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1885年10月に世界初の内燃機関(エンジン)車が誕生してから、自動車産業は実に130年近くにわたる発展を遂げてきた。これまでは、欧米や日本のメーカーが圧倒的な実力を示し、牙城を築いてきた。しかし、この10年間に世界で自動車の電動化が進む中、中国が電気自動車(EV)産業で蓄積した経験を生かし、自動車産業全体の構図を変えようとしている。
中国製の自動車はここ2年、中国市場だけでなく海外市場にも浸透してきている。南米大陸と米国の間に位置するメキシコは、米州市場に進出する中国の自動車産業にとって重要な足がかりとなりつつある。今や中国メーカーが続々とメキシコに進出し、世界の自動車大手とシェア争奪戦を繰り広げている。
自動車大手がメキシコに集まる理由
「メキシコで販売される自動車の25%は中国メーカーのものだ。世界は変わりつつある」ーこう指摘したのは米フォードのフォーリーCEOだ。
メキシコの国立統計地理情報院(INEGI)と自動車ディーラー協会(AMDA)が今年1月に発表したデータによると、比亜迪(BYD)、江淮汽車(JAC)、吉利(Geely)などの中国ブランドが昨年にメキシコで販売した自動車は前年比63%増の12万9329台で、市場シェアを2019年の6.4%から19.5%に大きく伸ばした。なかでも上海汽車(SAIC)の「MG5(名爵5)」は年間販売台数がトップとなる3万3000台に上った。
現在、BYD、上海汽車、奇瑞汽車(Chery)といったメーカーがメキシコに工場を建設、もしくは建設を計画しているほか、哪吒汽車(Neta)のような新興勢力も海外進出に強い意欲を示している。メキシコ経済省によると、2024年1月1日~3月15日のメキシコへの対外直接投資(FDI)で中国が第4位に浮上した。
中国の自動車メーカーのメキシコ進出が成功した背景にはいくつかの要因がある。
まず、メキシコは世界第7位の自動車生産国であり、安く熟練した労働力と優れたサプライチェーンを有する。産業クラスター効果により現在ではアウディ、BMW、Stellantis、フォード、ゼネラルモーターズ、ホンダ、起亜(KIA)、マツダ、三菱、日産、トヨタ、フォルクスワーゲンなどの自動車大手が集まっている。
またメキシコ政府は新エネルギー車に対して開放的なスタンスを取っている。北米市場に対する地理的な優位性も加わって、中国の自動車メーカーはメキシコを通じて北米市場をさらに開拓することも可能だ。
最も大きなポイントは、米国の近くに生産拠点を設ける「ニアショア・アウトソーシング」を目的に、自動車メーカーがメキシコに工場を建設する流れがあることだ。メキシコで現地生産を進めて、中国と米国の地政学的リスクをチャンスに変える狙いもあるという。2023年の中国の対メキシコ輸出台数は41万5000台、メキシコでの販売台数は13万2000台で、その差は28万3000台に上る。つまり、中国製自動車の約68%が毎年メキシコを経由して、北米の他国に再輸出されている可能性がある。
しかし、中国メーカーのグローバル化には困難も立ちはだかる。メキシコ市場では米国の保護主義勢力の標的となるのを避けるため、目立たないようにしなければならない。実際に米国は最近、中国のEVメーカーがメキシコでの工場建設や投資に前向きなことについて、メキシコに懸念を伝えている。在メキシコ中国大使館の職員は、メキシコにある中国資本の工場に対して「目立たないように」と繰り返しアドバイスしているという。また、中国の自動車メーカーは海外で特許の取得や知的財産権の保護も強化する必要がある。
中国の自動車メーカーによるグローバル化は、世界最大の自動車市場から世界最大の自動車輸出国へと転換するための鍵となる。うまく転身を果たせば、中国自動車産業の国際競争力を高めるだけでなく、中国メーカーが世界市場という厳しい環境の中で技術力とブランド力に磨きをかけることにつながるだろう。
(翻訳・大谷晶洋)
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