「それっぽい」から「使える」へ 中国3D生成AI企業VAST、半年で1200億円調達

3D生成AIを手がける中国発ユニコーン企業「三啓万物(VAST)」はこのほど、シリーズBとその追加ラウンドで計約30億元(約720億円)を調達した。7月初めにもシリーズAの戦略的資金調達で10億元(約24億円)以上を調達するなど、この半年間に調達した資金は合わせて約50億元(約1200億円)に上り、この分野で過去最大の調達規模となった。

今回の出資は、経緯創投(Matrix Partners China)が主導し、鼎暉投資(CDH Investments)や中金資本(CICC Capital)といった投資機関に加え、完美世界(Perfect World)、藍色光標(BlueFocus)、中科創達(ThunderSoft)、三七互娯(37 Interactive Entertainment)など産業界からも広く出資者が集まった。ゲームや映像、XR(クロスリアリティ)、自動車、ECなどさまざまな分野の企業が出資に加わっていることは、3D生成AIが技術検証の段階から、実際の制作現場で活用される段階へと移行しつつあることを示している。

VASTは2023年に設立され、3D生成AIの基盤モデル「Tripo」とクリエイティブプラットフォーム「Tripo Studio」を提供している。創業者の宋亜宸氏は1997年生まれの若手起業家で、AIモデル開発企業MiniMaxの共同創業者でもある。2人の共同創業者、梁鼎CTOとチーフサイエンティストの曹炎培氏はいずれも清華大学の出身者だ。

中国AI「MiniMax」、上半期増収283% API・基盤モデルが新たな収益の柱に

VASTが大きな注目を集める理由は、3D生成AIを「生成モデル」から、現場で使える「生産ツール」へと進化させようとしている点にある。

ゲームや映像の制作現場では、「それっぽい」だけの3Dモデルでは不十分だ。その後の編集やリギング(キャラクターに骨組みを仕込む作業)、アニメーション化を行うためのメッシュ(3Dモデルの表面構造)とトポロジー(面の分割・接続方法)が必要であり、最終的にはゲームエンジンに取り込める形にしなければならない。これまでの3D生成AIは、見栄えのよい3Dモデルを短時間で生成できるものの、生成後の手直しが必要になるケースが多く、複雑なものでは後処理に数時間、場合によっては数日かかることもあった。

VASTは今回の資金調達と同時に、基盤モデル「Tripo P」シリーズの最新版として、3Dネイティブ基盤モデル「Tripo P2.0」を発表した。最大5万面の三角ポリゴンに対応し、ゲームキャラクターや映像・アニメーションなどの制作現場で広く使われている四角ポリゴンについては、最大2万5000面を直接生成する機能も追加された。

Tripo P2.0は、単に生成スピードや見栄えを向上させるだけではなく、編集しやすい構造の3Dモデルを生成することに重点が置かれており、数秒で四角ポリゴンを主体とする3Dメッシュを生成でき、ポリゴン数やパーツ構成も調整できる。「それらしく見える」だけではなく、実際の作業工程に組み入れて修正やアニメーション化を施せる3Dモデルを生成できることが大きな特長だ。

例えば、平面のキャラクターデザインを1枚入力すると、AIがトポロジーやパーツの整った3Dキャラクターを直接生成する。複雑なオブジェクトの場合は、パーツを自動で分割し、大規模言語モデルを使って各パーツの名前付けや、動作ロジックの作成・デバッグを行い、3Dモデルのアニメーションをパーツ単位で調整できるようになる。


こうした機能を支えているのが、VASTの開発したアルゴリズムフレームワーク「Nexus」だ。

ここ数年にわたり、3D生成AIの分野では3Dメッシュをトークン化し、それを順番に予測して生成する自己回帰モデルが広く採用されてきた。それに対し、VASTは拡散モデルを採用し、頂点とトポロジーの生成を分離する手法を選んだ。まず全体の形状を生成し、それから段階的に細部を補っていくことで、あらかじめ生成順序を決めることなく、直接3Dメッシュを生成できる。この技術に関する論文は、コンピューターグラフィックス分野のトップカンファレンスSIGGRAPHにも採択されている。

このアプローチで目指すのは、制作現場がAIに合わせて作業工程を作り直すのではなく、AIを既存の3D制作フローに適応させることだ。

商用化の進展も、投資家が注目するポイントとなっている。同社によると、Tripo Studioの利用者は世界で数千万人に上り、基盤モデルやツールはネットイース(網易)、テンセント(騰訊)、マイクロソフトなど、大手企業の3Dコンテンツ制作にも導入されている。

具体的な活用が特に広がっているのがゲーム分野だ。ネットイースのパーティーゲーム「Eggy Party」では、ユーザーがキャラクターやコースを自作する際にTripoが活用されている。また、3Dプリンターメーカーの拓竹科技(Bambu Lab)や創想三維(Creality)と提携し、画像から3Dモデルを生成して印刷用データに変換し、そのまま出力できる一気通貫の仕組みも構築している。

Eggy Partyで提供されているTripoのパーツ分割機能

新たな分野も模索している。2026年6月には、世界モデルの研究プロジェクト「Project Eden」を発表。3Dモデルの生成だけでなく、物理的な特性を備え、継続的に変化しながら、複数のユーザーが相互にやり取りできる仮想環境の生成へと取り組みを広げている。

消費者向け3Dプリンター、中国製が9割超えーーZ世代がハマる“自作フィギュア”の裏

*1元=約24円で計算しています。

(翻訳・畠中裕子)

日本企業のDXを促進するプラットフォーム「CONNECTO」
無料コンテンツ公開中

最新記事