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スマートフォンが登場して約20年。毎日、画面を何十回もタップし、メニューを掘り下げ、アプリとアプリを行き来しながら、目的の情報やサービスにたどり着いてきた。この操作習慣はあまりに当たり前になりすぎて、誰もそれを「手間」だとは感じなくなっている。
だが、中国の通信機器大手ZTE傘下のスマートフォンブランド「Nubia(ヌビア)」は、ByteDance(バイトダンス)のAIモデル「豆包(Doubao)」を搭載した新端末「Nubia M153」を共同で開発した。この端末は、スマートフォンの常識そのものに問いを投げかける。
「スマートフォンは、本当にスマートなのか?」

アプリが生む「逆説的な不便さ」
ZTEの幹部は、MWCの壇上でこう問いかけた。「配車サービスを呼ぶのに最低5ステップ。フードデリバリーの注文も5〜6ステップ。ファイルを送るだけで、WhatsApp、Telegram、メールを行き来しなければならない。これは本当に”スマート”と呼べるのか?」
アプリエコシステムは確かに便利さをもたらした。だが同時に、ユーザーは「機械を賢く見せるために人間が作業する」という奇妙な構造の中に閉じ込められてきたとも言える。スマートフォンはこの20年で劇的に進化したが、インタラクションの基本様式——タップ、スワイプ、メニュー選択——は本質的に変わっていない。カメラ画素数やベンチマークスコアの競争を続けながら、「体験」そのものへの革新は置き去りにされてきたのだ。
M153はこの問いへの一つの回答として位置づけられている。目指すのは「ワンセンテンス操作」——ひとつの自然言語の文章で、複数アプリをまたぐ複雑な作業を完結させることだ。

豆包、OSの深部でスマホを自動操作
M153の最大の特徴は、豆包AIをアプリとしてインストールするのではなく、OSの基盤レイヤーに統合している点だ。つまり、単なる会話AIではなく「端末を動かすエンジン」として機能する。
バイトダンスが開発した大規模言語モデル(LLM)をベースにしており、自然言語の理解と意図の把握に強みを持つとされている豆包。システムレベルの権限を持つ「インテリジェントエージェント」として動作し、端末上のあらゆるアプリを横断して操作を実行できる。
ZTEはこれを「スマートフォンの自動運転技術」と表現する。自動運転では、ドライバーは目的地を告げるだけでよい。M153では、ユーザーはやりたいことを一言伝えるだけでよい。「どのアプリを開いて、どのボタンを押して、何を入力して」という判断と操作はすべてAIが担う。

実際に何ができるのか
プレゼンでは、日常的なシナリオが複数デモされた。
シナリオ1:休暇設定の自動化 これまでは、Teamsでのステータス変更、メールの自動返信せっせう、カレンダー調整など——アプリごとの個別操作が必要だった。しかしM153では「木曜から火曜まで休暇に入ります」と一言告げるだけで、AIが各アプリと連携して必要な設定をすべて完了させる。
シナリオ2:SNS投稿の自動編集・投稿 「サグラダ・ファミリアで撮った1235枚の写真中から、ベスト2〜3枚を選んでInstagramとTikTokに投稿して」という指示に対し、AIがユーザーの好みを学習した上で選別・キャプション作成・投稿まで代行する。
さらに、個別インタビューでは、マルチアプリ横断タスクの様子も披露してくれた。
「AIエージェントに関する記事をネットで見つけて、核心的な観点をまとめた上でWhatsAppでホストに送って」という指示に対して、M153はウェブ検索、記事取得、要約、メッセージ送信という複数アプリにまたがる一連のプロセスを自律的に行してみせた。
これらの処理はバックグラウンドで実行されるため、ユーザーは操作中も端末を通常通り利用できる。必要に応じてAIが何をしているかをパネルで確認することも可能で、透明性を確保している。

「最終判断は常に人間に」
AIがスマートフォンを制御することへの不安に対し、Nubiaは明確な設計方針を示している。「すべての重要な行為には、ユーザーの承認が必要」というものだ。
具体的には、フードデリバリーの注文でAIがカートに商品を追加しても、決済は自動で行わない。SNSへの投稿も、ユーザーが最終確認をするまで実行しない。「面倒な作業はAIに任せ、最終決断は常に自分が下す」という設計は、過度な自律化への懸念を回避しながら利便性を高める現実的なバランスといえる。

豆包がアプリではなく、「OS」になる理由
興味深いのは、なぜバイトダンスが自ら端末を作るのではなく、ZTEのNubiaと組んだのかという点だ。
これに対して、ZTEの担当者は示唆に富む発言をしている。
バイトダンスがハードメーカーになれば、他の全メーカーが競合となり、AIの普及が限定的になるという。Nubiaがハードを担い、豆包がOSの中枢を担うことで、Appleの閉鎖的なSiri戦略とは対照的な、オープンなAIネイティブ・エコシステムの構築を狙っている。

「技術プレビュー」という正直さ
M153は2025年12月に中国市場で発売され、すでに完売している。MWCでの展示は」技術デモ」としての位置づけであり、欧州など海外市場での販売予定もまだない。中国でも、発売後にすぐに売り切れとなったが、アプリの運営企業側がAIによる購入に制限をかけるなど、混乱も見られた。
【こぼれ話】スマホ「豆包手机」が年末に中国スマホファンの間で話題です。nubia M153という機種で、バイトダンスの生成AI「豆包」がAIアシスタントとして機能。つまりアプリを問わず命令を解釈しやることを代理で操作してくれます。数段賢いスマートスピーカーと感じましたhttps://t.co/etsMqvbVgh pic.twitter.com/kaMiS855B8
— 36Kr Japan@中国テック・スタートアップ専門メディア (@36krJ) December 16, 2025
ZTEはこの端末を「技術プレビュー版」と明示しており、特にUX面では改善の余地があると認めている。これは正直な姿勢である。AIによるマルチアプリ横断操作は理論上のポテンシャルは大きいが、実際のユーザー体験においては誤操作やタイムラグ、意図の誤解釈といったリスクも伴う。完成品というよりも「こういう未来が来る」という方向性の提示として受け取るのが適切だろう。

スマホ版「真のAI革命」
ZTEモバイルデバイス部門責任者の倪飛氏はMWCの壇上で、スマートフォンの歴史を三段階で整理した。フィーチャーフォンの時代(キーボード操作)、iPhoneが開いたタッチ操作の時代、そしてこれからのAIネイティブ時代。「目的地を告げれば、あとはAIがやってくれる時代」だ。
この文脈でM153が問いかけているのは、単なる新機能の追加ではなく、「スマートフォンとの関係性そのものを変える」という野心である。アプリを開いて、タップして、スワイプして、という行為に慣れきった私たちにとって、「言葉で依頼する」インタラクションは最初は違和感があるかもしれない。しかし、それが自然に使えるようになった時、スマートフォンの「重力」は根本から変わる。
M153はその答えではないかもしれない。しかし、示す方向性は極めて挑発的だ。
(36Kr Japan編集部)
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