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日本の不動産情報を中華圏に提供するネットサービス会社の神居秒算(東京・港区)は2024年1~3月の顧客動向を明らかにした。同社の中国語公式サイトへのアクセス人数は約29万人と前年同期の1.9倍近くに増え、中華圏全体で日本の不動産への関心が高まっている。物件を問い合わせた顧客を国・地域別にみると、台湾の比率が37%と前年同期から15ポイント上昇した。物件の所在地別では、福岡県や東京都新宿区の問い合わせが増えている。
神居秒算は東証グロース上場で、IT(情報技術)を活用した不動産仲介を手がけるGA technologiesグループ会社。中華圏に日本の不動産情報を紹介するサービスとしては業界最大級の規模を持つという。
今回は日本の不動産仲介会社の手持ち物件を神居秒算が中国語サイトに掲載し、中華圏の顧客とつなぐマーケットプレイス事業の24年1~3月のデータを公表した。このサイトは現在、約7000の物件が閲覧できる状態にあり、累計で500社の仲介会社が物件を掲載した実績がある。
サイトへのアクセス人数(同一ユーザーによる複数回の閲覧を除いた正味の人数)は28万9830人と前年同期に比べ88.5%増加した。23年10~12月に比べても6.8%増加しており、神居秒算は「中華圏と日本の往来が新型コロナウイルス禍の収束によって正常化して以降、日本の不動産への投資に対する関心は着実に高まっている」(ヤンロン執行役員COO)と分析する。
同社のサイトを経由し、日本の不動産仲介会社に物件を問い合わせた顧客を国・地域別にみると、中国本土(43%)、台湾(37%)、香港(12%)、東南アジアや日本などその他(8%)という比率となった。このうち台湾は前年同期の22%から急上昇し、投資意欲が急速に高まっていることが鮮明だ。
神居秒算はこの傾向について「複数のマクロ的な環境変化が背景にある」(ヤン氏)とみている。まず、台湾で中心都市の台北市を中心に不動産価格が高騰している点だ。台湾は中華圏のほかの地域と同様、不動産信仰が強いが、近年は台北で住宅用地の不足などが深刻化し、マンションの面積当たり単価は東京の一等地よりも高くなっている。
結果として、不動産を投資対象とみる台湾の顧客が海外市場に目を向けている。かつては中国や香港の不動産が人気だったが、中国は不動産市況の低迷が長期化しているうえ、現在は政治対立や規制もあって投資対象としにくい。もともと台湾の住民は親日的であり、円安効果もあって日本の不動産を海外投資のポートフォリオに加える例が増えているという。
神居秒算は台湾の大手半導体メーカー、台湾積体電路製造(TSMC)が熊本県菊陽町で工場を建設していることも背景の一つだと推察している。実際に、24年1~3月に顧客が問い合わせした物件を都道府県別の比率でみると、定番の東京(46%)、大阪(23%)、京都(12%)に続き、九州最大都市の福岡が4位(9%)に入った。中華圏で人気の観光地である北海道(4%)から4位の座を奪っている。
神居秒算は台湾からの対日不動産投資が当面、特に九州で高い水準を維持すると判断している。このため23年末から、台湾で使われる漢字の字体「繁体字」を使ったYouTubeの宣伝動画を作成するなど、台湾顧客の開拓を強化している。
物件の価格帯をみると、24年1~3月の顧客からの問い合わせは比率の高い順に1億円以上(26%)、1200万~3000万円(24%)、1200万円以下(22%)だった。中華圏の顧客の対日不動産投資はもともと、1億円以上の高額物件と3000万円以下の割安物件に分かれる傾向にあるが、このうち1億円以上の比率は前年同期から9ポイントも上昇している。
日本の不動産価格全体が上昇傾向にあることが大きな原因だが、神居秒算は以下の理由もあると分析している。
それは購入者自身がその物件に住むことを目的とする実需の拡大だ。中華圏から日本への不動産投資はもともと、投資と実需が混在してきた。間取りがワンルームや1Kなどの3000万円以下の物件は基本的に賃貸収入による投資利回りを期待した購入対象であり、対日投資の初心者が手がける価格帯とされる。逆に、1億円以上の物件の比率上昇は実需の増加を示している可能性が高いという。
物件のタイプ別では、24年1~3月の顧客からの問い合わせ比率はマンション(63%)、一戸建て(21%)、ビル(13%)、土地(1%)の順だった。この比率には前年同期や前四半期との大きく変わっていない。
顧客から問い合わせがあった物件の所在地のうち、東京都内の自治体別では新宿区(19%)の比率が一位だった。新宿区は前年同期には上位に入っていなかったが、23年10~12月に12%で一位につけ、24年1~3月にはさらに比率が上がっている。
新宿区のうち、問い合わせが明確に多かったのは西早稲田と高田馬場だったという。いずれも早稲田大学に徒歩で通える地区だ。早大は中華圏で東京大学と並ぶ知名度があり、ヤン氏は「早大に留学している子供を持つ中華圏の顧客がその生活用に購入する例が多い」と指摘する。新宿区以外の自治体では、港区と渋谷区が11%と同率で2位につけた。
神居秒算のマーケットプレイス事業では、気に入った物件を見つけた中華圏の顧客は日本の不動産仲介会社に直接連絡し、購入手続きに入ることになる。仲介会社にとっては、日本人顧客に比べて手間がかかる印象があるが、中華圏の顧客は決断が速く、成約に至るまでの期間は大きく変わらないという。ヤン氏は「特に台湾の顧客からの関心が高まっている九州の仲介会社には、当社のサービスを積極的に使ってほしい」と話している。
(取材:36Kr Japan編集部)
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