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中国ネット大手のテンセント(騰訊控股)が2020年に投資または買収した企業は、前年より37%増え、国内外の企業合わせて168社に上った。投資額は通年売上高の約4分の1に当たる計1100億元(約1兆8000億円)に達している。
テンセントの大きな影響力は、2020年に過去最大の株価上昇率を記録したニューエコノミー企業の背後にも見られる。新興電気自動車(EV)メーカー「蔚来汽車(NIO)」の株価は、年初の4.02ドル(約440円)から42.75ドル(約4730円)へと爆発的に上昇した。同社の大株主であるテンセントが最大の受益者となったのは間違いない。このほか、ネット通販大手の「拼多多(Pinduoduo)」や「有賛(youzan.com)」、生活関連サービス大手「美団(Meituan)」、大手動画共有サイト「ビリビリ動画(Bilibili)」など、テンセントが株式を保有する十数社も大幅に株価を上げた。また、同年8月にニューヨーク証券取引所に上場したオンライン不動産取引プラットフォーム「貝殻找房(KE Holdings)」や、今年2月に香港証券取引所に上場した大人気ショート動画アプリ「快手(Kuaishou、海外版は『Kwai』)」を運営する「快手科技(Kuaishou Technology)」をはじめ、テンセントの出資を受け、中国本土以外で上場を果たした企業も数多い。
アリババ集団やバイトダンス(北京字節跳動科技)などの企業が特定分野への投資ペースを増す一方で、テンセントは従来どおり広い範囲で投資を続けている。これら大企業にとって、投資はすでにリターンの追求にとどまらず、企業間競争の手段となっている。
テンセントは「追い風に乗りそうな企業」を見逃さない
ここ1年のテンセントの投資対象は、中国内外を問わず、文化・エンターテインメントやゲーム、教育、電子商取引(EC)、人工知能(AI)など多岐にわたっている。投資件数は168件で、「セコイア・キャピタル・チャイナ(紅杉資本中国基金)」を抜いて首位となっている。
2020年は新型コロナウイルスの流行で教育分野は激変し、ユニコーン企業の誕生も相次いだ。
テンセントは同年上半期、オンライン教育の「VIPKID」へ出資したのに続き、同社傘下のオンライン塾「大米網校(damiwangxiao)」が実施したシリーズAでの資金調達でも出資している。また、同じくオンライン教育の「猿輔導(Yuanfudao)」が10億ドル(約1100億円)を調達したシリーズGでは、「高瓴資本(Hillhouse Capital)」やIDGキャピタルなどとともに出資者に名を連ねている。
テンセントはこれを含め、猿輔導に5回の出資をしている。猿輔導の評価額は現在、155億ドル(約1兆7000億円)に達している。テンセントの参入は、オンライン教育業界成長の起爆剤となった。
テンセントは、住宅地を対象とする共同購入型ECサービスの「興盛優選(Xingsheng Youxuan)」へも多額の投資を行っている。興盛優選は創業わずか2年で評価額が10億ドル(約1100億円)を超え、湖南省の同一分野の企業としては初のユニコーン企業となった。同社はこれまで6回の資金調達で、計17億ドル(約1800億円)以上を調達している。
テンセントは2019年5月のシリーズA+および20年7月のシリーズC+で出資している。また、現在計画中の30億ドル(約3300億円)規模の資金調達でも出資するとの情報もある。
テンセントはエンターテインメント分野への投資も重点的に行ってきた。
2020年は、映画・テレビ業界が冷え込む一方で、有料音楽配信サービスやアニメ業界はさらなる発展を遂げた。テンセントは有料音楽配信サービス分野への参入も進め、米ワーナー・ミュージック・グループ(WMG)と米ユニバーサル・ミュージック・グループ(UMG)の株式を取得した。アニメ分野では「百漫文化(BYMENT)」、「花原文化(Garden Culture)」および「阿佩吉(Apogee )」を対象に、かつてない大型投資を実施した。
テンセントはエンターテインメント分野の中でも、ゲームを最重点分野としている。ゲーム企業への投資は2019年の6社から20年の29社へと4倍以上に増えている。とくに、2次元ゲームやカジュアルゲーム、タワーディフェンスゲームなどを手掛ける国内ゲームメーカーを対象に積極的な投資を行った。
とはいえ、全ての新興企業がテンセントの投資を受け入れたわけではない。人気オンラインゲーム「原神(Genshin)」の開発・運営で急成長した「miHoYo(米哈游)」がその代表例で、業界内ではすでに「テンセントがmiHoYoに刺激を受けている」との共通認識が形成されている。
ゲームはテンセントのキャッシュフローを支えており、同社が配信するモバイルゲーム「王者栄耀(Honor of Kings)」は過去数年間、世界モバイルゲーム売上ランキングで首位を独占している。しかし、一時は原神の売上高が王者栄耀に迫る勢いを見せたのも事実だ。
こうした状況を見れば、テンセントが2020年にゲーム分野への投資を積極化させたのも理解できる。中国のビジネスメディア「晩点(LatePost)」によると、テンセントは現在、ゲーム企業への投資において「価格へのこだわりよりも、スピード感を重視する」方針を取っているようだ。
ライブ配信の分野でも、テンセントは大きく布陣しようとしている。
テンセントが株式を保有するゲーム動画配信大手2社の「虎牙(HUYA)」と「闘魚(DouYu)」は2020年4月、両社の「合併に関する協議および計画」に調印するとともに、テンセント傘下のeスポーツプラットフォーム「企鵝電競(Tencent Egame)」と統合する方針を明らかにした。なお、この合併案は独占禁止法上の懸念があり、現在のところ実現されていない。
また、テンセントはゲーム動画配信関連のMCN(マルチチャンネルネットワーク)としては初めて「 小象互娯(Baby Elephant Entertainment)」に投資し、2020年3月に同社が同業の「大鵝文化(Bgoose Culture)」と合併するのを後押しした。このゲーム動画配信関連MCN大手2社の合併により「小象大鵝(Elephant Goose Media)」が誕生している。
以上はテンセントによる投資の「氷山の一角」にすぎない。テンセントは2018年9月にインダストリアル・インターネットに注力する方針を明らかにした。それ以降、TOB(株式公開買い付け)を投資戦略の中心に据え、消費関連企業や人工知能(AI)分野などへの投資を加速させてきた。
2020年は投資の冷え込みが続いたが、テンセントは投資のペースも投資件数も増し続けている。今後の動向にも注目していくべきだろう。
掲載元:「連線Insight(WeChatID:lxinsight)」文・鍾微、編集・葉麗麗
(翻訳・田村広子)
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