人間工学とスマート化でオフィス家具を再定義、アマゾン発ブランド「BESTQI」が示す“製品で勝負する”哲学

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テレビスタンドの開発からスタートした深圳発のスマート家具・オフィス用品メーカー「倍思奇(BESTQI)」が、独自の差別化戦略で海外市場を開拓している。価格競争には加わらず、自社で研究開発したエルゴノミクス(人間工学)技術とスマート設計を武器に、家庭・オフィス用家具の中・高級価格帯市場に参入した。

BESTQIは2016年に設立され、家具・オフィス用品の設計や開発、販売、サービスを手掛けている。中国のサプライチェーンを活用し、米アマゾンを起点にグローバル展開を開始。自社サイトに加え、住宅用品EC「Wayfair」や米ウォルマートなどの販路を拡大し、北米・欧州市場で堅調な売上を伸ばしている。

2024年の売上高は5億ドル(約770億円)を超え、25年には7億ドル(約1000億円)に達すると見込まれている。その成長を支えるのは、エンジニア出身の創業者・呂亜奇氏が主導する製品開発と、ユーザー体験を重視した設計思想である。

同質化という窮地からの脱出

海外で生活していた呂氏が中国に帰国してBESTQIを創業したのは、アマゾンを中心に越境ECが急拡大していた2010年代後半。多くの業者は仕入れ値の安い中国のノーブランド品を海外向けに高く売って利益を得ていたが、呂氏は研究開発と自社ブランド構築への投資を選んだ。

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2017年にエルゴノミクスを取り入れたテレビスタンドを初めて発売した。画期的な構造と軽量化設計が評価され、米アマゾンでベストセラー・ランキングの第2位に食い込み、1カ月の売上高は80万ドル(約1億2000万円)を超えた。「このテレビスタンドは開発チームが2年間心血を注いで開発した製品で、設計から素材、ユーザー体験まであらゆる点で競合製品より優れている」という。

呂氏が自分のことを「営業は苦手だが、製品のことは誰よりも分かっている」と話す。エンジニアとしての思考のおかげで、同社の製品は低価格競争が繰り広げられる市場でも抜きんでた存在となった。

テレビスタンドで手応えを感じたBESTQIは、勢いに乗った形でモニタースタンドや昇降式デスク、それに合わせたエルゴノミクスチェア、移動型テレビスタンドも開発した。デスク・椅子・スタンド・移動式スタンドまでラインアップを徐々に充実させ、リビングや書斎、小規模オフィスのニーズに応えた。これらの製品も、アマゾンでのカテゴリ別販売ランキングのトップとなった。

2021年には大きな転機を迎える。IDG資本(IDG Capital)と中国の電子機器大手のアンカー(Anker)が共同で同社に出資、「本気で製品を作る起業家をようやく見つけた」と評価された。

BESTQIはその後、世界展開を加速させた。主力ブランドはエルゴノミクスに基づく設計をメインに打ち出し、サブブランドの「ERGOAV」「HUANUO」「PERLEGEAR」などは昇降式デスクやテレビスタンドといった細分化市場を狙った。製品は欧米や日本など成熟した市場で販売され、東南アジアや中東にも広がった。

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「思考する」家具

世界のオフィス家具市場規模は575億ドル(約8兆7000億円)をに達するが、長らく革新が乏しい業界でもある。高級オフィスチェアのハーマン・ミラーや家具大手イケアなどの製品は機能が限定され、スマート化もあまり進んでいなかった。

BESTQIは、直感的かつ手軽に調節できる製品を目指した。スタンドやモニターアームはトルクバランスと動きの滑らかさに重点を置き、狭い空間で画面の角度や画面との距離を調整する際の抵抗感を低減した。昇降式デスクとチェア類は、安定した耐荷重、振動の少ない静音設計がポイントで、長時間の使用に適している。

2023年からは、スマートAIプラットフォームを自社開発し、音声制御やセンサー制御をコア商品に組み込んだ。例えば、音声による指示で向きを変えるテレビスタンドや、音声により高さ調整が可能で、立っているとき、座っているときに最適の高さを記憶する昇降式デスクなどを開発。「よく使う設定」をワンタッチあるいは一言で実行できるようにして、手動で微調整する手間を減らした。

今後、AI音声モジュールを椅子や照明器具などシリーズすべての製品に組み込む計画を進める。呂氏は、今のところスマート機能に対するニーズは市場全体の2%程度に過ぎないものの、将来的には20%にまで拡大し、業界の利益を生み出す主要な収入源になると考えている。

製品力こそ最大の競争力

BESTQIの成功は、製品そのものこそが顧客を引き寄せる最大の要素であることを証明した。自社開発を続けて数々のコア技術開発に取り組み、欧州市場ではプレミア価格で製品が販売されるまでになっている。AV機器用スタンド類の市場シェアは40%近くになる。

今後の3年は、2桁成長を続けることを目標に掲げ、エルゴノミクスとスマート化の可能性を広く深く探っていく方針だという。そして、製品全体のスマート化、ハイエンド商品への注力、オフライン販売の強化、という3つの方針を並行して推進する。

呂氏は、越境EC頼みで成長する時代は終わったと指摘し、「これから本当に使いやすく、信頼されるブランドが生き残る」と語る。

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*1ドル=約153円で計算しています。

(翻訳・36Kr Japan編集部)

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