写真から「動く仮想世界」を生成 中国Moxin、4D世界モデルで評価額2300億円も
4D世界モデルの開発を手がける中国スタートアップ「魔芯科技(Moxin Technology)」はこのほど、今年5回目となる資金調達を実施したことが分かった。調達規模は10億元(約230億円)に達するとみられており、前回の調達後すでに40億元(約920億円)に迫っていた企業評価額は、一気に100億元(約2300億円)近くにまで膨らむ可能性がある。
Moxinは、浙江大学の博士課程に在籍中の陳天潤氏が2021年に設立した。設立当初は消費者向け一体型3Dプリンターから事業をスタート。自社ブランド「KOKONI」を展開し、3Dモデルの作成からスライス、プリントまでの工程を簡素化することで、3D作品を作る間口を広げてきた。同社の3Dプリンターは、欧米や日本、韓国、東南アジアなどで累計20万台以上を売り上げたという。
2024年末、同社は長年培ってきた3D技術を、空間知能や世界モデルの分野に応用することを決めた。陳氏は、ロボットや自動運転を実現するには、物理世界を理解し再現できる「頭脳」が必要だと考え、その開発に取り組むことにした。
世界モデルとは、AIが現実世界を認識するだけでなく、空間の構造や物理法則を理解したうえで、周囲の環境が次にどう変化するか予測できるようにする仕組みを指す。
4Dは、3次元空間に時間軸を加えたものだ。3Dモデルがある瞬間の空間の状態を切り取って表現するのに対し、4D世界モデルでは空間の構造や物体同士の関係性を理解することに加え、時間の経過とともに周囲の環境がどのように変化するかを生成・予測する。これにより、ユーザーやAIエージェントは、変化し続ける空間の中を移動し、周囲と継続的にやり取りできるようになる。
25年12月に、インタラクティブ世界モデル「KOKONI-World」のプロトタイプを発表。26年7月には、中国工程院院士(アカデミー会員)の潘雲鶴氏のチーム、およびファーウェイクラウドと共に高フレームレートの世界モデル「MoWorld」を公開した。パラメータ数は280億で、混合専門家(MoE)アーキテクチャを採用している。画像やテキストから、実際の物理法則に沿った高精細な3Dシーンを生成でき、6自由度のカメラ操作にも対応する。
同社によると、最大2000フレームの映像生成や、毎秒50フレームでのリアルタイム生成に対応する。操作に応じて変化する仮想環境の構築を目指す。これはコンピューターグラフィックス分野で滑らかな操作の目安とされる30fpsを大きく上回る水準で、フィジカルAIや自動運転などリアルタイム性が求められる用途で特に大きな意味を持つ。

写真や動画を基に、現実世界の物理法則を再現した4Dモデルを構築できる「MoWorld」(画像:企業提供)
MoWorldのもう一つの特徴が、中国製AIチップに対応していることだ。高性能GPUに頼らず、データ生成から事前学習、蒸留、推論まで、すべてのプロセスがファーウェイ製AIチップ「Ascend(昇騰)NPU」向けに設計されている。推論コストは同規模のGPUを利用する場合に比べて約70%低くなり、既存の世界モデルの30~50%に抑えられるという。
Moxinは低コストと高いリアルタイム性を武器に、実用化の取り組みにおいても優位性を発揮している。MoWorld-3Dで構築したシミュレーション環境を使えば、ロボットの訓練に必要な仮想シーンを大量に生成できる。ロボットは生産ラインや家庭などを再現した空間で繰り返し動作を練習できるため、フィジカルAIの大規模展開を支えるインフラとなる。MoWorldの発表後は、産業向けデジタルツインやフィジカルAIの訓練、都市・農村計画、文化・観光などさまざまな分野への展開を進めている。
例えば産業現場では、工場や生産ラインを一般的なスマートフォンやカメラで撮影するだけで、変化し続ける3D空間を構築できる。さらに4Dモデルなら、従来のデジタルツイン技術では難しかった設備の移動や生産ラインの調整、作業員の動きに伴う環境の変化なども再現できるようになる。設備の設置や生産ラインの改修、安全対策などの事前検証に活用すれば、現場での試行錯誤にかかるコストを抑えられる。
フィジカルAIの分野では、ロボットを訓練するための仮想環境を構築できる。ロボットは訓練環境の中で、移動や物体の把持、障害物回避を練習し、それぞれの動作によってどんな結果が生じるかを確認できる。衝突や操作ミスが発生しても仮想空間内のことであり、実際の装置や現場に影響が及ぶことはないため、ロボットのデータ収集や訓練にかかるコストの削減も期待できる。
2026年に入り、中国では世界モデルをめぐる競争が激しさを増している。NVIDIA、Google、テンセント、アリババグループ、バイトダンスなど国内外の大手が続々と参入する一方、スタートアップの大型資金調達も続いている。極佳視界(GigaAI)は今年に入ってすでに10億元(約230億円)以上の調達を3回実施し、将閑科技(Liber AI)も8カ月の間に5回の資金調達を完了した。
*1元=約23円で計算しています。
(翻訳・畠中裕子)