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時は2019年の大晦日、場面は北海道ニセコのスキー場。中国の新興コスメブランド「完美日記(Perfect Diary)」の創業者、黄錦峰氏と同じく「高瓴資本(Hillhouse Capital=ヒルハウス・キャピタル)」の創業者、張磊氏が一日中スキーを堪能している。夕食時にはこんな言葉が上ったという。「君たち(Perfect Diary)は中国のロレアルにならなければいけないよ」。
黄氏が陣頭指揮をとる完美日記は昨年、素晴らしい業績を残した。11月11日独身の日に行われたアリババ主催のオンライン通販特別セール「天猫(Tmall)ダブルイレブン」では売上高が1億元(約15億円)を超え、エスティローダーなど居並ぶ国際ブランドを抜いた。天猫の歴史上、国産コスメブランドが販売数でトップに立つという初の快挙を成し遂げたのだ。
「中国のロレアルになる」などとは途方もない話だ。しかしそれが高瓴資本の創業者の口から出た言葉となると話はまた別だ。彼は絶えず壮大なもの、永続的なものを追及し、それが彼の投資美学ともなっているからだ。
今年2月、高瓴資本は300万~3000万ドル(約3億~30億円)規模のスタートアップ投資案件を専門とする「高瓴創投(GL Ventures)」の設立を発表した。もっともそれ以前にも同資本は、百近くのスタートアップ企業に投資してきており、Perfect Diaryもその中の1社だ。2018年5月にシリーズA+での出資を受けた完美日記は今では少なくとも評価額20億ドル(約2100億円)の企業に成長した。
36Krは、Perfect Diaryへの投資を決めた高瓴資本のエグゼクティブディレクター戴粤湘氏へのインタビューを通し、そのVC投資哲学を伺った。
高瓴資本にとってのVC投資とは
VC投資の世界では速攻が常識だ。Perfect Diaryへの投資も例外ではなく、わずか1時間ほどの初面談で投資の意向が固まった。
それまでにもPerfect Diaryと接触を試みた投資者は数多くあったが、うまくまとまらなかった。その理由は、コスメ市場そのものに限界があること、オンラインでのリピート購入率やブランドロイヤリティが低いことだった。
高瓴資本は株式市場を通してコスメ業界の動向を熟知しており、セカンダリー市場を通じて多くの海外の大手コスメメーカーを知り尽くすのみならず、自国のコスメ業界に関してもある程度の治験があったた。データに現れるPerfect Diaryの業績はさほどでもなかったが、創業者である黄錦峰氏との出会いは戴ディレクターに強烈な印象を与えた。業界のあり方、ビジネスチャンス、運営モデルなどについて斬新で長期的な視点を持っていたからだ。
見逃せないのは、創業するまでの黄氏の経歴だ。大学在学中、彼は謎に包まれていると言われるP&Gの消費者市場戦略本部を分析する論文を書き(その論文は今でもインターネットで回覧されている)、卒業後P&Gに採用された。その後ハーバードビジネススクールに学び、帰国後は修行のためと称して中国のコスメブランド「御泥坊(UNIFON)」のCOOとなった。Perfect Diaryの初期の投資者の一人は彼について、ビジネスチャンスに鋭敏で戦略的思考に富み、実行力のある創業者だと語る。また中国的視点と国際的視野を兼ね備えたその資質を賞賛する。
実のところ黄氏には経営方針に関する迷いがあった。オフラインビジネスにすべきかどうか。もしオフラインにするなら、どんな方法で方針転換するか。いかにして品目を増やしてゆくか、などの問題だ。それを解決してくれたのが張磊氏とのとある夕食だった。
張氏はオフライン路線を採るべきだと強く主張した。オフラインと言っても、単に店を出して物を売ればいいというのではない。そこを美しくなりたい女性たちの社交の場とし、実際に美しくして見せることのできる場所とするのだ。
その提案を聞き、黄氏の迷いは吹っ切れた。そして高瓴資本の投資を受けることにした。その後、二人は半年に一度は会合し戦略について話し合った。あのニセコの晩もそのうちの一回だった。
Perfect Diaryは快進撃を続けているが、理想とすべきロレアルははるか先をゆく及びがたい存在だった。ロレアルの成功は、新興ブランドを貪欲に買収し、地域を超えた経営によりピラミッド式の製品構造を造り上げるその手法にある。化粧品だけを取っても、異なる消費者群を対象に、ヘレナルビンスタイン、ランコム、ビオテルム、キールズ、羽西(Yue Sai)などをサブブランドとして従えた。
Perfect Diaryもひたすらロレアルに倣った。今年3月、Perfect Diaryの親会社はサブブランドとして「完子心選(Abby’s Choice)」を立ち上げ、スキンケアや日用品の分野に手を広げた。4月にはマニュキュアなどで知られる「Little Ondine(小奥汀)」を買収し、マルチブランド戦略を始動させた。
続き:完美日記の快進撃を支えるヒルハウス・キャピタルの投資哲学(二)
(翻訳・近藤)
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