世界モデルは「巨大化」しなくていい? 中国新興、工場や家庭の「小さな世界」から学習
中国の世界モデル開発企業「寰宇心生(WorldMind)」はこのほど、シードラウンドで元生資本(Genesis Capital)から数千万元(数億円)を調達した。資金はチーム拡充やインフラ整備、基盤モデルの学習に充てられる。
2026年9月に設立されたWorldMindは、世界モデルやエンボディドAI、脳科学の学際的な研究に取り組んでいる。創業者の任雲帆CEOは1999年生まれの若手研究者で、香港大学のメカトロニクス・ロボティクスシステム研究室(MaRS Lab)で博士号を取得、スイス・チューリッヒ大学で博士研究員を務めたほか、ドローン世界最大手DJI(大疆創新)でアルゴリズムの研究に携わった経歴を持つ。張奇CTOはシドニー工科大学でAI研究に取り組んで博士号を取得、長期にわたって脳のメカニズムや脳の仕組みを模倣した人工知能(AI)の研究に従事している。
世界モデルを開発する企業の多くが、データ量やAIモデルの規模の拡大に注力するなか、WorldMindは現実世界の個々のシーンから世界モデルを構築するという異なるアプローチを選択した。
大規模言語モデル(LLM)は、学習データ量や計算リソース、モデルの規模を拡大することで、その性能を高められることがすでに実証されている。しかし、世界モデル構築に必要な現実世界のデータはより連続的で、さまざまな種類の情報を含んでおり、全てを網羅することは難しい。WorldMindは、世界モデルについてはスケーリング則がまだ十分に検証されておらず、ロボットが最初から「世界全体を理解する」必要もないと考えた。
そこで同社は「小さな世界」というアプローチで世界モデルに取り組むことにした。家庭用ロボットなら最初にキッチン環境を学習し、産業用ロボットはまず生産ライン1本を理解するという具合に、限られた環境のなかでデータ収集、学習、実運用、フィードバックのサイクルを完成させたうえで、理解できる世界の範囲を徐々に広げていくという手法だ。
それぞれの「小さな世界」は互いに独立しているわけではない。キッチン、工場、倉庫などは異なる環境であっても、運動や接触、摩擦などの物理法則は共通している。同社は、さまざまな環境で得た物理法則に関する知識を蓄積し、異なる場面でも利用できる世界モデルの基盤づくりに生かしたいと考えている。
同社の世界モデルは「知識」「記憶」「予測」「校正」の4つの要素で構成されている。知識は比較的安定した物理法則を保存し、記憶には直前に起きた事柄や作業した内容を記録する。さらに、次に起こり得る変化を予測し、実世界からのフィードバックを通じてモデルを継続的に調整していく。
WorldMindは記憶強化型の世界モデルと、脳の仕組みに着想を得た世界行動モデルを開発している。前者は世界モデルを評価する国際的なベンチマーク「WorldArena 1.0」のオープンソースランキングで1位となり、「WorldArena 2.0」でも複数の部門で上位3位に入っている。
同社はすでに、研究室など比較的制御しやすい環境で、技術の初期検証を終えている。今後は、業界パートナーと共に工場や生産ラインなど実際の作業現場に入り、データ収集からモデルの学習、運用、データのフィードバックまでをつなぐ一連のサイクルを構築する。産業現場では設備や作業内容が十分に標準化されていないケースが多いため、共通の世界モデルを使ってもロボットが異なる環境に適応し、変化を予測できるようにする考えだ。
例えば建設現場では、世界モデルをロボットの「訓練環境」として活用し、重機を動かす訓練や、VLA(視覚・言語・行動)モデル向けのデータ収集、強化学習を実施することができる。さらに、コンクリートが固まる過程や天候による現場への影響など、実際の変化を予測することで、工期や施工計画の策定に役立つ情報の提供が可能になるという。
*1元=約23円で計算しています。
(翻訳・畠中裕子)