主題酒店」や、黒龍江省チチハルのアイスホッケーやスキーテーマホテルなど、テーマ別のスポーツ型ホテルが続々と誕生している。
雑誌「新周刊」は、「旅をスポーティに切り開くのが新しいファッションになりつつある」「友達の輪で風景や料理の写真を投稿するのは古くさく、スポーツスタイルの自撮りが注目されている」と指摘。 新しいトレンドとして重要な役割を担う「スポーツホテル」が増えていけば、ホテル&スポーツは盛り上がっていく。中国のこれまでのトレンドを見るに、盛り上がった後にブームは退くが、全て退くわけではなく一部の人は愛用を続けるだろう。
古い工場をリノベーションした産業ホテル
古い工場をリノベーションした産業ホテルが各地に出てきている。例えば北京の工場跡地を観光地として再生した「首鋼園」内にある「首鋼シャングリラホテル」は、旧首鋼発電所の建物をベースにしたリノベーションが施されている。また上海市松江区では天馬廃棄採石場の底から18階建てホテル「上海世茂洲際深坑酒店」を建設。独特な景観のホテルとなっている。また以前にも西安の旧ソ連風建築の捺染(布の染色)工場跡を活用して、デザイナーズホテル「春秋舎設計師酒店」が建設された。
こうしたホテルが建設されたのは偶然ではない。何十年も前に建設された国営工場跡がそのままになっていて、これを活用せよと国が号令をかけている。ひとつは2017年に国家観光局が発表した「2020年までに、中国は国家産業観光示範基地と国家産業遺産観光基地を100ヶ所つくる」ことを目標とした「産業旅行の発展に関する三か年計画」によるものだ。さらに2019年には国務院が工場跡や体育館や百貨店を改造して新しいエリアとしてリノベーションすることを目指す、「商業消費を促進するための流通発展加速に関する意見」が発表されている。以前からの工場のリノベーションでは北京の「798芸術区」や上海の「1933老場坊」をはじめとして中国各地にあるが、これを政府肝いりで中国全土で行おうというものだ。
工場跡地のリノベーションコストは建て替えコストより比較的低く、また天井の高さも含め広大な空間があり様々なデザインのフロアを建設することが可能なのがメリットだ。工場跡地は中国の歴史遺産として観光地として活用できるという文化的メリットがあり、それを活かすよう政府から号令が出ている。つまり各地域の政府が産業観光資源として指定する豊富な工場の近くに建設され、過去の産業遺産が客に伝わるようにホテルは建設される。街の観光資源として建設されることから、泊って学べる「渋くてエモい」産業ホテルはこれから中国全土に多数建設されることになる。
(作者:山谷剛史)
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