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日本ですっかり定着したガチ中華だが、ブームが過ぎると日本人客は減り、ほとんどの店は在日中国人に支えられ経営を続けている。しかし中国人だけを相手にしていると出店エリアが西川口や池袋など一部に限られ、天井が早々に来てしまう。安定と成長のためには日本人客の獲得が必須だ。
2ケタ出店に必要な日本人客
日本でガチ中華の店を7店舗展開する牟(ムー)さんは、成長の壁にぶつかっている。
牟さんは2018年、都内で雲南料理店「食彩雲南」をオープンした。その後、コロナ禍のガチ中華ブームに乗って、蒸気海鮮や蒸気鍋といった中国で流行っている新しいジャンルの中華料理店を次々に出店した。
白い水蒸気がシューっと立ち上がる蒸気料理はSNS映えし、メディアの取材も多く受けたが、日本人の知名度が低い料理のためか店舗を訪れるのは中国人ばかりだ。近年はガチ中華が飽和気味で競争が激化し、西川口の食彩雲南は閉店、池袋店は場所を移転したり業態変更したりと試行錯誤が続く。
在日中国人には大人気でも、日本人客の認知が進まないガチ中華店は成長に限界がある。
マーラータンチェーンの「周黑鴨大夫人」は池袋、西川口、高田馬場などで7店舗出店している。広東省の土鍋ご飯(煲仔飯)が食べられる「民記煲仔飯」は池袋、高田馬場、西川口の3店舗を運営する。どちらも中国人客がターゲットで店内ではほぼ中国語しか聞こえない、SNSなどでのマーケティングも中国人向けのrednote(小紅書)が中心で、日本人の認知はガチ中華好きの筆者のような「ニッチ」にとどまる。
そうすると出店エリアも池袋、西川口、高田馬場、上野といったガチ中華の集積地に限定されるので、2〜3店舗の展開で頭打ち、5店舗以上に広げられれば大成功という世界になる。
冒頭の牟さんはガチ中華のオーナーとしては勝者だが、店舗数を2ケタに乗せるためには「日本人客の認知」という壁を超えないといけないのだ。

人気店は地道な努力
その壁を超えつつあるガチ中華の代表が、羊肉が自慢の「味坊」と四川料理の「陳家私菜」で、前者は14店舗、後者は8店舗を運営する。どちらも客の大部分が日本人で、日本人向けメニューといった定番の施策以外に、独自の工夫が光る。
最近だと、味坊の看板メニューである羊料理と陳家私菜の看板メニューである四川料理をあわせたコース料理が食べられるというガチ中華好きにとっては夢のようなコラボ企画が、それぞれの店で開催された。陳家私菜のオーナー陳さんによると、同店で行われた会には日本人を中心に110人が参加した。
陳さんは「お店に足を運んでくれたお客さんの口コミで少しずつ日本人のお客さんが増えています。今ではそのお客さんが中心となって陳家私菜のファンの集いを開催してくれるまでになったんです」と語る。
X(旧Twitter)を通したガチ中華メニューの発信や1人でも参加できるような食事会の企画など、ガチ中華のハードルを下げながら、SNSと口コミで日本人に知ってもらおうと努力を続けている。
日本人に支持されれば池袋や高田馬場などのガチ中華エリア以外に出店を広げられる。味坊は2025年に大手町や京橋に、陳家私菜も大手町や新橋などに出店しており、ガチ中華好きサラリーマンの筆者も行きやすくなった。
テーマ設定と小皿料理で勝負
食彩雲南オーナーの牟さんも、味坊、陳家私菜の成功例に倣って奮闘中だ。
2025年7月、日本人客をターゲットにしたガチ中華「南方急行」を新宿御苑前に開店した。上海から雲南省までの列車旅をコンセプトに、通過する地域の家庭料理を主力メニューにしている。
南の地方らしいあっさりとした料理を小皿で出すのが特徴で、2人で訪れても4〜5種類の料理が楽しめる。

「中国人がこの量を見たら少ない!とクレームが入ってしまい、なかなか受け入れられないと思いますが」と牟さんは笑う。
火鍋やマーラータンのような分かりやすいガチ中華ではないので、日本人にいかに興味を持ってもらうかが課題だが、料理の解説をXやInstagramで投稿したり、中華料理を作るイベントを開催することで、じわじわと日本人へリーチしていくことを目指している。

(文:阿生)
東京で中華を食べ歩く会社員。早稲田大学在学中に上海・復旦大学に1年間留学し、現地中華にはまる。現在はIT企業に勤める傍ら都内に新しくオープンした中華を食べ歩いている。X:iam_asheng
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