日当4600円、同じ動作を数千回 中国ロボットの未来を支える「データ労働者」の実態

テック企業が集まる北京市・五道口。あるオフィスビルの一室で、Zさんは机の上に置かれたバトミントンシャトルを一つずつケースに詰めていく。

頭にはカメラが2つ付いた黒色のヘルメット、両手首にも小型カメラ、さらに両手には1つ5万元(約120万円)のセンサー付きグローブを装着している。ひとつひとつの動作には通常の2倍の時間をかける。余計な動きをせず、できる限り手汗をかかないようにしなければならない。

これは何かの実験ではなく、ロボット向けデータ収集スタッフの実地研修だ。

Zさんがシャトルを1つ詰めるたび、システムは彼の視界に映った全てと、指1本1本の軌跡を記録する。収集されたデータはクリーニングとアノテーションを施されてロボットやAIモデル開発企業に販売され、ロボットが物理世界を理解し、さまざまな作業をこなすための訓練に用いられる。

Zさんの仕事は単調で退屈な反復作業に見えるかもしれないが、フィジカルAI産業が今、最も必要としているデータを提供している。

ロボットが一般家庭で働くようになるのは少し先になりそうだが、その前にすでに多くの人間がロボットのために働き始めているのだ。

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ロボット学習データ不足の巨大な穴を埋める

大規模言語モデル(LLM)の訓練は、インターネット上にに蓄積された膨大なテキストや画像を学習に利用できる。しかし、エンボディドAIはそれだけでは足りない。

ロボットは「グラスとは何か」を理解するだけでなく、どのように手を伸ばし、どのくらいの力を入れ、どの角度に調整すればいいかを理解してはじめて、グラスを持ち上げられるようになる。

人型ロボット(ヒューマノイド)大手「智元机器人(Agibot)」傘下でフィジカルAI向けのデータサービスを手掛ける「覓蜂科技(Maniformer)」の姚卯青CEOは、エンボディドAIモデルがGPT-3.5のような汎用的能力を獲得するには、おおよそ1億時間分のデータが必要だが、現時点で利用できるデータは世界に数十万時間分しかないと指摘する。

この巨大な穴を埋めるため、中国に新たな産業チェーンが形成されつつある。政府や政府系ファンド、ロボットメーカー、データ企業、工場、人材派遣会社、そしてZさんのようなデータ収集スタッフたちが、ロボット開発を陰で支えるデータ基盤を共に築こうとしている。

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ロボットを教えるという「苦行」

Zさんは2024年に某大学の文系学部を卒業したあと、データ収集の仕事を始め、これまで複数の新興人型ロボット企業を渡り歩いてきた。彼の仕事は、VR機器などを通じてロボット実機を遠隔操作し、ロボットに訓練を施すことだ。ここ2〜3年で主流となった収集方法で、高精度なデータを得られる一方、ロボット本体が高価で、収集効率にも限界がある。

データ収集スタッフの基本給は1日あたり200元(約4600円)、残業2時間で80元(約1800円)の加算、夜勤すればさらに100元(約2300円)が上乗せされる。最高月収は9000元(約20万円)になる。Zさんは「手っ取り早く稼ぎたいんだ」と率直に語る。理由は現実的かつ具体的で、故郷の河南省で家を買って結婚するためだという。

なかなかの報酬の代償は、終わりの見えない反復作業だ。一定条件の動きを数百回から数千回繰り返す必要があるうえ、速度や軌跡に変動があっても手汗をかきすぎてもデータが無効になってしまう。

もう1人のデータ収集スタッフ、Mさんは大学でAIを専攻した。卒業前はアルゴリズム開発の仕事に就けるはずだと思っていたが、卒業後に見つかった最初の仕事は「サンドイッチをつかみ続ける」反復作業だった。データ収集用のジョイスティックを両手に握り、スポンジ製のサンドイッチ模型を挟んで皿に移していく。1回あたり2〜3分かかる操作を、700回以上繰り返す。

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(36Kr Japan編集部)

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