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トランプ政権は最近、中国医薬業界に矛先を向けた。9月10日の海外メディアの報道によると、米国政府は新たな行政文書の草案を準備しており、重点は米中間の創薬の事業取引(Business Development=BD)を中心に協力を制限することにある。具体的な措置には以下が含まれる。①米国の製薬会社が中国からの新薬調達を制限;②薬品ライセンスの取引の審査義務化;③中国の臨床データへの審査を強化;④一部薬品の米国内回帰(生産拠点の移転)を推進。
報道を受けた翌日11日、上海市場のA株や、香港市場のH株で創薬の銘柄は軒並み下落した。百済神州(ビーワン・メディシンズ) 、栄昌生物(RemeGen)などの個別株が弱含み、香港株の多くの製薬企業は下落幅10%を超えた。しかし市場が悪材料を消化すると、12日昼には回復し始めた。
創薬事業の取引がなぜ標的になるのか
事業取引はすでに米中間での創薬分野での協力の主軸となっている。グローバル製薬会社は、長年にわたり買収または技術ライセンス導入を通じて中小型バイオテクノロジー会社の製品を取り込み、それによって自らのイノベーションの活力を維持してきた。しかし近年、中国の創薬はグローバル市場で頭角を現し、市場に最初に登場する画期的新薬(First in Class)の研究開発速度で欧米と日本企業を上回る存在になりつつある。さらに、人材、臨床試験、サプライチェーンなど新薬の研究開発のそれぞれの段階でいずれも「より速く、より低く」成果を出しており、グローバル製薬企業の買収・ライセンス対象の重心は徐々に米国から中国へ移っている。
2025年1~6月期だけで、中国創薬のライセンス売却の総額は608億ドル(約9兆円)に達し、前払い金は26億ドル(約3800億円)となった。グローバル製薬企業は中国企業の研究開発の速度、臨床試験の効率、コスト面での優位性を重視し、相次いで中国で新薬開発のパイプラインを推進している。米金融グループ、ジェフリーズ(Jefferies)のリサーチによると、2025年1~3月期のグローバルのバイオテクノロジーに関する事業取引のうち、32%が中国で発生し、2年前の21%を大きく上回った。
このトレンドは一部の米国スタートアップや投資機関の不満を招き、グローバル製薬企業が米国企業を軽視していると見なされた。トランプがこれを期に推し進めている草案の支持者には、シリコンバレー投資家ピーター・ティールや、グーグル共同創業者セルゲイ・ブリン、そしてトランプの娘婿クシュナー氏傘下の投資会社が含まれている。
しかし草案にはなお論争が存在する。たとえば、創薬の事業取引をCFIUS(米国外国投資委員会)の審査の義務化に組み入れるとする案が浮上している。従来、CFIUSは主に半導体、軍需産業など機微な産業を対象にしてきたが、医薬品はすべからく「機微な産業ではない」と見なされてきた。法曹関係者は「たとえ実施されても範囲は幹細胞治療・再生医療や、ヒトゲノムなどの領域に限定される可能性があり、そのほかの取引は依然として続くだろう」と指摘した。
「敵を1000殺すと同時に、自ら800を失う」構図
産業界の視点から見ると、草案は中国製薬企業に対して制限するだけでなく、米国製薬大手の利益にも打撃を与える。ある業界関係者は「これは敵を1000殺すと同時に、自ら800を失うのと同じだ」とはっきりと述べた。
グローバル製薬企業は長期にわたり事業取引を主導し、莫大な利益を得てきた。たとえば、独ビオンテック(BioNTech)は2024年に8億ドル(約1180億円)で中国の普米斯生物(Biotheus)の二つの抗原に同時に作用して、腫瘍の治療などの効果が高まるとされる二重特異性抗体(BsAb)の事業を買収し、半年後すぐに最高90億ドル(1兆3300億円)の対価でブリストル・マイヤーズ スクイブ(BMS)に転手した。
米ファイザー、米メルク、英アストラゼネカなど巨大企業はいずれも草案に明確に反対している。ファイザーのブーラCEOは「中国との協力は会社に利益があるだけでなく、米国患者にも利益がある」と強調した。今年1~6月期、ファイザーは中国の三生製薬と12億5000万ドル(1840億円)の前払い金による二重特異性抗体についての協力を達成し、年間の新記録をつくった。
現在、業界内では草案には不確定性があるとみられている。一つには、草案が関わる主体は多岐にわたり、複数の国のグローバル製薬企業と中小型テクノロジー企業に関わるため、駆け引きもまた非常に入り組んでいる。そして、米国大型製薬企業のロビー活動の力は強く、交渉で有利な条項を引き出す余地がある。トランプ政権は、これまでも、急進的な提案を交渉カードとして用いる手法を取ってきており、今回も政治的駆け引きの一環との見方が根強い。
*1ドル=約148円で計算しています。
(36Kr Japan編集部)
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