中国GPUの狂騒ーー「NVIDIAとの差は大きいが⋯」それでも売上爆増の摩爾線程、最速IPOへ

36Kr Japan | 最大級の中国テック・スタートアップ専門メディア

日本最大級の中国テック・スタートアップ専門メディア。日本経済新聞社とパートナーシップ提携。デジタル化で先行する中国の「今」から日本の未来を読み取ろう。

スタートアップ注目記事

中国GPUの狂騒ーー「NVIDIAとの差は大きいが⋯」それでも売上爆増の摩爾線程、最速IPOへ

36Kr Japanで提供している記事以外に、スタートアップ企業や中国ビジネスのトレンドに関するニュース、レポート記事、企業データベースなど、有料コンテンツサービス「CONNECTO(コネクト)」を会員限定にお届けします。無料会員向けに公開している内容もあるので、ぜひご登録ください。

原文はこちら

セミナー情報や最新業界レポートを無料でお届け

メールマガジンに登録

続きを読む

中国で2024年夏に発売された超大作RPG『黒神話:悟空』は、圧倒的に美しいグラフィックで大きな話題となった。とりわけ光の反射や(キャラの)毛の質感をリアルに描くため、高いGPU性能が必要とされ、「このゲームを中国産ハードで動かせるのか?」と誰もが考えた。国産グラフィックボードの代表格として期待されたのが「摩爾線程(Moore Threads)」だ。当時ほぼ唯一の選択肢だった同社は、『黒神話』対応のため新しいドライバーを急遽提供したが、性能は期待された水準には届かなかった。

それでも摩爾線程は、中国のGPU(画像処理半導体)業界で国産化という重大な使命を託されている。AI需要の爆発と国産シフトの追い風もあり、2025年に爆発的な成長を遂げた。上半期の売上高は約7億元(約150億円)に達し、過去3年間の売上高の合計を上回った。さらに注目されたのは、わずか88日間という過去最短レベルのスピード審査で、上海証券取引所のハイテク向け市場「科創板(スター・マーケット)」への上場が承認された点だ。

「中国製半導体が市場を奪う」米NVIDIAの輸出空白が招いた誤算、H20代替品続々投入

NVIDIAに学ぶ

摩爾線程はNVIDIAに最も近い中国企業と称される。その理由は、創業チームの大半がNVIDIA出身だからだ。創業者の張建中氏は同社のグローバルバイスプレジデント兼中国エリアゼネラルマネージャーを務め、共同創業者の周苑氏は、市場エコシステムのシニアディレクターを長期間務めていた。そのため、摩爾線程の技術路線と発展戦略はNVIDIAに通じるところが多い。

NVIDIAの遺伝子を最も色濃く受け継ぐ半導体スタートアップとみなされてきた同社は、2020年の設立直後、製品をまだリリースしていない段階で、創業チームの経歴から大型の資金調達に成功し、「ユニコーン企業」入りを果たした。

第2のエヌビディアになれるか。投資一身に受ける「製品なき」スタートアップ

その後、たゆみない研究開発活動により、毎年のようにGPUアーキテクチャを更新、性能は徐々に向上してきた。また扱う製品の幅も、グラフィックスアクセラレーターからAIモデルの訓練まで次第に広がっている。

創業初期には、低価格のデスクトップPC用グラフィックアクセラレーターでNVIDIAに戦いを挑んだ。しかし市場に受け入れられず、2022年、23年と摩爾線程のグラフィックボードの売上高は2000万~3000万元(数億円)程度に過ぎなかった。NVIDIAのグラフィックボード「GeForce」が中国で約30億ドル(約660億円)を売り上げたのに比べると、微々たるものだ。グラフィックボードの低価格販売は大幅な赤字を招き、摩爾線程の同事業は22年の粗利益率がマイナス70.08%となった。

ところがこの数年、AIモデルの訓練に伴う演算能力の需要が急増したことで、摩爾線程の収益構造は大きく様変わりした。かつてゼロだった摩爾線程のAIコンピューティングの売上高は、2024年に売上高全体の77.63%を占めるまでになり、25年上半期には94.85%に拡大して、同社の主力事業となった。

技術力の差と市場への挑戦

技術力で言えば、摩爾線程とNVIDIAの差は歴然だ。特に製造プロセスでは、NVIDIAが3ナノメートル(nm)を実現したのに対し、摩爾線程は米国の禁輸措置の影響で5~7nmを採用するしかなかった。

さらに大きな課題はエコシステムの構築だ。NVIDIAはGPU開発環境「CUDA」により強力な開発者コミュニティと開発ツールチェーンを持ち、圧倒的な優位性を築いてきた。摩爾線程も独自のシステムアーキテクチャ「MUSA」を構築し、CUDAとの互換を試みたが、開発期間が短かったことや開発者の数が十分ではないことなどから、性能や安定性ではCUDAに水をあけられている。

「コスト600万ドル」は誤解。中国DeepSeekの真実:GPUを5万枚以上保有、年俸2億円も

摩爾線程の売上高は急速に拡大したとはいえ、依然として赤字脱却という大きなプレッシャーにさらされている。直近の3年間は営業キャッシュフローのマイナスが続き、赤字額は累計で50億元(約1100億円)以上に達した。高額な研究開発費が主な要因となっているほか、25年上半期に顧客上位5社への売上高が98%を占めるなど、顧客集中度の高さもリスクのひとつになっている。

現時点で摩爾線程の市場シェアは1%に満たない。同社に対する評価は、市場の期待という「感情的な評価」に支えられている部分が大きく、今後は確かな業績と製品力を積み上げていくことが求められる。

摩爾線程のライバルとしてはNVIDIAのほかに、ファーウェイやスタートアップの寒武紀科技(カンブリコン、Cambricon)、壁仞科技(Biren Technology)、燧原科技(Enflame Technology)、沐曦集成電路(METAX)などがひしめいている。こうした企業は技術力や顧客リソースの面で摩爾線程と大差なく、同様に投資家から注目され、多くが摩爾線程と同時期にIPOの準備を進めてきた。

中国半導体メーカー、NVIDIAの独占市場に切り込む AI向けチップの開発着々

中国GPUメーカーが相次ぎ上場へ、AI時代の「脱NVIDIA」に拍車

国産シフトとAIのブームにより大きなチャンスが訪れているが、国産を掲げるすべての企業が最後まで勝ち残れるとは限らない。激しい市場競争のなかでシェアを獲得するには、やはり技術力と製品、そして独自のエコシステム構築が必要だ。

作者:刺猬公社(WeChat公式ID:ciweigongshe)

*1元=約22円で計算しています。

(編集・翻訳 36Kr Japan編集部)

36Kr Japanで提供している記事以外に、スタートアップ企業や中国ビジネスのトレンドに関するニュース、レポート記事、企業データベースなど、有料コンテンツサービス「CONNECTO(コネクト)」を会員限定にお届けします。無料会員向けに公開している内容もあるので、ぜひご登録ください。

原文はこちら

セミナー情報や最新業界レポートを無料でお届け

メールマガジンに登録

関連記事はこちら

関連キーワード

次の一手をひらくヒントがここに。

会員限定ニュース&レポートをお届け。