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中国最大の電子決済サービス「アリペイ(支付宝)」の運営会社で、アリババ傘下のフィンテック企業「アント・グループ(螞蟻集団)」は、8月25日に中国版ナスダックと呼ばれる上海「科創板(スター・マーケット)」と香港証券取引所に新規株式公開(IPO)を申請した。世界の投資家が注目するスーパーユニコーンが、A株(人民元建て)とH株(香港ドル建て)の重複上場に向けて重要な一歩を踏み出した。
公募価格や資金調達の規模については明らかにされていないが、IPO規模は世界最大級になると関係者は見ている。アント・グループが2年前にシリーズCで資金調達した時点で、評価額は1500億ドル(約16兆円)に達すると報道された。
500ページを超えるアント・グループの目論見書では、事業ごとの実績、収益状況、財務構造、株主構造などの主要データや今後の計画が初めて明るみに出た。
(上)昨年売上高2兆円近く、伸び率は40%超&テクノロジーに比重、技術者の比率が6割超
数々の「中国初」を成し遂げてトップの座へ
アント・グループの業績を支えているのはいったい何なのか。目論見書の情報を参考にすると、これまでに成し遂げた10件の「中国初」がグループ全体の成長の鍵を握る転換点になっていたことが分かる。決済事業のアリペイは、16年間で5つの画期的なテクノロジーを開発してきた。
2004年、オンラインで安全な支払いを保証するエスクローサービスを開始、中国初のオンライン決済プラットフォームとなる。
2010年、「クイックペイメント(快捷支付)」を開始、一度本人確認を行えばその後はUSBセキュリティキーなどを使わず迅速に決済できる中国初のサービスを実現。その後のモバイル決済の道筋を示す。
2012年、バーコード決済を開始、モバイル決済に対応した中国初のコンビニが誕生し、モバイル決済ブームに火をつける。
2014年、指紋認証を利用した決済サービスを開始、中国初の生体認証決済となる。
2017年、中国初のオフライン決済技術により、路線バス料金の支払いができるように。小銭を持ち歩く時代に幕。
この5つの偉業により、アリペイは中国最大のデジタル決済サービスへと成長し、中国は世界トップのモバイル決済先進国としての地位を固めた。
アント・グループは決済サービスから始め、デジタルライフやデジタル金融の分野へと手を広げていく。目論見書によれば、デジタル金融事業のユーザーは年間7億2900万人に上るといい、資産管理、少額ローン、インシュアテックの3分野では取引額が業界トップだ。2019年には消費者の60%以上がアリペイアプリで決済以外の生活関連サービスを利用している。
つまりアント・グループの業績の半分を支えているのは、決済サービス以外の事業なのだ。そして非決済事業でもサービス普及に弾みをつける5つの画期的な「中国初」を打ち出してきた。
2008年、アリペイで水道、電気、ガス料金の支払いが可能に、中国で初めて公共料金のオンライン決済を実現。
2010年、中国初の保証人不要・無担保の中小企業向けマイクロクレジットを開始、「申請3分、審査1分、関与社員0人」モデルを採用。
2013年、アリペイ残高の投資信託サービス「余額宝」を開始、1元(約15円)から運用可能な中国初の金融商品に。
2016年、スマホ上で木を育てるサービス「アント・フォレスト(螞蟻森林)」を開始、公益活動へのハードルを下げた。
2019年、医療共済「相互宝」を開始、重大疾病を保障する中国初の後払い型共済となった。
これら画期的なサービスにより参入ハードルが大幅に下がったため、中国のデジタル金融やデジタル行政、デジタル公益活動などが急成長し、世界屈指の機関やサービスが誕生した。
調達資金の用途から分かる今後の重点分野
アント・グループを成功に導いた最大の武器はテクノロジーだ。当然ながら上場後も引き続き重点分野となるだろう。目論見書によれば、調達資金の用途のうちイノベーションとテクノロジー分野への投資が全体の実に4割を占めるという。次いで出店事業者支援とデジタル経済推進、そしてグローバル提携の強化と続く。
資金の用途から見えてくるアント・グループの今後の方向性は、テクノロジーを武器に、デジタル化を進め、グローバル展開に力を注ぐというものだ。
出店事業者支援とデジタル経済推進は、今年3月に行われたアリペイの大型アップデートともシンクロする。アリペイは決済アプリから生活関連サービスプラットフォームへの転身を果たし、オープンプラットフォーム戦略やデジタル経営により、サービス業全体のデジタル化を目指している。
グローバル展開に関しては、すでにアジアや欧州、アフリカなどで現地の決済業者と戦略提携を結んでいる。データの示すところでは、世界の80%がまだ十分な金融サービスを受けられていないロングテールだという。この市場が今後アント・グループにさらなるチャンスとグローバル化の可能性を与えることは確実だろう。(翻訳・畠中裕子)
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