セミナー情報や最新業界レポートを無料でお届け
メールマガジンに登録
日本でもすっかりおなじみになったガチ中華。以前は日本語訳が怪しい冊子タイプのメニューが多かったが、最近はタブレットやスマートフォンからQRコードを読み取って注文できるデジタルメニューが増え、ガチ中華初心者の日本人客も注文しやすくなった。都内近郊200店舗以上のガチ中華店にメニュー端末を提供する株式会社iDの楊営業部長に、顧客開拓の取り組みや、ガチ中華のトレンドについて聞いた。
最初は営業、今は口コミで導入拡大
iDは元々人材派遣などを展開していたが、新型コロナウイルスの影響を受け業態転換。2020年夏ごろからタブレット端末やスマートフォンを通じて非接触で注文できるメニューシステムの提供を開始した。当初は池袋や高田馬場などの中華料理店に地道に足を運び営業をかけていったという。「コロナ禍で中国人のスタッフが帰国して人手不足だったり、客とできるだけ接触したくないという店員が多かったので、客のスマホから注文できるメニューやタブレット端末が少しずつ広まりました。試用期間を設けて最初は無料で使ってもらったことも効果がありました」と楊さん。中国ではすでにスマホから注文するデジタルメニューが普及していたこともあって、日本人オーナーの店や日本人客がメインの店に比べて導入の抵抗が少なかったようだ。
同社のメニューシステムは2022年末時点で日本のガチ中華料理店200店舗以上で導入されている。楊さんによると、当初は地道な営業を行っていたものの、ガチ中華料理店が増える過程で、オープン祝いの場で端末の存在が口コミで広がり、今では営業より口コミきっかけがほとんどだ。
転機は2020年末。新宿にオープンした火鍋チェーン店の有名店「譚鴨血(タンヤーシュエ)」が、同社のシステムを導入したことがきっかけだという。開店祝いに訪れた同業者が興味を持ち、口コミでメニューシステムが導入されるようになった。2021年から2022年はガチ中華の新規出店が進んでいたタイミングであり、関係者の口コミが伝わり新規出店時で同社のメニューシステムが採用されるサイクルが広がっていったというわけだ。
メニュー端末導入から見えるガチ中華のトレンド
この3年でオープンする店の傾向も変わっている。楊さんによると2020年〜2021年頃まで顕著だったのはインバウンドや不動産系のビジネスを手掛けていた中国人の飲食店参入だ。コロナ禍の影響で既存のビジネスが行き詰まり「新たなビジネスチャンスを」という形でガチ中華が増えていった。この時期、火鍋や四川料理の新規出店が目立ったが、火鍋は麻辣スープと具材さえ用意できれば凄腕の料理を必要としないし、四川料理は日本で暮らす中国人からもウケがいいというのが背景にある。コロナの影響で多くの飲食店が閉店し、家賃が下がったタイミングだったこともあり、多くの路線が乗り入れていて人の流入が見込める上野や、中国人が多い池袋に多くのガチ中華店が増えていった。こういった店は大型の店舗であることが多く、メニュー端末からオーダーできたほうが効率的ということも同社のメニュー端末が普及した一因だ。
また、こうした大型店は店内の装飾に力を入れ、中国国内のものをそのまま持ち込んだ派手な店が多い。それらの店がSNSなどで“中国そのままの雰囲気の店”と話題になったことが、日本のガチ中華ブームに火をつけた。
火鍋や四川料理が増えた2021年までと比べると2022年のトレンドはまた少し違うと楊さんは話す。
「2022年からは中華料理のバリエーションが豊かになりました。ガチ中華の店舗数が増えてきたので各店のオーナーが差別化しようとしている結果だと思います」(楊さん)
ガチ中華の勢いが増すにつれてニッチな料理が食べられる店が増えていたが、2022年はその傾向が一層強まったように筆者も感じていた。香港スタイルの魚の浮き袋と鶏肉を使った「花膠鶏火鍋」や四川の辛くない牛肉鍋「蹺腳牛肉」、内モンゴルの「羊肉焼売」などだ(日本で初めて食べた料理も多くあった)。大型店舗が目立った2021年までと比較すると中・小規模の店舗も増えた。
2023年のガチ中華の展望について楊さんは「夏までは引き続き上野・池袋での出店が続きそうです。他の店とは違った料理を出す店が増えると思います。海鮮を使った中華や、日本人にも食べやすい米線(ライスヌードル)などです」と話す。2月に上野に新しくオープンした「天府李米線」はオーストラリア発の四川料理店で、米線を皮切りに今年日本で3店舗の出店を目指しているという。湯島や池袋などで雲南料理を提供する「食彩雲南」は2022年頃から雲南料理だけでなく、海鮮の蒸気蒸しをスタートさせた。上野の火鍋店 「名膳」も2023年になってから同様のメニューを提供し始めた。日本の新鮮な海鮮を使った蒸気蒸しは中国人にだけでなく日本人にも馴染みやすいので、日本人客をガチ中華の店に引き寄せるのにも適していそうだ。今年のガチ中華のトレンドがどのように移り変わっていくのか引き続き注目したい。
阿生:東京で中華を食べ歩く26歳会社員。早稲田大学在学中に上海・復旦大学に1年間留学し、現地中華にはまる。現在はIT企業に勤める傍ら都内に新しくオープンした中華を食べ歩いている。Twitter:iam_asheng
セミナー情報や最新業界レポートを無料でお届け
メールマガジンに登録