ChatGPTに震撼し、中国企業が爆速で開発実装した2023年【年末特集】

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2023年、世界中がChatGPTの登場に震撼した。中国でも23年のトレンドワードになり、次のチャンスを逃すまいと多くの企業が生成AIや大規模言語モデル(LLM)開発に参戦した。100を超えるとも言われるプレーヤーが参入する中国の大規模モデルを軸としたAI産業について以下にまとめてみたい。

テック大手の開発競争

ChatGPTを追ってまず動き出したのが以前からAIに社運をかけた「バイドゥ(百度)」だ。同社はLLM「文心大模型」をベースにした対話型AI「文心一言」を3月に発表し存在感を示した。4~6月期には純利益が前年同期比で4割増を記録した。比較対象がゼロコロナ体制の期間ではあるものの、それでも生成AIビジネスへの明るい未来に手応えを感じた。当初は主にビジネス向けだったが、同年7月には個人向けのアプリも登場した。さらに8月には中国自動車大手の「Great Wall Motor(長城汽車)」などとの提携を発表し、文心一言を同社が注力する自動車産業のスマートコックピットに活用していく方針を明らかにした。

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続いて「アリババ(阿里巴巴)」が対話型AI「通義千問」や画像生成AI「通義万相」などを発表した。アリババの企業向けコミュニケーションツール「Ding Talk(釘釘)」に導入され使えるようになった。個人向け画像生成AIアプリ「妙鴨相机」などでコンシューマー向けAIサービスも模索した。後にリリースした「Qwen-72B」は、主要な10のベンチマークテストでオープンソースLLMとしては最高スコアを叩きだし、一部の指標ではクローズドソースのGPT-3.5やGPT-4を上回るなど高く評価された。

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ほかにも、「ファーウェイ(華為)」は産業向けに特化した「盤古大模型」を、テンセントは「混元大模型」をリリースするなど、中国を代表するIT大手が続々と発表を行いバージョンアップを重ねた。

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拡大する利用シーン

特定の応用シーンに照準し、AI開発競争に参戦した企業も少なくはない。たとえば、フォトレタッチの「Meitu(美図)」が画像映像に特化した生成AIを、「トリップドットコム(携程集団)」が旅行のカウンセリングに特化した生成AIを、「CloudMinds」などがロボット向けの生成AI「RobotGPT」を、住宅内装デザインの「Futurebox」が内装設計を効率化する業界に特化した生成AIをリリースした。また、EVの理想汽車がよりスマートなコックピット実現に向けた大規模モデル「Mind GPT」を車載アシスタント「理想同学」に導入した。とにかく各業界のテック企業が一斉に開発を行ったわけだ。

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23年11月11日に開催されたEC戦商「ダブルイレブン」は消費的には盛り上がりに欠けた。一方、例年このイベントは消費のイベントであり、また過去にはキャッシュレスやARなど新技術を導入するトリガー的なイベントでもある。23年は各社がショップに対してAIツールを活用してもらおうとアクションを起こした。例えば「Tmall(天猫)」や「タオバオ(淘宝網)」などアリババグループのEC事業ではオンラインショップ加盟店のために10以上のAIツールを用意した。アリババを追うEC大手の「JDドットコム(京東)」は、AIを活用したショッピングアシスタント「京小智」の活用を推進した。バイドゥもまた同社のECサービス「百度優選」にAIアシスタント「小優」を導入した。テンセント傘下でネット広告事業を手がける「騰訊広告」は広告制作に「混元大模型」を活用できるようにした。ソーシャルECの「RED(小紅書)」は文書作成用AIアシスタントを発表し、ワンクリックで商品の説明文を投稿できるようにした。

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中国企業が海外市場でモノを売ろうとする動きが強まる中、AI生成を活用し英語のコミュニケーションに問題ない相互にコミュニケーションが可能なデジタルヒューマンやデジタルツインなどの最新デジタル技術を使い、EC企業の海外進出を支援する企業も続々と登場した。ショート動画プラット「TikTok」と「抖音」を運営する「バイトダンス(字節跳動)」も、中国国内と世界市場向けに生成AIソリューションやアプリの展開を行っている。

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ユニコーン企業の台頭も

生成AIをサポートする企業が一気にユニコーン企業となるケースも見られた。大規模言語モデルを開発する「智譜AI(Zhipu AI)」はその実力からテンセントやアリババなどから投資を受けている。背景にはアリババ、テンセントの双方とも大規模言語モデルに関する技術では米OpenAIのGPT-4からは後れていて、また国内の競合を大きく引き離しているわけでもなく、強力なプレイヤーが現れればいつでも業界再編が起こる可能性がある。そこでIT企業の間では投資やM&A、業務提携などを通じて大規模言語モデルを開発する智譜AIのようなベンチャー企業とアライアンスを組むことが共通の手法となっている。

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AI活用を目指す企業にAIを鍛えるための合成データのソリューションを提供する「光輪智能(北京)科技」は23年に設立されながら何度も資金調達を受けた。AIチップなどAI系ハードウエア企業にも注目が集まった。自動車産業では自動車企業だけでなく自動車部品企業を巻き込み産業が発展するが、生成AIにおいても部品を提供する企業も大きく成長し、ひいては中国のAIサービスが高速で続々とリリースされアップデートされている。「とりあえずわが社も生成AIを」という雰囲気の中でAIエンジニアの人材確保合戦が行われ人件費は大幅に向上した。

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ChatGPTがもたらした破壊的な技術革新の話題で世界中が沸き、新たに「AI訓練師」と呼ばれるアノテーターも登場。テキストや画像にタグをつけてAIモデルを鍛えるためのもので、多くの大学生が雇われ、パソコンがずらりと並ぶ部屋で1日に何千回もマウスを動かす光景がしばしば報じられた。

最後に

ここに挙げたのは全体の一部分にすぎない。それほどに中国でAIは最もホットな技術トピックのひとつだった。中国の調査会社「胡潤研究院(Hurun Research Institute)」が発表した「2023年世界ユニコーンリスト」によると、世界のAI業界のユニコーン企業は105社あり、そのうち中国企業は30社余りがリストに名を連ねる。米国によるファーウェイなどへの規制もしかり、ネットワーク安全法しかり、他国への依存を脱却するため、中国国内でハードウエアからソフトウエアまで上流から下流までAI関連のあらゆるものを自国産で賄いつつ米国に追いつこうとするはずだ。その一方で中国国外に活路を見出す中国企業をサポートする生成AIサービスや、あるいははじめからグローバル市場を狙った生成AIサービスも増えていくだろう。

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(作者:山谷剛史)

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