中国EV最前線ーーBYDやNIOが新車攻勢、PHEV・大型SUVの投入加速【上海モーターショー2025・後編】

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中国EV最前線ーーBYDやNIOが新車攻勢、PHEV・大型SUVの投入加速【上海モーターショー2025・後編】

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2025年5月2日に閉幕した「上海モーターショー2025」。前編に続き、後編にあたる今回は中国メーカーを中心に、全体の傾向をレポートしていく。

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BYD、プレミアム車で存在感を発揮

日本の街中でも徐々に見るようになってきたBYDは、今回の上海モーターショー2025でも多数の新モデルをお披露目した。まずは最高級ブランド「仰望」からは発売中のオフロードSUV「U8」をより大型化した「U8L」が登場した。全長は5139 mmから5400 mmへ、ホイールベースも3050 mmから3250 mmへ延長したU8Lはボディだけじゃなく、24Kゴールドのエンブレムを採用するなど「プレミアム感」にも抜かりはない。

また、「デンツァ(騰勢)」ブランドからは初となる2ドアスポーツカー「Z」を発表した。ボディサイズは仰望のスーパーカー「U9」よりも比較的小柄で、フロントマスクも既存のスーパーカーのような保守的なデザインを取り入れている。こちらも電動パワートレインに関する詳細はまだ公開されていないが、クイックでスムーズなハンドル操作を実現する「ステア・バイ・ワイア」や、ランボルギーニ ウラカンEVOやホンダ NSXなどでも採用されている磁性流体式サスペンション「磁気レオロジー・サスペンション」といった珍しい技術もたくさん搭載している。

一方、「方程豹」ブランドのブースでは2025年4月16日に発売されたばかりの同ブランド最小SUV「鈦3」が目玉となった。小型ボディながら力強いフロントマスクとプレスラインでオフロード感を演出、上位モデルではツインモーター415 hp/510 Nmで力強い走りが楽しめる仕様だ。

BYDはこれだけではない。本家のラインナップからは国際モーターショー初登場となる11車種が展示され、広大なブースは来場者でごった返した。メインステージ上には「ダイナスティ-D」「オーシャン-S」の2台を展示、それぞれ王朝シリーズのフルサイズSUVと海洋シリーズのフルサイズセダンを予期させるコンセプトモデルだ。また、市販モデルでは純電動セダン「漢L」「秦」「シール06 」、SUV「唐」「シーライオン05」「シーライオン06 」、プラグインハイブリッド(PHEV)SUV「シーライオン06 DM-i」「シーライオン07 DM-i」、そしてステーションワゴン「シール06 ワゴン DM-i」といった車種をお披露目した。

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特筆すべきはBYD初となるステーションワゴンのシール06 ワゴン DM-iで、セダンの「シール06 DM-i」のボディを延長、ハッチバックにしたモデルだ。ワゴン人気の高い欧州市場を意識した商品となるが、ここ最近中国メーカーによる新たなワゴン車種がなかなか登場していなかっただけに、中国市場においても新鮮な選択肢だろう。

BYDは以前より同じ車種でPHEVとBEVの二方面作戦を展開していたが、ここ最近では同じ車名を冠していても、ボディやプラットフォームが別というパターンが増えてきている。例えば「秦L」という低価格帯のセダンでも「DM-i」モデルと、「EV」モデルを用意している。同じ車名ではあるが両者のボディはまったく異なり、例えばホイールベースはDM-iが2790 mm、EVが2820 mmとなる。ボディ形状自体もEVの方が若干厚ぼったく、リアの処理はDM-iと比べてよりファストバック形状に近い雰囲気を醸し出す。

BYDとしのぎを削る「吉利汽車」、複数ブランドで勝負

BYDとしのぎを削る民営メーカー「吉利汽車(ジーリー)」は多数のブランドを取り揃えることで有名だが、今回もそれぞれから新モデルが登場した。海外展開も積極的な若者向けブランド「リンク・アンド・コー(領克)」からは同ブランド最大のSUV「900」が公開された。

車名はこれまでの命名規則「01〜09」から外れ、大スケールのボディを誇る。室内は3列シートレイアウト、2列目シートは電動回転機能も備えているので3列目との対面形式や、乗り降りのしやすさ、アウトドア用途にも有用な横向きにも回転が可能だ。ルーフには30インチ6Kディスプレイという中国メーカーの中でもトップサイズのディスプレイを搭載しており、「理想 L9」「AITO(問界)M9」「デンツァN9」 といった各中国ブランドのフラッグシップSUVに対抗する。パワートレインはPHEVのみ、1.5ℓターボと2.0ℓターボとでグレードが分かれてるだけでなく、トップグレードは合計出力871 hp/1248 Nmの2.0ℓターボ+トリプルモーターとなる。

また、プレミアムブランド「ZEEKR(ジーカー)」からはリンク・アンド・コー 900とプラットフォームを共有する超高級SUV「9X」が登場した。基本的な寸法もあらかた900と同じで、全幅だけ少し広い形だ。一方でパワートレインは900と異なり、BEVとPHEVの両面作戦、ジーカーとしては初のPHEVとなる。9XのPHEVは単体で出力275 hp、熱効率46%超を誇る2.0ℓターボエンジンを搭載しているが、システム総合出力に関してはまだ公表されていない。

一方でBEVは前389 hp・後496 hpのモーターを合わせて885 hpを誇る。運転支援機能も抜かりはなく、それを支えるLiDARユニットは驚異の5基構成、ソフトウェアをつかさどるチップセットは1400 TOPSということで、レベル3自動運転時代の到来でもシームレスに対応できるとアピールしている。

つい2〜3年ほど前まで、各メーカーが「プレミアム価格帯」を競い合う領域は全長5メートル・全幅2メートル前後の大型ミニバンであったが、この1年ほどはBYD「デンツァN9」や、「仰望U8」といった高級モデルが登場し、フルサイズSUVの高級化が顕著になっている。

勢い止まらぬ、中国新興EV勢

「蔚来汽車(NIO)」や「小鵬汽車(Xpeng Motors、シャオペン)」、「理想汽車(LiAuto)」、そして「零跑汽車(Leapmotor)」など、中国新興勢の中でも割と軌道に乗りつつあるブランドたちの状況はピンキリだ。

NIOは欧州市場を意識した小型車ブランド「firefly(蛍火虫)」を中国でローンチ、初のモデルは11万9800元(約240万円)で販売される。電動化の進む独BMWの「MINI」や独メルセデス・ベンツの「Smart」といった欧州ブランドをライバル視するfireflyは、NIOの特徴「交換式バッテリー」への対応で差別化を図る一方、既存のNIO車種とはホイールベースが異なるため、これまで中国約3200か所、欧州約50か所に建設された交換ステーションが使用できない形だ。

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ただでさえ赤字続きの充電ステーションなのだが、これに加えてfirefly対応型のステーションをさらに増やせるのかには疑念の余地が残る。NIOは他にもフラッグシップセダン「ET9」を公開、こちらはアメリカ企業「クリアモーション」が開発した油圧式アクティブサスペンションを搭載しており、段差や凹凸の衝撃を完全に吸収して乗り越えるだけでなく自由自在に車体を「踊らせる」ことも可能だ。

理想はミニバン「MEGA」に続く2番目のBEVモデル「i8」を2025年2月に公開したばかりだったが、残念ながら実車は上海モーターショー2025に姿を見せなかった。MEGAと同じ「高速鉄道車両」のような見た目を採用しているが、i8はSUVモデルとなっており、車体の厚みもかなり薄くされている。SUVはこれまでレンジエクステンダー付きEV(EREV)しか取り揃えていなかった理想にとって純電動SUV「i8」は新たな挑戦となる。

世界5位の自動車企業連合体「ステランティス」が株式の20%を所有する「Leapmotor」は純電動セダン「B01」を公開した。Leapmotorはかつて弱小新興メーカーの印象が強かったが、2024年以降は着々とラインナップを拡充して販売台数も増加、欧州の伝統メーカーが連携の相手に選ぶほどにはプレゼンスを発揮している。車体のデザインセンスや製品品質の問題は気になるものの、電動パワートレインに関する確かな技術力はあり、そこが買われている印象だ。

一方でシャオペンは上海モーターショーで電動セダン「P7+」のマイナーチェンジモデルを発表するにとどまった。新しくなったP7+は5C充電技術を採用、充電能力を1/5に短縮してわずか10分で420 km走行分を充電できるとアピールする。

PHEVが再び主流に

完成車メーカー全体の傾向としてはここ1〜2年のPHEV再興の流れを汲み、新たなPHEV車種が多く見受けられた。もちろんBEVの新車種も多く発表されたが、やはりPHEVに比べると今は落ち着いている段階にあると感じる。

これに関連し、PHEVやレンジエクステンダー付きEV(EREV)に搭載する多種多様なエンジンも各メーカーのブースを彩った。特に先日BYDが高級ブランド「仰望」から投入すると発表した水平対向エンジンは、BYD以外にも国営メーカー「奇瑞汽車(チェリー)」や、仏・ルノーとジーリーのパワートレイン合弁「ホース・パワートレイン」などが新開発の個体を出展した。

BYDの水平対向エンジンは2.0ℓの4気筒ターボに対し、チェリーでは小型車向けに1.2ℓの2気筒自然吸気のものを開発、熱効率は45%を達成したとアピールする。ホース・パワートレインもすでに開発は進めており、こちらは1.0ℓの2気筒自然吸気となる。もし本当に市販車へ搭載されたら、1.0ℓクラスの水平対向エンジンはスバルが1966年に投入した「EA52/EA53」以来、水平対向2気筒エンジンでは愛知機械工業が1962年に発売した「コニー 360」用エンジン以来の新型4輪車用ユニットとなるだろう。

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「空飛ぶクルマ」も⋯自動車以外ではいわゆる「空飛ぶクルマ」の展示も多く見られた。「空飛ぶクルマ」と言うと近年は自動車に似せようという努力もしていない、単なる「ドローン以上・旅客機未満」の飛行物体の開発が目立っている。だが、今回新たに「空飛ぶクルマ」を披露した広州汽車やチェリー、第一汽車の高級ブランド「紅旗」ではそのどれもが四輪車を備える自動車のベースをボディとしつつ、四角形のキャビンや主翼、ローター(回転翼)といった航空機の要素を兼ね備えていた。航空機だけではなく自動車としても運用することが考えられているのであれば、「空飛ぶクルマ」という名称も妥当だ。

中国の曖昧な対外姿勢

毎年新たなトレンドを見せる中国のモーターショーだが、一方で外国人の対応はいつも通りイマイチ、それどころか今年は外国人メディアへの締め付けを強化して直前まで入れるかわからない状況だった。海外へのアピールをしたいのかしたくないのか相変わらずよくわからないものの、そういった事が起きると「何としてでも取材してやるぞ」と燃える気分にさせてくれるのは確か。

来年は上海ではなく北京モーターショーとなるが、いったいどんな顔を見せてくれるのか今から楽しみだ。

(中国車研究家 加藤ヒロト)

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