加熱する中国「エンボディドAI」、半年で100社もの企業が誕生 商用化には大きな壁も

36Kr Japan | 最大級の中国テック・スタートアップ専門メディア

日本最大級の中国テック・スタートアップ専門メディア。日本経済新聞社とパートナーシップ提携。デジタル化で先行する中国の「今」から日本の未来を読み取ろう。

スタートアップ注目記事

加熱する中国「エンボディドAI」、半年で100社もの企業が誕生 商用化には大きな壁も

36Kr Japanで提供している記事以外に、スタートアップ企業や中国ビジネスのトレンドに関するニュース、レポート記事、企業データベースなど、有料コンテンツサービス「CONNECTO(コネクト)」を会員限定にお届けします。無料会員向けに公開している内容もあるので、ぜひご登録ください。

原文はこちら

セミナー情報や最新業界レポートを無料でお届け

メールマガジンに登録

続きを読む

AI技術の発展が続くなか、人型ロボットに代表される「エンボディドAI」(Embodied=身体性を有する)が現実のものになろうとしている。ある汎用ロボットメーカーのある共同創業者によると、この半年に中国では100社近いロボット関連企業が誕生したことが分かった。

急成長しているこの業界に、ホットマネーも続々と流入している。スタートアップデータベースのIT桔子によると、2023年の中国ロボット業界の資金調達額は240億元(約5000億円)に達し、10億元(約200億円)を超える大型の資金調達が4件あった。なかでも常軌を逸していたのは、ファーウェイ(華為技術)に所属していた天才少年として知られる「稚暉君」こと彭志輝氏が、ファーウェイから独立して創業した「智元機器人(Agibot)」だ。飛ぶ鳥落とす勢いの同社はこの1年で、紅杉中国(Hongshan、旧セコイア区チャイナ)や、上海汽車集団(SAIC MOTOR)傘下の上汽投資(SAIC Capital)などから6回の資金調達を実施、設立から1年も経たないうちに評価額が70億元(約1500億円)にまで膨れ上がった。

元ファーウェイの天才エンジニア、工場作業も家事もできる人型ロボット発表。「コスト400万円に抑える」

海外市場でも激しい争いになっている。米Open AIは、急成長を遂げているエンボディドAI開発のスタートアップ、ノルウェーの「1X Technologies」と、人型ロボット開発の米「Figure AI」に出資した。1X Technologiesはサムスン電子を後ろ盾とし、Figure AIにはNVIDIA(エヌビディア)、マイクロソフト、インテル、アマゾンなどそうそうたる大企業が出資している。

AIモデルとハードウェアのコストダウンで急成長

人型ロボットは大きく3つの部分から構成される。まず大脳に相当するAIモデルで、ロボットが人類社会の規則を理解し、自然言語でコミュニケーションをとって行動を決定する。次に、ロボットの動き、滑らかさ、身体的感覚、平衡感覚など運動機能に関わる部分、そしてハードウェアであるボディだ。

ロボットがAIという「頭脳」を手に入れたことで、近年のロボットブームが加速したとはいえ、中国にはロボットの普及を後押しする別の重要な要素がある。それは、ロボット本体のコストが急速に低下し、ロボット業界の成長を促す基盤ができたことだ。

人型ロボットのイノベーションは米国のシリコンバレーではなく、中国から始まったとの見方が多くの業界関係者の間で共通認識になっている。両者を比較すると、中国はロボットを生産する能力が高く、豊富な応用シーンがあるだけでなく、需要も供給もシリコンバレーより大きい。

あるロボット関連スタートアップのCEOは、かつて価格が1万元(約20万円)程度だったロボットの関節が、今では1000元(約2万円)程度と値段が1割ほどになったと語っている。

中国の「宇樹科技(Unitree Robotics)」が今年5月に発売した人型ロボット「G1」の価格は9万9000元(約210万円)からと、人型ロボットはさらに低価格化が進む傾向にある。4足歩行ロボットを開発する「優必選(UBTECH)」の技術者によると、これまで人型ロボット専用の部品は全てオーダーメイドで、生産量が少なく、コア部品を海外サプライヤーに依存していたことなどからコストがかさんでいたが、近年は国内メーカーの参入で部品の出荷量が増えたために価格が下がったという。

“人間を凌ぐ敏捷性” 中国・Unitreeが人型ロボット「G1」発表、約220万円〜二次開発も可能

中国では比較的簡単に安価でハードウェア製造ができるので、人型ロボットメーカーが積極的にトライした結果、市場のニーズが増えて部品価格が下がり、市場参入のハードルも下がるという好循環が生まれた。

人型ロボット商用化への挑戦

興味深いことに、続々と誕生するロボット企業には理想派と現実派がある。理想派は人型ロボットを究極かつ理想的な最終形態と捉えている。一方で現実派は、AIロボットとビジネスシーンの組み合わせを重視し、短期間でリターンを得ようとする。現実派の考える最終形態は人型とは限らず、形態は具体的な応用シーンに合わせて調整される。ある場合は極めて賢いロボットアームかもしれないし、あるいは脚部がホイール状で工場をスムーズに移動する車両のようなかたちかもしれない。

ロボット業界の前途は明るいとはいえ、人型ロボットの商用化にはデータ取得と汎化能力の強化という2つの大きな課題がある。

大規模言語モデルは、人類の膨大な知識を学習して初めて知能を手に入れる。一般的な大規模言語モデルの訓練に使用されるテキスト、画像、動画などのデータに比べ、エンボディドAIの訓練には、例えばドアを開ける、調理をするなど、人類が属する物理世界のさまざまなシーンにおける行動データが必要になる。しかしこのようなデータ収集にかかるコストは極めて高く、エンボディドAIに取り組むスタートアップは収支バランスに頭を痛めている。

企業各社はそれぞれ異なる方法でデータ収集という難題の攻略に取り組んでいる。汎用人型ロボット開発の「銀河通用機器人(Galbot)」を創業した王鶴氏は、合成データの使用を提唱する。これはシミュレーションソフトを利用し、目標とするリアルデータをコピーしてバーチャル環境に落とし込み作成したものだ。同社の開発チームは合成データによりロボットを訓練し、あらゆる材質や形状のものを積み重なった山からつかみ取るというタスクで成功率95%を達成した。

中国の人型ロボット「Galbot」、設立1年で150億円の資金調達 「優れた頭脳と制御」で話題

一方、「星海図人工知能科技」の高継揚CEOは、エンボディドAIのベースとなるのはリアルデータにシミュレーション学習を積み重ねることとし、合成データではなく現実世界から手に入れたリアルデータを使用すべきだと考えている。

もうひとつの課題は、技術で最先端を行くグーグルのロボットでさえも、汎化能力が実用レベルに達していないことだ。グーグルのロボットが対応可能な物理シーンはキッチンでの作業や作業台でのピックアップなど画一的で、状況が変わり、作業台の高さが変化しただけでも、ロボットが判断や動作を誤るおそれがある。高度な汎化能力を持つロボットなら、複数の穴のボルトを締めるというタスクを指示された際、一カ所の穴で締め方が偏ってしまったら、次の穴でそのずれに合わせるよう自らの動きを修正できる。

もちろん、ロボットの「大脳」はまだ創発能力(Emergent Properties)を発揮するには至ってないが、現段階であっても、適切なボディの形態と利用シーンを組み合わせればビジネス利用の価値が生じる。汎化能力が初級レベルのAIロボットは「非常に賢い」とは言えないまでも、近い将来に実用化できるかもしれないと多くの業界関係者は考えている。

ロボット界の泰斗である王田苗氏は、AIロボット商用化実現の鍵としていくつかの要素を挙げている。まず、資金や開発経験、データなどのリソースであり、小米集団(シャオミ)傘下の小米汽車(Xiaomi Auto)や生活関連サービス大手・美団(Meituan)のような大手メーカーがロボットに必要なさまざまなデータを提供できる。加えてリソースを統合し、資金を調達するスキルだと指摘した。

エンボディドAIの大脳を研究するある企業では、基本的な汎化能力を備えたエンボディドAI用大脳を年内に実用化し、仕上げ、つや出し、搬送、塗布などの作業に活用したいと考えている。株主の産業リソースと応用シーンを生かして、商用化の実現を目指す考えだ。

https://36kr.jp/301158/

※1元=約21円で計算しています。

(翻訳・36Kr Japan編集部)

36Kr Japanで提供している記事以外に、スタートアップ企業や中国ビジネスのトレンドに関するニュース、レポート記事、企業データベースなど、有料コンテンツサービス「CONNECTO(コネクト)」を会員限定にお届けします。無料会員向けに公開している内容もあるので、ぜひご登録ください。

原文はこちら

セミナー情報や最新業界レポートを無料でお届け

メールマガジンに登録

関連記事はこちら

関連キーワード

セミナー情報や最新業界レポートを無料でお届け

メールマガジンに登録