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2018年3月、中国のIT大手テンセント(騰訊)は「スマートリテール戦略提携部門」の立ち上げを発表。これをきっかけに、テンセントが小売業に参入してから1年余り経つ。
「我々は元々小売業でも、ECでもなかった。だから、まずは下調べに1年間を費やした」
4月11日、テンセント副総裁の林璟驊氏は上海で行われた「中国国際零售創新大会(China International Retail Innovation Summit)」でこのように述べた。同大会で林氏は、テンセントの小売業参入1年の答えとして、顧客である小売企業20社の名前と、QRコードを利用したデジタル化マーケティングソリューション「騰訊優碼(TQIC)」を挙げた。
1年以内に数十ものベンチマークとなりうる小売企業を取り込むのは、ソーシャル、ゲーム出身のテンセントにとって決して簡単なことではなかった。
資本提携は即効性のある方法の一つだ。2017年12月初めから2018年1月末までに、テンセントは小売企業に対して立て続けにアクションを起こした。わずか50日弱の間に、「永輝雲創( Yong Hui Yun Chuang )」、「歩歩高商業連鎖(Better Life Commercial Chain Share)」、仏カルフール、「万達商業(ワンダ・グループ)」、「海瀾之家(HLA)」などの企業に資本参加したことを発表。林氏が今回掲示した顧客リストの中にもこれらの企業は含まれている。
役割分担が明確な提携方式は、テンセントの小売業参入におけるもう一つの手段だ。
テンセントが小売業に参入して以降の事業の境界について、テンセントCEOの馬化騰(ポニー・マー)氏は以前、「テンセントは決して小売事業をやらない。我々はコネクターや基盤としての役割を果たすのみ。クラウドやAIなどのインフラで提携パートナーを支援する」と明言していた。
昨年5月、テンセントは初めて小売事業の展望を公開した。微信(WeChat)公式アカウント、微信支付(WeChatペイ)、ミニプログラム、ソーシャル広告(成果報酬型広告のマーケティングプラットフォーム)、騰訊雲(テンセントクラウド)、企業版WeChat、「泛娯楽(Pan Entertainment)」を含む「7大ツール戦略」だ。
このような細部に至る提携戦略は一部の従来型小売メーカーに安心感を与えることができる。
「我々とテンセントは、互いが自由に過ごし、相互の利益を損なうこともなく独立性を保っている」歩歩高グループ董事長の王填氏はかつて小売業に特化したメディア「商業観察家」の取材に対しこう答えている。昨年2月、テンセントと「京東商城(JD.com)」は16億2600万元(約264億円)を歩歩高に出資し、同社の株式を11%取得している。
資本参加と戦略的提携を通して、テンセントは1年で小売業界の大企業をいくつも取り込んだ。これによりもう一つのインターネット大手、アリババも少し焦り始めているようだ。
「我々はこれまでアリババの眼中になかった。小売業では成功しないと思われていたからだ。しかし、今ではアリババがメーカーを通して我々の小売事業の様子をうかがっていると顧客から聞いた」とテンセント関係者は明かす。
アリババとの差別化をはかる
小売事業においては、アリババは最も早く「新零售(ニューリテール)」という概念を提起しており、京東は「無界零售(ボーダレスリテール)」でそれに同調、テンセントは「智慧零售(スマートリテール)」で両者を追い越そうとしている。三者はそれぞれのフィールドでお互いに方法論の優劣を競っている状況だ。
アリババの小売業向けソリューションの場合、初期は総入れ替え方式の全面的導入が中心となり、難度も高いが、後期に入ると小売企業が完全にアリババのニューリテールシステムに組み込まれることで、提携に関する難易度は双方とも大幅に低下する。
2017年末、アリババは約224億香港ドル(約3130億円)を投じて大型スーパーチェーン「高鑫零售(SUN ART Retail)」の株式を36.16%取得したことを発表。これにより高鑫傘下の「大潤發(RT-MART)」、「欧尚売場(Auchan)」がアリババのニューリテールプロジェクトに組み込まれた。そしてすぐにオンラインで生鮮食品の1時間以内の配達サービス専用アプリ「淘鮮達」を打ち出し、オフラインではスーパー「盒小馬」を立ち上げた。
直接核心をつくのがアリババニューリテールの特徴だ。
「淘鮮達」でも「盒小馬」でも、アリババは常に実店舗のチャネル、物流、サプライチェーン等カギとなるプロセスに照準を当てている。例えば淘鮮達は、大潤發のオフライン事業をアリババのECサイト「タオバオ(淘宝)」に直接組み込み、実店舗での在庫管理や商品ピックアップの最適化をはかる。
しかし、このような戦略は一部の小売企業の不評を買っている。「中国西南部の小売王」という称号を持つ歩歩高グループは、ニューリテールでアリババと18カ月間に及ぶ提携協議を行ったが、合意には至らなかった。
前出の歩歩高グループの王氏によると、アリババは自身の事業が小売に関連しているため、小売企業との提携プロジェクトでは強気に出ており、中核的なサプライチェーンであろうがユーザーの消費データであろうが、非常に強い支配欲を持っているという。
これに比べると、テンセントの場合は、導入初期には個々のソリューション、機能のレベルアップが中心であるため、難度は高くない。しかし後期に入り、事業・データ面で提携企業やシステムインテグレーターとのすり合わせが必要になった時に、難度が急に高くなる。
小売業の改造をフロントエンドからバックエンドまでどのように進めていくか。これがテンセントに現在不足している部分だ。
テンセントがこのたび発表した新しいソリューション「騰訊優碼」は、フロントエンドのQRコード、中間に位置するデータセンター、バックエンドのCRM(顧客関係管理システム)やチャネルのデジタル化など様々な機能を誇る。これは「7大ツール戦略」を発表した昨年以降、小売事業の改造の重点をバックエンドやサプライチェーンに移してきたシグナルでもある。
「テンセントのスマートリテールはまだ始まったばかりだ。デジタル化の検証を行ってこそ、モデルのアップグレードや転換を行うことができる。我々はスタートラインに立ったばかりなのだ」と、テンセントスマートリテール戦略提携部門副総裁の田江雪氏は語った。
(翻訳・山口幸子)
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