【特集】バイトダンス・アリババ・テンセントーー中国新「BAT」三国史

中国のITを語る上で「BAT」という言葉を知っている読者は多いだろう。スマートフォン普及前のパソコン全盛期に登場したこの単語は、中国を代表するテック大手「バイドゥ(百度、Baidu)」「アリババ(阿里巴巴、Alibaba)」「テンセント(騰訊、Tencent)」の3社の頭文字に由来する。しかし、スマートフォン普及以降、バイドゥの存在感は低下し、TikTokを運営するバイトダンス(字節跳動、ByteDance)が急台頭したる。今、BATを再定義するなら「バイトダンス」「アリババ」「テンセント」の3社となる。

バイドゥが勢いを失った背景には、いくつかの要因があるが、そもそも米グーグルが2010年初頭に中国から追い出されたことが、同社に大きな追い風となり、当時中国の“唯一”のネットポータブルとして検索エンジン市場を独占した。しかし、モバイルインターネット時代に入ると、あらゆるサービスがアプリに移行し、PCサイトはアプリ普及と反比例するように存在感が低くなり、バイドゥを使った検索ニーズもだんだん縮小した。

百度の没落 IT御三家「BAT」時代が終わる

本稿では、スマートフォンが普及してからAIエージェントがポータルとなる現在に至るまでの、バイトダンスの台頭と、新旧BATの攻防戦を時系列で振り返る。

2016~19年:ユーザー「時間」の奪い合い

今から約10年前の2016年(4.7億台)、その翌年の2017年(4.6億台)をピークに中国向けスマートフォン出荷台数は毎年減少し、中国インターネット業界はゼロサムゲームの時代に突入する。

この2016年に、バイトダンスがショート動画アプリ「Douyin(抖音)」をリリースした(そのグローバル版のTikTokは翌2017年9月に登場)。Douyinは、SNSの繋がりや検索に依存せず、AIアルゴリズムがユーザーの好みに合わせた動画を次々と提示する仕組みで爆発的な人気を博した。

Douyinの台頭はテンセントにとって脅威だった。テンセントはDouyinの後を追うように、WeChat(微信)やQQのネットワークを活用したショート動画サービス「微視」をリリースした。数十億ドル(数千億円)もの補助金を投じトラフィックを誘導するも、ユーザーの嗜好を優先して動画を届けるDouyinの仕組みには及ばず、あまり存在感を出せずじまいだった。

またバイドゥにも影響を与えた。Douyinの台頭はますます人々から検索を遠ざけ、「検索+広告」を収益の柱とするバイドゥはじわじわと衰退した。ただバイドゥ自体、未来を見据え2010年の時点でAIを中核事業としているので、ロボタクシーや生成AIなどの分野では存在感は出し続けている。

調査会社「QuestMobile」のデータによると、2019年までにユーザーがショート動画に費やす時間は急速に増加し、SNSや動画に割く時間を直接押し下げた。。この時期から、バイトダンスは一気に頭角を現した。

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2020~23年:ユーザー「財布」のつかみ合いへ

2020年、コロナ禍を機に「ライブコーマス(ライブストリーミングEC)」が中国で急成長した。バイトダンスはこの年にEC部門を設立し、膨大のユーザー基盤を持つDouyinを足がかりに、「興味EC」という新しい手法でEC市場へ参入した。

これは従来アリババやJDドットコムが行っていた、「検索して発見して購入するEC」ではなく、これまでのユーザーの行動から刺さりそうな商品を紹介する動画やライブ配信に触発されて、「動画を楽しんでいるうちに欲しいものに出会い、衝動的に注文するというスタイルだ。Douyin ECのGMV(流通総額)は、2020年の約5000億元(約11兆6500億円)から、2023年には2兆6000億元(約60兆6000億円)へと急増し、一気に定番ECの一角に躍り出た。

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アリババは対抗策として「淘宝直播(タオバオライブ)」をリリースするも、検索や外部サービスからの視聴に依存しているため盛り上がりにかけた。Douyinの強力なアルゴリズムの前に、テンセントもアリババも後手に回ったのだ。

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ちなみに、アリババはこの時期は苦境が続いた。格安戦略で地方市場を狙いに急拡大する新興ECのPinduoduo(拼多多)も市場で存在感が高まった。傘下の金融テック企業のアント・グループの新規株式公開(IPO)は2020年末に中止。その後アリババは独占禁止法違反で罰金を科され、株価は急落し、士気もまた低下した。ジャック・マー氏からダニエル・チャン氏へ、さらにエディ・ウー氏へとトップが代わり、アリババの顔とも言えるジャック・マー氏は一時、表舞台から姿を消した。

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2024~26年:生成AIブームで新たな知的戦争に

ChatGPTをきっかけに生成AIが世界的に盛り上がり、自然な言葉でサービスを操作する「LUI(自然言語インターフェース)」がネットの新たなポータルとなり、パソコンからスマートフォンへと変わるような大変化を迎える。このタイミングを好機と捉えた中国AI業界は、2024年から2025年にかけて一気に活況を呈した。
当初は数百もの中国製大規模AIモデルが激しい競争を繰り広げていたが、2025年初頭にDeepSeek(ディープシーク)が急成長したことで多くのスタートアップは失速した。残ったのは、ディープシークに加え、バイトダンスの豆包(Doubao)、バイドゥの文心(Ernie)、アリババの通義千問(Qwen)、テンセントの混元(Hunyuan)、ファーウェイの盤古(Pangu)といったテック大手のサービスだった。

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アリババはオープンソース路線を選択し、Qwenを世界で最も人気のあるオープンソースモデルの一つに育て上げた。開発者コミュニティの支持を得て、アリババクラウドの売上も大きく押し上げ成長事業に。さらにタオバオ、アリペイ、旅行プラットフォームのフリギー(飛猪)にもQwenを統合し、エコシステム全体へのAI浸透を加速させている。

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テンセントは当初から出遅れたものの、元OpenAIの姚順雨氏をAI事業のトップとして迎え入れ、AI開発体制を刷新。WeChatを筆頭に、オフィスアプリなどの同社サービス群にHunyuanを導入さらに自律型AIエージェント「OpenClaw」人気を受け、WeChat内のミニアプリのエコシステム内で完結し、そのままWeChat Payで決済まで行える「AIエージェント」の開発を進めている。

バイトダンスは個人ユーザー向けに数多くの生成AIサービスを投入し、試行錯誤を重ねてきた。その結果、後発ながらも「豆包(Doubao)」が他社を圧倒するほどの成功を収めるに至った。対話型AIとして自然な言葉でやり取りできる点は他社と同様だが、豆包にはバイトダンスが長年磨いてきたUI/UXの知見が凝縮されている。画面遷移や操作の手間を最小限に抑えた軽快な操作感が、ユーザーから「圧倒的に使いやすい」と高い支持を得る要因となっている。

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さらには企業向けにも競合より圧倒的に低い料金設定も魅力で、導入企業は着実に増えている。

最後に

ユーザーの「時間」を制し、「財布」を開かせ、そして今度は「思考」に入り込もうとしている。新BATの野心に、終わりは見えない。

旧BATの時代が約10年続いたように、新BATの時代もまた10年続くのだろうか。それとも生成AIは、またしても業界地図を塗り替える新たな「バイトダンス」を生み出すのか。

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(文:山谷剛史)

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