NFTスニーカーに600万円突っ込む投資家も。「歩いて稼ぐ」ゲームSTEPN、ブームはいつまで続く?

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「歩いて、走って稼ぐ!」。ブロックチェーンを活用した次世代型インターネット「Web3」の世界的な潮流を受け、こんなうたい文句で注目を集めているのが、非代替性トークン(NFT)ゲームの「STEPN(ステップン)」だ。

STEPNは、パブリックブロックチェーン「Solana(ソラナ)」をベースに開発されたスマートフォン向けアプリで、「Move to Earn(移動=運動=して稼ぐ)」をコンセプトに据える。

ユーザーはアプリに登録し、初期投資としてスニーカーNFT(ゲーム内資産に相当)を暗号資産で購入した後、歩いたり走ったりすれば、ゲーム内通貨であるトークン「GST」が得られる仕組みだ。どれだけ稼げるかはユーザーが継続できるかどうかや、スニーカーNFTのタイプやレベル、属性値、保有数などに左右される。

2021年12月にベータ版の提供を開始して以来、オーストラリアや日本など世界の多くのアプリ市場で上位にランクインした。STEPNによると、21年9月にツィッター上で公式アカウントを開設し4月21日時点でフォロワー数は29万人を超えている。

ユーザー数も着々と増やしている。ステップンの共同創業者、ジェリー・ホアン氏は先に、同社の平均日間利用者数(DAU)が既に10万人を超え、ベトナムのゲーム会社スカイメービスが開発したNFTゲーム「アクシー・インフィニティ」のDAUを上回ったと明かしている。

STEPNでは、ユーザーがマーケットプレイスでスニーカーNFTを購入する必要があるが、最初の靴選びは慎重になった方がいい。あらかじめ決められた適正速度の範囲内で動かないと「稼げない(ゲーム内トークンを付与されない)」ためだ。

「Walker(ウオーカー)」「Jogger(ジョガー)」「Runner(ランナー)」「Trainer(トレーナー)」の4タイプがある。このうち歩く人向けのウオーカーは時速1~6キロ、歩いても走っても良いトレーナーは同1~20キロに設定されている。歩くより走る方が獲得できるトークンが多い。

レア度を示す「クオリティー」も、重要な要素だ。レア度の低い順から「Common(コモン:灰色)」「Uncommon(アンコモン:緑色)」「Rare(レア:青色)」「Epic(エピック:紫色)」「Legendary(レジェンダリ―:オレンジ色)」と区分されているが、現時点で実装されているのはレアまでだ。

「稼ぐ」方法に複数の選択肢

「歩きながら稼ぐなんて、本当に可能なのだろうか」。ビリオンさん(仮名)は当初そう考え、STEPNのプロジェクトに懐疑的だったと振り返る。

ビリオンさんは、今では代表的な暗号資産となったビットコインに14年から注目してきたというベテラントレーダーだ。21年にステップンのベータ版がリリースされた直後は、その存在を認知しつつも、エコシステムに様子見の姿勢を取った。

ユーザーがSTEPNで「稼ぐ」には、主に2つの方法がある。1つ目は、スニーカーをアップグレード(レベル上げ)することで獲得できるトークンを増やすことだ。STEPNは「GST」(無制限に発行)と「GMT」(ガバナンストークン、発行上限60億枚)の2種類のトークンを使用している。2つ目は、保有するスニーカーやシューズボックスをアプリ内のマーケットで売り出し、暗号資産 を獲得する方法だ。

2足のスニーカーを掛け合わせて、一つのシューズボックス(1足入っているが、開封するまで詳細は不明)を生み出す「Mint(ミント)」と呼ばれる機能があり、Mintによって生まれた靴を販売することで、収益を得ることもできる。

収益化へ情報共有進む

STEPNではアプリ内のマーケットプレースでスニーカーNFTを売買できる。4月2日までに、コモン(灰色)・スニーカーNFTの最低価格は人民元換算で7500元(約14万9000円)前後の値を付けた。直近のスニーカーNFTの最高価格は1万SOLで、元換算では800万元(約1億5900万円)超に達している。

前述のビリオンさんによれば、ジョガー用のアンコモン(緑色)・スニーカーNFTは2月初め、2万元(約39万7000円)を突破した。また、3月時点で一部のスニーカーNFTは999SOLもの値が付いて取引が成立。元換算で60万元(約1190万円)超に達したという。

ステップンでの収益最大化を巡っては、既にユーザー間でさまざまな方法が研究されている。コミュニティーサイトをのぞくと、コスト回収時期を計算するシステムを共有化したり、初心者向けにスニーカーのタイプやクオリティーの組み合わせを助言したりしている。

ミニプログラム上で公開されている原資回収予測システム

600万円で70足超を爆買い

ビリオンさんに話を戻そう。1カ月ほど様子見を続けた後にSTEPNを試してみることにした。2月5日、約6000元(約11万9000円)を投じて1足目としてコモン・スニーカーを購入。3日目にアンコモン・スニーカーを購入した。その後、「歩きながら稼ぐ」活動を毎日続け、新しいスニーカーを購入してはMint機能を使ってシューズボックスを作り、スニーカーを出現させ、売り出すことを繰り返した。

最初は「投資」に近い気持ちで参加しながらも、多くの人が「運動信者」となったとされる。ビリオンさんも例外ではない。家族のアカウント開設も手伝い、「ステップンには全員でもう三十数万元(600万円以上)投じたよ」と筆者に明かした。家族で保有するスニーカー数は70足を超えており、1日の収益は元換算で約1万5000元(約29万8000円)に達しているという。

ビリオンさんによると、毎日屋外で運動する習慣が身に付いたことが、収益以外の大きなメリットだったと話す。以前はジョギングを始めても三日坊主になりがちだったが、今ではスニーカーNFTを定期的にアップグレードするまでに。複数の時計アラームをセットして、1秒足りとも無駄にしないようにしているという。

運動を終えた直後のアプリ画面

「雨ニモ負ケズ」歩いてコスト回収

オーストラリアで暮らすジーノさん(仮名)も、STEPNに出合い、「運動信者」となった一人だ。今年2月末、友人の勧めでアプリに登録し、グレー色のコモン・スニーカー2足と緑色のアンコモン・スニーカー1足を購入。その後、新しいスニーカーを次々と購入し、ミント機能を活用して多くのスニーカーを生み出しては売ったという。

これまでの投資額は10万元(約200万円)ほど。靴の数が増えるのに伴い、1日1時間の運動が可能になったほか、1日の収益も約200 GST(4月22日時点で約12万円)に増えた。

しかし、それなりの覚悟も必要なようだ。ジーノさんが住む地域では3月、14日間連続で豪雨に見舞われたが、「1日歩かないと600ドルも損する!」と自分に言い聞かせ、レインコートを購入し、毎日1時間歩いたという。

3月下旬、豪雨の中をひたすら歩いたジーノさん=本人提供

ブームはいつまで? 積極派も身構え

一方、利益の生まれる場所は、ルールの抜け穴をつく動きが出てくるなど、往々にしてカオス状態に陥りやすい。既に走る時間のない「投機家」が「代走者」を募ったケースが報告されている。STEPNのワークショップと称して学生やランニング愛好者を雇い、1日分の運動量を消費させた大口投資家もいたもようだ。

STEPN側から不正行為と見なされれば、アカウントが停止されるリスクがあるが、熱狂的な一部のユーザーがこうした行動に走るのは、プロジェクトの初期段階に最も稼ぎやすいのを知っているためだ。しかしそんな彼らでさえ、今後安定期に入れば、収益効率が徐々に下がっていく可能性があるとして、身構え始めているという。

同社が打ち出した「Move to Earn」モデルが人気を博すと、類似のプロジェクトが相次いで出現した。「Learn to Earn(学んで稼ぐ)」モデルに似た英語学習の「Let Me Speak(話しかけて)」や、シンガポールでは「Sleep to Earn(眠って稼ぐ)」が挙げられる。ただし、今のところ、いずれもSTEPNの完成度には及ばない。つまり、STEPNの持続可能性そのものにユーザーの関心が集まっている。

公表されている情報によると、STEPNはオーストラリアに拠点を置くオンラインゲーム開発会社で、共同創業者のジェリー・ホワン氏とヨーン・ロン氏はともに華人だ。ゲームとDeFi(分散型金融、ディーファイ)を組み合わせた「GameFi(ゲームファイ)」と、SNSとDeFiを融合した「SocialFi(ソーシャルファイ)」の要素を取り入れたWeb3のライフスタイルアプリ運営企業となることを目標に掲げる。

STEPNに未来があると信じている人々は、今も多額の投資を行っている。彼らが重きを置くのは、プロジェクトの内容と今後の展望だ。二酸化炭素(CO2)排出量を相殺する「カーボンオフセット」制度の実施を決めているほか、スニーカーのレンタル機能導入により、ユーザーの参入条件引き下げを視野に入れている。資金調達面では、同業他社に比べ、創業チームの透明性が高く、信頼度が高いとの声もある。  

とはいえ、大多数のユーザーは、なお様子見姿勢が強い。STEPNが発展期の後半に突入し、収益効率が徐々に低下していく可能性を懸念しているためだ。後から参入すれば、高額で取得したスニーカーNFTが値下がりして原資回収できなかったり、最終的に暴落したりして、ある種の詐欺行為に遭うのを恐れているのだ。

作者:深燃(Wechat ID:shenrancaijing)

(36Kr Japan編集部)

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