テスラ、輸入関税大幅引き上げの中国市場で窮地に?マスク氏の暴言録に見る焦燥感

2018年7月6日から中国政府が対米輸入関税40%を実施。生産力不足問題をようやく解決したのテスラが、またしても中国という巨大自動車市場を失う危機にある。

わずか数日で終焉を迎えた“史上最大の販促キャンペーン”

5月時点で中国政府は、輸入車関税を7月1日付で25%から15%に引き下げると発表。これを受け、米電気自動車大手・テスラはモデルSとモデルXの中国市場向け販売額を4万8000元~9万元ほど値引き設定した。しかし、新たな関税政策で、今度は7月6日以降に同社の全車両価格が上昇することになり、“史上最安値だったはずの販促キャンペーン”はたった5日で終わりを迎えた。

テスラ公式サイトによると、モデルSとモデルXの政府修正後値上げ幅は13万9320元~25万6620元になるという。見逃せないのは、オプション品についても最新価格を対象に25%増の関税がかかることだ。

関税という難題に対し、テスラは2015年の段階で中国工場建設の意向を示していた。 今年5月10日、テスラ単独資本の企業を上海で設立するため1億元を投資。また6月5日の株主総会で同社CEOのイーロン・マスク氏は、中国巨大工場の建設計画を発表したばかりだ。しかし、上海テスラ社はいまだ営業にこぎつけていない。テスラがこだわる単独出資形式が手続きをより複雑なものにしているようだ。

マスク氏が頭を抱える難問は中米貿易摩擦だけにとどまるものではない。モデル3の納車遅延、株価の下落、幹部の退職、資金枯渇に関する噂といったトラブルは、シリコンバレーのハイテク企業テスラを誹謗中傷合戦へと引きずり込んでいる。

「今までの人生で最も辛い、地獄の数ヶ月だった。」先日の株主総会で、マスク氏はそうこぼしている。

第1四半期最終週のモデル3生産車両数は5000台を超えたが、米国内メディアやウォール街は、この数字に不満を残した。これに対し、マスク氏は大手メディアを激しく反論すると同時に、ゴールドマン・サックス社のアナリストによる懐疑的意見を無視、彼流で怒りをあらわにした。

イーロン・マスク氏、メディアとの確執「報道は虚偽と悪意に満ちている」

7月6日、マスク氏はツイッター上で、ロイターやビジネスインサイダー、CNBC放送局など複数の大手メディアに反論。彼らの報道は虚偽か誤解を与えるものばかりで、報道に悪意があるとした。ロイターによるモデル3の生産台数に関する報道は誤解を招く表現であり、ビジネスインサイダーによる廃棄バッテリー関連記事やテスラ社員の汚職報道はいずれも真実ではないという。

マスク氏がツイッター上でメディア批判をしたのは、これが初めてではない。

マスク氏は5月25日のツイッターで、「米国メディアは化石燃料企業や自動車メーカーなどからスポンサー収入を得ている関係上、テスラに関してはその評価を貶める報道一色だ」と発言。メディア不信を募らせるマスク氏は、メディアの信用性に関する評価サイトを設立し、各媒体の信頼性を採点する構えだ。

「つまらない質問には答えない」の背景にあるテスラ社の不振

この1年、テスラ関連で頻繁に目にしたのは生産力不足に関する報道だけではなく、採算度外視の支出やマネーフローの逼迫といった経営状態に疑問を投げかける記事だ。

海外メディアによると、7月4日に行われた四半期会計報告の電話会議で、金融調査会社バーンスタイン・リサーチのシニアアナリストトニー・サコナギ氏がテスラの支出と必要資金に関する質問を始めた。すると、マスク氏は「次の質問!」と割って入り、同氏の質問を打ち切ったという。

また、ロイヤル・バンク・オブ・カナダのアナリスト、ジョセフ・スパック氏が、モデル3の購入予約数のうち実際に納車できたのはどれくらいかと尋ねたが、マスク氏の反応は冷淡なもので、こういった“面白くない”質問への返答を一切拒否したとのこと。

実は、アナリストの懐疑的意見には根拠がある。2018年度第2四半期における同社の納車数が4万740台だったという数字は、ウォール街が予想していた5万1000台をも下回っている。中でも、注目製品であるはずのモデル3の予約車両数が2017年の45万5000台から42万台にまで減少していることは、同社人気の陰りを示しているといえる。

アナリストの指摘に対するマスク氏の不作法な言動は、そのままテスラ株価の下落を招いているのではないか。

老舗フォードとも一触即発「彼らの工場はまるで死体安置所」

7月第1週、これまで生産障害に見舞われていたテスラは、増産を目してわずか2週間で生産ラインを増設。なんと、主力工場の外に設けたテントに設置したものだ。これが、テスラと100年の老舗であるフォード・モーターズとの対立のきっかけとなる。

7月1日、マスク氏はツィッター上で「6月最終週に7000台生産を達成した」と発言。テスラ社員に対し、ハートマーク入りで感謝の意を表した(原文:7000 cars, 7 days ♥Tesla Team♥)。

その後、フォードの欧州・中東事業のトップに立つスティーブン・アームストロング氏が、これをリツイート。「7000台だと約4時間だね、我がフォード社員なら(原文:7000 cars, circa 4 hours ♥Ford Team♥)。」と同じハートマーク入りのコメントをつけた。こうして両社は一触即発の様相を呈した。

これ以前の6月、米経済紙ウォールストリートジャーナルの取材を受けたマスク氏は、「テスラの工場は活気に溢れているよ、フォードの工場はまるで死体安置所だけどね」と発言。この発言に対してフォード社の広報担当者もすぐに反応、「お宅のテントはとてもファッショナブルではありますが、わが社のリバー・ルージュ工場(フォード本拠地のミシガン州にある巨大工場)もお勧めですよ。ハイテク高品質のF150を53秒のラインで組み立てます。ぜひ見学に来てください」と返答した。結果、フォードの反撃はテスラの生産力の弱さを露呈することになった。

テスラは、企業規模や業績といった各方面でフォードやGMといった老舗メーカーに及ばない。しかし近年、同社の時価総額は高騰しており、一時はフォードを超えた。こういった新旧の構図では、老舗大手からの巻き返しも強力だ。今年、メルセデス・ベンツやGMはプラグインハイブリッドカーなどの新エネルギー車(NEV)の開発に大きく注力、さらなる新型車を続々と打ち出している。牢獄に押し込められたような状態のテスラは内心、戦々恐々としているのではないか。

中国メーカーBYDとも火花「バッテリー以外に取り柄なし」

フォードはマスク氏が口撃の対象とした最初の自動車メーカーではない。

自動車メーカーへのインタビュー番組で、司会者がマスク氏に「中国のBYD(比亜迪)をどう思いますか?」と尋ねると、「BYDe6を見たことがあるが、あの会社の車はひどいね」と答えた。そして、BYDの技術には何のアピールポイントもなく、バッテリー以外に取り柄がないと容赦なく切り捨てた。

この指摘に対するBYD代表王伝福(ワン・チュアンフー)氏の反論はこうだ。「BYDは数分でテスラ車を作ることができる」。

両社の製品はもともと異なる位置づけにあっただが、新エネルギー車の開発という大きな流れの中で、ライバル的存在になりつつある。当初はハイエンド製品市場を対象としていたテスラが、価格も一般的な大衆車市場に乗り出した。一方、BYDの新エネルギー技術も遅れを取ってはいない。2018年新型車「秦EV450」は、NEDC基準テストで航続距離400km、エネルギー密度140.97Wh/kg、充電最大出力60kWを達成した。

外観や内装デザインは別にして、バッテリーと電動技術に一定の評価を得ているBYDは、スペック上ではテスラ車に引けを取らない電気自動車を製造できるだろう。湯水のように資金をつぎ込むテスラだが、BYDがそこに追随しないのは、現時点での利益達成は難しいとの判断からだ。

さらにダイムラーを挑発「ケチくさい投資額、1ケタ足りない」

GM同様、老舗自動車グループ・ダイムラーも後塵を拝することはない。

電気自動車に対する全世界的傾向を受け、メルセデス・ベンツの親会社ダイムラーは、電気自動車開発へ10億ドルの出資を決定。米アラバマ州工場での電気自動車製造計画を発表した。

これに対してもマスク氏は、「巨大企業ダイムラーにしてみれば、10億ドルなんてわずかなもの、今後はもっと投資して欲しい。あと1ケタ多い額でね」とツィッターに投稿。ダイムラー側も負けじとすぐに反応し、電気自動車の次世代モデルへ100億ドル、バッテリー工場へ10億ドルの投資を計画しているとの声明を出す。この舌戦はマスク氏の「素晴らしい」の一言で幕を閉じた。

実際には、電気自動車分野での各メーカーによる競争は始まったばかりだが、排ガス規制が日増しに厳しさを増す中、電気自動車の導入は現実的な方策だ。メルセデス・ベンツが全面電動化へと舵を切れば、テスラの強力なライバルになるだろう。

ウーバーの“空飛ぶタクシー”にも啖呵「ドローンはうるさい」

テスラとの確執の相手はは老舗自動車メーカーだけではない。マスク氏はネット配車サービスのウーバー(Uber)にも容赦はしない。

ウーバーは、ドローンによる「空飛ぶタクシー」の試験運用を2020年に開始し、2023年に正式営業すると公言している。今年2月、ツィッター上で「ウーバーのようなドローン開発はしないのか?」と尋ねられたマスク氏は、「1000倍過大評価されているし、音がうるさい」と答え、同社のドローンに対してネガティブな見方を示した。

その後、ウーバー最高経営責任者ダラ・コスロシャヒ氏はマスク氏への返答として、「テスラのような先進的バッテリー技術とさらに小さいローター(プロペラ)を用いれば、より環境にやさしく騒音も少なくなるだろう」と発言した。

いずれにせよ、 「ああ言えばこう言う」状態のマスク氏は、今後も安泰とはいかない。

マスク氏が生産性に関する基本情報を得意気に公表した後の2日間の取引で、テスラの株価は下落し続け、累積下落率は7%を超えた。モデル3の“テント工場”は、「就業者の安全に問題がある」としてカリフォルニア州労働安全衛生局の調査を受けている。「テスラの最近の言動は、最先端の技術革新企業としての名声を汚し、AIによる物づくりという理念に反するものだ」と語るウォール街のアナリストもいる。

中国による関税政策の矛先がテスラに向かい、同社の中国工場設立は遅々として進まず、生き残りをかけた戦いが繰り広げられる中国自動車市場にあって、すでに劣勢に追い込まれている。加えて、株価の下落やウォール街での信用失墜が追い打ちをかけるとあっては、米国市場にせよ海外市場にせよ、テスラに次々と訪れる困難な局面は当分おさまりそうにない。

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