外骨格ロボットで登山、中国観光地でブーム⋯“若返りツール”に高齢者もハマる

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外骨格ロボット(パワードスーツ、パワーアシストスーツとも呼ばれる)が中国で大きな盛り上がりを見せている。その熱狂ぶりは、日本にとっても無視できないほどだ。

外骨格ロボットとは、人の動きを補助するウエアラブル型の機器で、着用することで重いものを持つ、階段を昇り降りする、歩く・走るといった人間の基本動作を強化・拡張できる。これまでは、倉庫業務などの物流現場やリハビリを目的とした医療分野などでの利用が中心だった。

5月初めの大型連休に、中国各地の観光地で外骨格ロボットのレンタルサービスが開始され、注目を集めている。特に、万里の長城(八達嶺長城)や、黄山、泰山、華山、廬山といった景勝地で、山水画に登場するような急斜面の山が多く、階段での昇り降りには足腰への負担がかかる。外骨格ロボットを装着すると、負担が軽減されるという。レンタル料金はそれぞれ異なるが、華山では本体とバッテリー2個がセットで1日あたり200元(約4000円)。泰山では、ふもとの紅門から山の中腹の中天門まで、あるいは中天門からさらに山を登った南天門までの各区間において、バッテリー1個につき80元(約1600円)で提供されている。

四川省の峨眉山風景区で試験運用する外骨格ロボットサービス(写真:新華社)

山岳観光地の新インフラに? 外骨格レンタルが広がる理由

泰山が導入した外骨格ロボットを例に挙げると、装備全体の重量はわずか1.8キログラム、バッテリー駆動時間は3~5時間だ。AI技術を駆使して人体の下肢の動作傾向を高精度に検知し、タイムリーで自然なアシストを提供する仕組みだ。これにより登山客の足への負担を効果的に軽減され、さくさくと登ることから登山時間の40%程度の短縮を実現する。泰山の参道は階段状に整備されており、昇り降りしながら大自然の景観を体感し、途中の寺社建築を巡ったりと、本来の参拝登山が体験できる。これまでは階段での昇り降りが厳しいと多くの人がロープウェーを使うしかなかったが、体力に自信のない登山者にも新たな選択肢ができた。

中国の山岳観光地では、依然としてシャトルバスやケーブルカー、ロープウェーなどの交通インフラが未整備なところも多い。こうした交通手段を整備するには億元単位の巨額投資が必要となる。だが近年、中国経済の減速により観光客の消費意欲は鈍化しており、事業者側の投資判断も慎重にならざるを得ない。ある観光地の運営者によれば、その観光地が全国トップクラス、あるいは少なくとも地域で圧倒的な集客力を持っていない限り、ケーブルカーの建設や、シャトルバスの導入に1000万元(約2億円)以上の投資を確保するのは、極めて困難な状態にあるという。その中で、外骨格ロボットのレンタルサービスは、新たな選択肢として注目されている。初期投資が比較的少なく住む一方、利用者にとっては登山時の負担軽減や満足度向上につながる手段として一定の効果を発揮している。

「若返りツール」として高齢者にも広がる

外骨格ロボットの登山レンタルサービスは話題になり、反応もそれなりにあった。そこで一部の観光地では登山用途に加えて、高齢者向けの散歩支援としての活用を打ち出し始めている。たとえば、足腰の衰えが見られる80代の高齢者が、外骨格ロボッを装着し、若い頃のように軽快に歩く様子が動画が公開され、注目を集めた。これは、加齢による身体機能の低下に直面する高齢者にとって、「自信を取り戻せる」「再び自由に動ける」を感じさせる“若返りツール”として映るだろう。実際、SNSではこうした動画に「これはどこで買えるの?車椅子よりずっといい!」「母のために買って、母が使っていない時に登山に使わせてもらおう!」といったコメントが書き込まれていて、単なる若年層のハイテク製品への好奇心にとどまらず、高齢者やその家族が外骨格ロボットに関心が高いことがうかがえる。高齢化が進む中、外骨格ロボットは新たな成長市場としてのポテンシャルを秘めていると言えるだろう。

介護スタッフが絶望的に不足する中国、ハイテクで高齢者対策

2024年末時点で、中国における60歳以上の人口は総人口の22%の3億1000万人余りいて、今後も増えていく見通しだ。こうした中、高齢者の「若返り」や生活の質向上に関連する製品やサービスに対する関心が高まっており、関連ニュースの露出も年々増えている。。国際ロボット連盟(IFR)によると、中国の高齢者介護ロボット市場規模は、2020年時点で約38億元(約760億円)だったのが、2024年には約79億元(約1600億円)に倍増した。今後も年平均15%前後の急成長を続け、2030年には約183億元(約3660億円)に達すると予測されている。また、近年は中国企業の海外進出も加速しており、海外の高齢者に目を向ければ2030年には世界全体の高齢者は14億人に達すると見込まれている。

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量産体制はこれから コストも課題‥

この外骨格ロボットだが、中国・海外を問わず、いずれの企業も生産能力が限られており、大規模な量産体制には至っていない。泰山で導入されたモデルは深圳肯綮科技(Kenqing Technology)製であり、同創業者の于雲波氏は、急増する受注に対応するため、5500平方メートル規模の新工場を開設し、生産ラインを拡充する方針を明らかにしている。

品質や性能面についても、依然として課題が残る。中関村IoT産業連盟の袁帥副秘書長によれば、「現段階では、外骨格ロボット製品は特定の分野への応用と検証が進んでいるものの、耐久性、快適性、知能化などの面でまだ改善の余地があり、本格的な普及と大規模商用化には一定の距離がある」と指摘する。また「製造コストは依然として高く、多くの潜在的ユーザーは外骨格ロボットの機能や利点を十分に理解しておらず、安全性にも懸念を抱いていることから、市場はなお慎重な姿勢を崩していない」との見方を示した。

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コスト面では、上海傲鯊智能(ULS Robotics)の民生用外骨格ロボットを、5000元〜1万元(約10万〜約20万円)で投入する計画を進めている。同社の徐振華CEOは、「産業分野で成熟したセンサーやソフトウェア、各種ハードウェアの技術を民生用途に転用し、設計を最適化することで、小型、軽量化と価格の引き下げを図る」としている。

外骨格ロボット製品開発メーカーは他にも複数ある。今後、各社が技術改良を通じて、より手頃で軽く小さく扱いやすい製品の早期登場が期待される。

ULS Robotics
傲鯊智能の製品

(文:山谷剛史)

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