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2025年10月29日に開幕した「Japan Mobility Show 2025(旧・東京モーターショー)」で、中国電気自動車(EV)のBYD(比亜迪)は同社初となる軽EV「RACCO(ラッコ)」を発表した。
BYDは世界最大のEV(BEV・PHEV含む)メーカーとして知られる。日本市場では、2015年に電気バス事業からスタート、これまでに約500台を全国の事業者へ納入し、国内電動バス市場で約70%のシェアを誇る。2023年1月からは乗用BEVの販売も開始し、SUV「アット3(元PLUS)」、ハッチバック「ドルフィン(海豚)」 、セダン「シール(海豹)」、SUV「シーライオン7(海獅07)」を順次投入。2025年10月時点での累計販売台数は7123台に達している。
今回のJapan Mobility Showでは、BYDの発表内容に国内外から多くの注目が集まった。最も目玉となるのはBYD初の軽規格BEVだ。開発自体は2025年4月ごろに明らかにされていたが、実は2023年の同ショーでのために来日した王伝福CEOが日本の街中を走る軽自動車に興味を持ったことがきっかけとのこと。もしそれが事実なら、海外メーカーにとって難しいであろう日本独自規格のBEVをわずか2年ほどで開発したことになり、BYDの恐るべき企画スピードを感じさせる。

「ラッコ」という車名は、絶滅危惧種でもあるイタチ科の哺乳類に由来する。BYD Auto Japan株式会社の東福寺厚樹社長は発表会で「地球の温度を1度下げる」という企業理念を込めたネーミングだと説明した。
ラッコのボディサイズは全長3395 mm x 全幅1475 mm x 全高1800 mmと、軽ハイトワゴンと同等。参考までに、ホンダのN-BOXは全高が1790 mm(4WDは1815 mm)、ダイハツのタントは1755 mm(4WDは1775 mm)となる。駆動方式は前輪駆動で、バッテリー容量は明かされていないものの、航続距離の異なる2種類のリン酸鉄リチウムイオン電池を用意するとしている。
軽規格という制約がある以上は他社の軽ハイトワゴンとシルエットが似てしまうが、より詳しく見ると随所でBYDらしさを感じさせる要素がある。「Cの字」ヘッドライトや水平基調の左右一体テールライト、そしてリアの光るBYDエンブレムはラッコ独自のアピールポイントだが、それに加えてBEVであることに起因するグリルレスなフロントマスクが洗練された印象を与える。後部ドアはライバル車種にならってもちろんスライドドア、前後のドアハンドル部が合わさって楕円形を描く意匠からはラッコの統一されたデザインセンスを感じ取った。


デザインを担当したのは、元々ホンダの中国法人に在籍していた中国人デザイナーのKai氏だという。ラッコのエクステリアデザインがBYD移籍後に初めて任されたプロジェクトで、日本特有の美学を意識しながら控えめな造形を目指したという。インテリアのデザインチームはまた別に存在するが、そこと密に連携したことで内外装で統一されたデザイン言語を実現したようだ。
インテリアはまだプロトタイプなので量産モデルでは変わる可能性があるものの、コストを抑えながらもデザインと実用性を両立させている印象だ。ステアリングは既存のBYD車種同様にうねりを効かせた有機的な形状をしており、ヒーター機能を有していることがハンドル上のボタンからわかる。
中央にはセンターディスプレイが設置されているが、ここまで大型のものを持つ他社の軽ハイトワゴンは存在しない。ディスプレイ直下にはエアコンやメディアの操作に加え、回生ブレーキの強弱調整、運転席・助手席シートヒーター、自動パーキングブレーキ、そしてハザードスイッチなどのボタンが確認できる。シフトセレクターは垂直に伸びるレバー形状のものを運転席側に寄った位置に設けており、とても握りやすそうだ。


BYD車種は元から他の中国ブランドに比べて物理ボタンが多くて操作しやすいが、ラッコでは限られた空間を最大限活かすために操作系をよりまとまった場所に配置している。物理ボタンを全廃するという見せかけの先進性ではなく、ユーザーが安全に、便利に操作できる利便性を重視しているのがBYDの素晴らしいところだ。その他では、軽自動車として初の運転席パワーシートを装備しているのには驚かされた。助手席側までは確認できなかったが、既存モデルでは助手席にもパワーシートを装備していることを考慮するとラッコも例外ではないだろう。
ラッコは日本専用設計として開発されたが、日本国外からの関心も高い。筆者と親しい中国の自動車メディアは、「外観は没個性だが内装の完成度は高い」との評価もあり、価格次第で日本市場の競争力が左右されると指摘されている。また、右ハンドル設計は東南アジア諸国への投入も不可能ではなく、もし仮に中国本国で発売されるとなれば一定の人気は得るだろうとした。
ラッコは日本で2026年夏ごろの発売を予定しており、それまでに細かい調整や設計変更が続くと見られる。価格に関しては200万円を切ることはかなり難しそうなので、政府のCEV補助金込みの乗り出し価格が200万円台前半に収まれば、大きな注目を集めることは間違いないだろう。
(文:中国車研究家 加藤ヒロト)
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