“船の自動運転は、車より難しい“——50億円を集めた中国新興が挑む「波と慣性」の壁

中国には50万隻を超える船舶が存在するが、操船支援システムを備えるものは1%に満たないとされる。一方で河川清掃船作業員の高齢化や、5年間で40%を超える遊覧船人件費の高騰、海上巡視員の人材不足など、船舶運用を取り巻く課題が顕在化している。

こうしたなか、自動操船技術を開発する中国スタートアップの「欧卡智舶(Orcauboat)」が注目を集めている。同社の無人船はすでに世界12カ国に1000隻近く導入され、出荷量も業界トップクラスを誇る。このほど、追加のシリーズBで約2億元(約50億円)を調達した。自動操船分野では、過去最大規模の資金調達となる。出資は厚雪資本(Houxue Capital)と元禾重元(Oriza Prior)が主導し、南山戦新投(Nanshan SEI Investment)や錫洲国際(Surrich International)なども参加した。

同社は2019年に事業化を果たし、香港科技大学の李澤湘教授が設立したXbotParkとHKX Foundation、Brizan Ventures、アンドリュー・チーチー・ヤオ(姚期智)氏の図霊創投(Turing Ventures)、阿里巴巴創業者基金(Alibaba Entrepreneurs Fund)などから出資を受けている。今回の資金調達前時点での企業評価額は約20億元(約460億円)に達していた。

陸上の自動運転とは別物、慣性や波風の攻略が鍵

陸地を走る自動運転と異なり、自動操船を実現するにはまずシステムの基本的なロジックを再構築する必要がある。船舶には大きな慣性が働くことで操船にタイムラグが生じるうえ、風や波の影響をランダムに受けるため、旋回時には少なくとも50メートル手前から操作を予測しておく必要がある。また、水上では霧や水影、反射が生じ、車載用センサーでは検知ミスが頻繁に発生する。

同社はこうした課題を解決するため、受動的に反応するのではなく、能動的に予測することが可能な操船支援システム「ORCA-APAS」を開発した。主に以下のような特長を備えている。

センサー:マシンビジョンとミリ波レーダーを組み合わせたソリューションを採用。複数センサー情報を統合するアルゴリズムによって、水面に映る樹影を検知しても船舶を急停止させない判断が可能になり、検知ミスの発生率を大幅に低減した。独自に開発したミリ波レーダーの検知距離は1kmに上り、水上の複雑な環境でも操船のための十分な時間を確保できる。

制御:動力学予測アルゴリズムが、風や波の影響をリアルタイムに推測して舵角を事前に補正、高さ1.5メートルの波でもセンチメートル単位の誤差で直進できる。

意思決定:基本ルール、行動予測、数学理論という三層の意思決定ツリーを構築した。システムはカヌーの旋回パターンから貨物船の直線軌道までを識別できるだけでなく、船舶とのさまざまな遭遇シーンで自律的に判断を下し、迂回や追い越しを柔軟に選択しながら「航路をいつ譲り、いつ進むか」を学習する。

ドメインコントローラー、4Dミリ波レーダー、操作モニターなどを開発(画像は企業提供)

「ORCA-APAS」は自動運転レベル2に相当する操船支援からレベル4に相当する自動操船までカバーしており、中・小型無人船分野で初めて中国船級社(CCS)のレベル4認証を取得した。システムはモジュール化され、小型の無人船から1万トンクラスの商船まで対応できる。

操船支援システムと船舶本体のビジネスモデル

同社は、独自の操船支援システムと船舶本体を供給する2本柱のビジネスモデルを構築した。

商船分野では、中国遠洋海運集団(COSCO Shipping)や中国船舶集団(CSSC)と提携し、1万トンクラスの大型商船向けに操船支援システムを供給している。

環境衛生分野では小型から大型、見回り用まで4種類の清掃船を展開。手作業と比べて効率は3〜5倍、コストは6割以下に抑えられ、顧客は約2年で費用を回収できるという。すでに中国50都市以上で約1000隻が稼働している。

観光分野でも3種類のスマート遊覧船を投入し、水鉄砲やカラオケなどの娯楽用モジュールを追加することで多様なニーズに対応する。中国50カ所近い観光地に数百隻が導入済みだ。

欧卡智舶の船舶製品ライン(画像は企業提供)

目指すは「船舶版テスラ」

操船支援システム「ORCA-APAS」の活用シーン(画像は企業提供)

欧卡智舶が次に見据えるのは、欧米に3000万隻が存在するクルーザー市場だ。クルーザーの操船には免許と経験が必要なためハードルが高く、購入しても使用頻度が低いという課題がある。同社は中間所得層向けのスマートクルーザーを開発中で、自動操船・障害物回避・自動離着岸・モノのインターネット(IoT)連携などの機能を、従来の燃料船と同等の価格帯で提供しようとしている。

創業者の朱健楠氏は「当社は電気自動車(EV)大手・米テスラの船舶版を目指している」と言い切る。中国発の高度なスマート技術を活かせば、今よりも10倍大きな市場を開拓できるとの見方を示した。

*1元=約23円で計算しています。

(翻訳・大谷晶洋)

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