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ムハンマド・ビン・サルマン皇太子が会長を務めるサウジアラビア政府系の公共投資ファンド(PIF)のマネジングディレクターであるヤシル・アルルマヤン氏が、初夏の北京を訪れた。PIF代表として今年2回目、2年間で5回目の中国訪問となる。同ファンドはすでに米国の多くのユニコーン企業(評価額10億ドル超の株式未公開企業)に投資してきたが、、今は中国への関心を高めているに違いない。
運用資産規模は3000億ドル(約33兆円)を超える世界最大の政府系ファンドの一つであるPIFは2016年、ソフトバンク・ビジョン・ファンド(SVF)に450億ドル(約5兆円)を出資し、SVFのの最大出資者となった。また、これによりSVFの資金規模は1000億ドル(約11兆円)に達し、米シリコンバレーの老舗ベンチャーキャピタル(VC)に衝撃を与えた。
PIFとPIFの後ろ盾を得たSVFは、テクノロジー分野の投資勢力図を大きく塗り替えた。黒字化に至っていないリーディングカンパニーは両者からの巨額投資によって、特定分野における影響力を一気に高めることができた。例えば自動車配車サービス分野では、ウーバーに92億5000万ドル(約1兆円)を出資し、筆頭株主の座に就いた。また、自動運転分野では、Google系列のウェイモのトップの地位を脅かそうとGM傘下のクルーズに出資した。半導体分野では、エヌビディア(NVIDIA)に50億ドルを出資した。2018年における米国内ベンチャーキャピタルの年間投資総額が995億ドル(約11兆円)であるのに対し、SVFがこれまで世界でトップレベルの将来性があるテクノロジー企業に出資した総額は750億ドル(約8兆2000億円)であり、うち220億ドル(約2兆4000億円)を中国企業に出資している。
これほど潤沢な資金を保有しているPIFであれば、当然次の大きなターゲットを探しているはずだ。そのターゲットは中国なのだろうか。
今回、PIFマネジングディレクターのヤシル・アルルマヤン氏が、36Krの独占取材に応じてくれた。主なやりとりは次の通りである。
サウジの世界最大ファンド:ソフトバンクの次は中国をターゲットに?(上)
ハイリターンが望める分野に関心
――これまでPIFはSVFを通じて中国に100億ドル(約1兆1000億円)を投資してきました。中国市場をどのように見ていますか。
「2日前まで東京にいたが、孫正義氏とSVFによる新たな投資先の大部分が中国企業だった。大変優れた企業が多く、少なくとも8社あるが、まだ投資情報を公表していないため、具体的な企業名は申し上げられない。これらの優良企業は規模が大きく、今後さらに大きくなる可能性がある」
――今後の国際市場での投資戦略を教えてください。北米、中国及びほかの新興市場はそれぞれどのくらいの割合を占めていますか。
「まず基本戦略を説明すると、PIFの現在の運用資産規模は3000億ドル(約33兆円)を超え、2030年までに2兆ドル(約220兆円)に達する見込みだ。2015年まで主な投資先はサウジアラビア国内で、国際市場は2%にすぎなかったが、現在はSVFを通じて国際市場への投資が全体の14%までに拡大した。2030年には国内市場と国際市場への投資割合がそれぞれ50%になるだろう」
「アジアでも多くの投資を行ってきた。SVFを通じて中国に100億ドル(約1兆1000億円)を投じており、主に中国企業12社に投資した。アリババ傘下のフィンテック企業であるアント・フィナンシャル(螞蟻金服)には、初期の外資ファンドとして出資を行った」
「さらにロシアとも協力し、サウジ・中国・ロシアへの投資を行うファンドを設立している。このように2015年から中国は常に我々の投資圏に入っている」
――近々PIFは中国拠点を設置するとのことですが、これによって中国への投資活動はどのように変わるのでしょうか。
「唯一変わるのは、投資額が拡大していくという点。言うまでもなくPIFは中国市場を重視しており、中国は今後も成長を続け、世界最大のGDPを誇る最も重要な経済大国となるだろう」
「私が前回中国に来たのは今年2月で、皇太子の訪中に同行した。訪問中、皇太子はサウジアラビアと中国の協力関係は、政治、文化、社会面だけでなく、投資面にも及ぶと強調した。サウジアラビアは世界で初めて中国語を小、中、高12年間学校教育の必修科目と定めた国であり、これは中国をいかに重視しているかの表れである」
――中国市場のどのような分野に興味がありますか。
「いかなる事業に関しても、高いリターンを得られるすべての分野に興味を持っている。数字で言えば、13~18%のIRR(内部収益率)を求めている。高い収益率を得られる会社をサウジアラビアに誘致する可能性もある。EC、人工知能、ロボット等、どんな分野でもあり得る」
効率的フロンティアを重視する政府系ファンド
――PIFは他の政府系ファンドと比べて、どのよう相違点がありますか。
「PIFは1971年の設立以来、多くの素晴らしい投資を行ってきた。例えば世界最大の石油化学メーカーであるサウジ基礎産業公社(SABIC)、サウジ電気通信会社(STC)、サウジ電力会社(SEC)、ほかにも国内の半数もの銀行に投資してきた。中には全く成功しなかった投資もある」
「2015年にムハンマド・ビン・サルマン皇太子がPIF会長に就任し、新たな投資戦略を策定した。簡単にいうと、サウジアラビアの潜在的な発展の機会を探ると同時に、ソフトバンクやブラックストーンのような世界的なパートナーに出資し、国際市場でバランスのとれたポートフォリオを構築することを目指している」
――投資の安全性を重視する政府系のPIFはテクノロジー分野で大型投資を行っていますが、これについてどのようにお考えですか。
「この件に関して、我々は資産配分が効率的フロンティア曲線にできるだけ近い方が良いと考えているため、リスクの許容範囲内でリターンを最大化させるように資産を組み合わせて運用している」
――ファンドの規模とリターンはどのような相関性があるのでしょうか。
「規模が大きいと効率が低いと思われがちだが、我々の考えは異なる。PIFはSVFに450億ドル(約5兆円)、ブラックストーンにも200億ドル(約2兆2000億円)を投資した。資金規模が大きくなれば、柔軟に運用して新しい市場の開拓や戦略の転換も可能になる」
「米シリコンバレーの電気自動車(EV)ベンチャー、ルーシッド・モーターズを例に挙げよう。我々は同社の株式の67%を保有しているため、米国工場の生産ラインの稼働開始に合わせ、サウジアラビアにも一本生産ラインを作らせた。これによって、リターンも売り上げも2倍に拡大した」
――PIFの目標の1つであるサウジアラビア経済の活性化と投資による「脱石油」化の進展状況はいかがですか。
「海外での投資により、収入源は確実に多様化する。また、投資を通じて多種多様な事業を展開している企業に目を向けるようになり、こうした企業を将来的にサウジアラビアに誘致する可能性もある」
――2017年から始まった「フューチャー・インベストメント・イニシアチブ(FII)」は、数多くの世界的な企業家や投資家が参加する、サウジアラビアにとって非常に重要な投資会議ですが、今年はどのようなチャンスがありそうですか。
「この会議は2017年に始まり、非常に大きな成功を収めている。すでに世界三大ハイテク投資会議の1つになったと言えるだろう。今年10月に開かれる会議には、5000人のゲストが参加する予定で、そのうち海外からのゲストは60%を占める。ゲストスピーカーによる講演は、主に投資に関する世界の現状と展望をテーマにしている。前回中国からのゲストは100名だったが、今年は招待する人数を増やす予定だ」
(翻訳・桃紅柳緑)
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