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アリババが推進する「双12」セールが行われた12月12日、新興EVメーカー「小鵬汽車(Xpeng Motors)」が同社初の量産車「小鵬G3」を正式に販売開始した。
G3の航続距離は365キロメートルで、3バージョンをラインナップ。定価は22.78〜25.78万元(約370万〜420万円)だが、年内に予約すれば、政府の補助金が交付され、実質的に13.58万〜16.58万元(約220万〜270万円)で購入できる。
2時間に及んだ今回の発表会で、董事長の何小鵬氏はG3の音声システム、自動駐車機能、ルーフカメラなどを紹介。また、同氏は総裁の夏珩氏とともに車内でゲームに興じたり、歌を唄ったりしてG3の魅力を存分にアピールした。
こうした宣伝手法には同社の戦略が垣間見える。つまり、EVと従来の自動車との根本的な違いは「AI」にあり、AI搭載車の核心はAI搭載車に適したエコシステムの形成であって、製造は基本に過ぎないという考えだ。
何氏のこの考えを確認したのは2度目だ。約半年前に開催された同社の発表会で、何氏は「AI搭載車の中核はAI搭載車に適したエコシステムの形成にあり、製造ではない」と語り、物議を醸すことになった。
それでも何氏はあきらめなかった。「AI化」を重要戦略に掲げる同社の製品は、最終的に消費者に受け入れられるのだろうか?
スマートフォンのような車
三、四年前、業界に新興メーカーが台頭し始めたころ、どのメーカーも口々に「スマートフォンのようなインテリジェンスを持つ自動車を作る」と宣言した。しかし、量産段階に入るとトーンダウンして、製造業に対する畏敬の念を深めていった。
もちろん、AI化が重要でないわけではない。ただし、品質や安全性能はAI化よりも優先順位が高いということに気づいたのだ。
業界をけん引するメーカーの中で、今もなお「AI化」を第一に掲げているのは小鵬だけだ。競合他社と差別化を図るために、AI化というセールスポイントが必要だからだ。何董事長は「新興EVメーカーの製造能力は、従来の自動車メーカーに敵わない」と従前から認めてきた。
G3の現在のインテリジェント機能には、前述した自動駐車、音声操作などがある。システムの安定性についてはまだ断言できないが、同社株主であるアリババの「AliOS(IoTソリューション向けOS)」を採用せずに、スマートネットワークソリューションを自主開発した点は注目すべきだろう。
つまり、AI化は小鵬の生命線であり、何氏が固守するのも十分理解できる。
急がば回れ
小鵬は2014年に設立された。2017年8月、何氏は自身が創業した「UCWeb」(ブラウザ開発)に別れを告げて小鵬に正式に参加。その2カ月後、同社初のモデル(バージョン1.0)を発表したが、完成度が低く、結局、テスト車両として従業員向けに数百台が納入されただけだった。
G3の製造は中堅自動車メーカーの「海馬汽車(HAIMA)」が担うが、海馬小鵬工場の総投資額は20億元(約326億円)以上で、フレキシブルな自動生産ラインを4本敷いている。一期工事が完了すれば、生産能力は年間15万台に達する見込みだ。
小鵬は中級SUVをターゲットとしているので、フォルクスワーゲンと提携した「江淮汽車(JAC)」に比べれば、海馬にかかる生産へのプレッシャーは大きくないだろうが、自動車の製造プロセスは複雑で、サプライチェーンの管理も難しい。これまでに小鵬は購買価格などを巡ってサプライヤーとの間にトラブルを抱えてきたこともあり、量産体制の整備は同社にとって大きなチャレンジになるはずだ。
また、小鵬の量産に関しては、興味深いエピソードがある。
今年8月、何氏とライバル企業「蔚来汽車(NIO)」の李斌CEOの間でちょっとした「賭け事」が行われたのだ。何氏は「今年中に1万台のEVを納入できるメーカーはない」と主張し、李氏は「我々は可能だ」と反論。両者は賭けをし、勝者には敗者メーカーの車が贈られることになった。
それから数カ月後、蔚来はES8の1万台生産完了を祝う式典を開催した。つまり、何氏は勝負に敗れたのだが、李氏に祝福の言葉を送るとともに、同時に「急がば回れだ」と自社を弁護するような発言もしたという。
同時期に創業した蔚来や「威馬汽車(WM Motor)」と比べると、小鵬の動きは確かに遅い。しかし、何氏は焦っていない。速さよりも、より高品質なG3を消費者に届けることが最重要だと考えているのだ。
新たな試練
とは言え、生産能力の向上以前に、小鵬が直面しそうな問題がある。十分な注文を得られるかどうかという根本的な問題だ。
今年11月、蔚来のEVは3089台が納入され、累計生産台数は1万台を超えた。威馬も数千台を納入済みで、その生産能力は1時間につき20台にまで上がったという。今後新興EVメーカーが直面するかもしれないのは、受注が不足し、生産設備がアイドリングする事態だ。
実際に、今年の自動車市場は不安定だ。全体的に経済は芳しくなく、新車販売台数は17年間の成長期を終え、今年11月は前年比で18%も下落した。中国の新興EVメーカーは生まれたばかりであるにも関わらず、厳しい冬を迎えようとしているのだ。
小鵬の関係者は36Krの取材に対して、G3発売前には予約は数百台しかなかった、と明かしている。新車の発売、補助金制度やキャンペーンなどの消費刺激策によって新たな注文は増えるだろうが、小鵬も蔚来と同じように、最初は利益を度外視して顧客基盤を拡大することが必要だろう。
来年3月、海馬小鵬工場は生産能力を向上させ、その後、大規模に納車できるようになる。 2019年は小鵬にとって、歯を食いしばり、全速力で走らなければならない1年になる。全国30都市に70の直営店を開設するとともに、2020年末までには充電ステーション1000カ所、専用給電ポール1万本を設置する予定だ。同時に、サードパーティーと提携し、給電ポール10万本を設置する計画も進めている。
4年前に何董事長と夏総裁が出会った際、両者は将来の自動車について深く議論したという。両氏の当時の構想は、品質が良く、自動運転、クラウド交流、大画面で楽しめるエンターテインメントなどさまざまな機能を搭載した自動車。価格はそれほど高くなく、若者にも愛される自動車……彼らはこの4年間でこの構想を見事実現した。
しかし、今は新たな試練が待ち構えている。同社が正式に市場に進出して、消費者の信頼を勝ち得るかどうかは、やはり製品そのものにかかっているだろう。
(翻訳・飯塚竜二)
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